(旧版)高血圧治療ガイドライン2009
第2章 血圧測定と臨床評価
POINT 2a |
【血圧測定】
- 診察室血圧測定はカフを心臓の高さに保ち,安静座位の状態で測定する。1-2分の間隔をおいて複数回測定し,安定した値(測定値の差が5mmHg未満を目安)を示した2回の平均値を血圧値とする。高血圧の診断は,少なくとも2回以上の異なる機会における診察室血圧値に基づいて行う。
- 診察室血圧の測定は,標準的には水銀血圧計を用いた聴診法で行うが,自動血圧計の使用も認められている。
- 家庭血圧,および自動血圧計による24時間自由行動下血圧の測定は,高血圧,白衣高血圧,仮面高血圧の診断と薬効,薬効持続時間の判断に有用であり,日常診療の参考とする。
- 家庭血圧測定には,上腕カフ血圧計を用いる。
- 高血圧基準値は診察室血圧,24時間自由行動下血圧,家庭血圧で異なる。診察室血圧値は140/90mmHg以上,家庭血圧値は135/85mmHg以上,24時間自由行動下血圧値は130/80mmHg以上の場合に高血圧として対処する。
- 家庭血圧の正常血圧基準は,125/80mmHg未満である。
- 高血圧診療では,仮面高血圧,白衣高血圧の存在を常に意識する。これに加え治療抵抗性高血圧の診断と治療のために,家庭血圧測定あるいは,24時間自由行動下血圧測定は不可欠である。
- 高血圧診療では,血圧日内変動パターン(non-dipper,riser,dipperなど)や夜間血圧,早朝血圧,職場血圧などに対しても注目する。
1.血圧測定
1)診察室(医療環境下)血圧測定
高血圧と診断するには,正しい血圧測定が必要である。血圧の測定は診察室(外来)においては水銀血圧計,アネロイド血圧計を用いた聴診法,あるいは水銀血圧計を用いた聴診法と同程度の精度を有する自動血圧計を用い,カフの位置を心臓の高さに保って測定する。近年では,水銀の環境汚染の問題から,ことにヨーロッパでは水銀血圧計の使用は避けられる傾向にある。聴診法による標準的測定法を表2-1に示した。診察室血圧は今日なお,高血圧診療のスタンダードとされているが,さまざまな点で,その臨床的価値に疑問が投げかけられている。表2-1の指針に従った厳密な診察室での測定は,この指針を無視して得られた診察室血圧より,真の血圧を反映し,後述の自由行動下血圧や家庭血圧と少なくとも同等な臨床的価値を有することが知られている53),54)。問題はこうした指針に従った血圧測定が,健診や診療の現場でめったに行われないことにある55)。そして多くの場合,測定精度は軽視,あるいは無視されている56)。
本ガイドラインは,まず診察室血圧の測定に際し,表2-1に示された測定法の指針に従うことを強く推奨する。ただし聴診による血圧測定では,水銀柱の読みが0や5に偏るという末端数字傾向(terminal digit preference)の問題や,聴診間隙の問題は残る。
その他の診察室血圧測定上の注意を以下に記す。成人の血圧測定ではカフのゴム嚢の大きさは幅13cm,長さ22-24cmのものが通常用いられているが,国際的にはゴム嚢の幅は上腕周囲の40%以上あり,かつ,長さは少なくとも上腕周囲を80%以上取り囲むものが推奨されている。
下肢動脈(大腿動脈,膝窩動脈,足背動脈)の拍動が微弱であるか触知しない場合,閉塞性動脈硬化症,大動脈縮窄症(特に若年者)などを除外するために下肢血圧を測定する。下肢血圧の測定は足首に上腕用カフを巻き,足背動脈や後脛骨動脈で聴診する方法と,大腿にカフを巻き(カフのゴム嚢の幅は大腿直径より20%広いものとし,15-18cmのものを用いる),膝窩動脈で聴診する方法がある。
不整脈(期外収縮)のある患者では聴診法による血圧測定は収縮期血圧で過大評価,拡張期血圧で過小評価をもたらす56)。3回以上の繰り返しの測定により不整脈の影響を除外する必要がある。心房細動においては正確な血圧測定は困難である場合も多いが,徐脈傾向がなければ,カフ・オシロメトリック法では,連続的な圧波の滑らかさが失われないかぎり,比較的平均的な収縮期血圧,拡張期血圧の測定値が得られる56)。この場合も3回以上の繰り返しの測定が必要である。
妊娠中の女性では,往々にして,コロトコフ音が0mmHgまで聴取される場合がある。この場合,コロトコフ第IV相(音の減弱)をもって拡張期血圧と判定する。
運動負荷時の間接的血圧測定法で,高精度かつ安定したものはまだない。また一般的な高血圧診療における血圧情報として,運動負荷時の血圧評価の根拠は乏しい56)。
血圧はきわめて変動しやすく,通常の測定環境においても,著明な血圧上昇を示すことがある。したがって,高血圧の診断は少なくとも2回以上の異なる機会における血圧値に基づいて行うべきである。
本ガイドラインは,まず診察室血圧の測定に際し,表2-1に示された測定法の指針に従うことを強く推奨する。ただし聴診による血圧測定では,水銀柱の読みが0や5に偏るという末端数字傾向(terminal digit preference)の問題や,聴診間隙の問題は残る。
その他の診察室血圧測定上の注意を以下に記す。成人の血圧測定ではカフのゴム嚢の大きさは幅13cm,長さ22-24cmのものが通常用いられているが,国際的にはゴム嚢の幅は上腕周囲の40%以上あり,かつ,長さは少なくとも上腕周囲を80%以上取り囲むものが推奨されている。
下肢動脈(大腿動脈,膝窩動脈,足背動脈)の拍動が微弱であるか触知しない場合,閉塞性動脈硬化症,大動脈縮窄症(特に若年者)などを除外するために下肢血圧を測定する。下肢血圧の測定は足首に上腕用カフを巻き,足背動脈や後脛骨動脈で聴診する方法と,大腿にカフを巻き(カフのゴム嚢の幅は大腿直径より20%広いものとし,15-18cmのものを用いる),膝窩動脈で聴診する方法がある。
不整脈(期外収縮)のある患者では聴診法による血圧測定は収縮期血圧で過大評価,拡張期血圧で過小評価をもたらす56)。3回以上の繰り返しの測定により不整脈の影響を除外する必要がある。心房細動においては正確な血圧測定は困難である場合も多いが,徐脈傾向がなければ,カフ・オシロメトリック法では,連続的な圧波の滑らかさが失われないかぎり,比較的平均的な収縮期血圧,拡張期血圧の測定値が得られる56)。この場合も3回以上の繰り返しの測定が必要である。
妊娠中の女性では,往々にして,コロトコフ音が0mmHgまで聴取される場合がある。この場合,コロトコフ第IV相(音の減弱)をもって拡張期血圧と判定する。
運動負荷時の間接的血圧測定法で,高精度かつ安定したものはまだない。また一般的な高血圧診療における血圧情報として,運動負荷時の血圧評価の根拠は乏しい56)。
血圧はきわめて変動しやすく,通常の測定環境においても,著明な血圧上昇を示すことがある。したがって,高血圧の診断は少なくとも2回以上の異なる機会における血圧値に基づいて行うべきである。
表2-1.診察室血圧測定法 |
1.装置
2.測定時の条件
3.測定法
4.測定回数
5.判定
6.その他の注意
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- *1最近では水銀の環境への影響,水銀柱の精度管理,アネロイド血圧計の精度の問題などから,電子血圧計の使用が勧められている
水銀計の代わりに電子式のアナログ柱を用いたハイブリッド血圧計の入手も可能である
自動巻き付け式血圧計を待合室などで使用する場合,十分な指導と管理のもとで測定されなければ大きな誤差が生じる - *2安定した値とは,目安として測定値の差がおよそ5mmHg未満の近似した値をいう
2)非医療環境下血圧測定
診察室以外での血圧測定法には,自由行動下血圧測定と,家庭血圧測定がある。自由行動下血圧と家庭血圧には診察室血圧と同等か,それ以上の臨床的価値があると評価されることが多い。一方,自由行動下血圧と家庭血圧は,それぞれ異なった血圧情報としての価値を有する(表2-2)
表2-2.各血圧測定法の特性 |
診察室血圧 | 自由行動下血圧 | 家庭血圧 | |
測定頻度 | 低 | 高 | 高 |
測定標準化 | 困難 | 不要 | 可 |
短期変動性の評価 | 不可 | 可 | 不可 |
概日変動性の評価 (夜間血圧の評価)* | 不可 | 可 | 可* |
薬効評価 | 可 | 適 | 最適 |
薬効持続時間の評価 | 不可 | 可 | 最良 |
長期変動性の評価 | 不可 | 不可 | 可 |
再現性 | 不良 | 良 | 最良 |
白衣現象 | 有 | 無 | 無 |
*夜間就眠時測定可能な家庭血圧計が入手可能である |
(1)家庭血圧測定
家庭血圧の測定は,患者の治療継続率を改善するとともに,降圧薬治療による過剰な降圧,あるいは不十分な降圧を評価するのに役立つ。ことに服薬前の測定は,薬効の持続時間(morning/evening比:M/E比)の評価に有用である57)。また,白衣高血圧の診断に有用である。家庭血圧測定は朝の高血圧や仮面高血圧の診断にも有用である。これと関連して,家庭血圧は治療抵抗性高血圧の診断と治療方針の決定にきわめて有用である58)。この結果,家庭血圧測定の医療経済効果はきわめて高いことが報告されている59),60)。本邦における家庭血圧測定の普及は著しい。2004-2005年の全国調査によれば,臨床医の90%は患者に家庭血圧測定を勧め61),一方,高血圧患者の77%はすでに家庭血圧計を所有している62)。家庭血圧測定条件に関しては日本高血圧学会より指針が提示されている63)。家庭血圧測定には,ある個体で聴診法との較差が5mmHg以内であることが確認された上腕カフ・オシロメトリック装置を用いる。朝は起床後1時間以内,排尿後,座位1-2分の安静後,降圧薬服用前,朝食前に,また晩は就床前,座位1-2分の安静後に測定することが推奨されている(表2-3)。就床前の測定は,飲酒や入浴の影響を受けることもあるが,血圧測定のコンプライアンスを高めることが重要であり,飲酒や入浴の影響が考えられる時間帯での測定であれば,その旨を血圧値と同時に記録する。その他,薬効評価の目的で,夕食前,夕の服薬前測定なども適宜指示する。家庭血圧は朝晩1機会にそれぞれ1回の測定でも,長期間測定することで十分な臨床的価値が保たれるが,通常,患者は1機会に複数回測定することが多い64)。一方,1機会にあまりに多くの測定頻度を求めると,測定の継続率は低下する64)。日常診療では1機会に複数回測定されたそれぞれの血圧値,平均値,変動性も適宜評価されなければならない63),64)。したがって,測定された値はすべて記載され報告されることが勧められている63),64)。家庭血圧の臨床評価に,測定された値のうちどの値を用いるかについての同意は得られていない。しかし後述する世界の高血圧診療ガイドラインにおいて,家庭血圧の基準値の根拠となった多くの疫学研究の成績は,1機会に1回の測定値の平均値から得られている。また1機会の測定値の平均値に高い再現性のあること,また1機会1回の測定の平均値と複数回測定の平均値との差がわずかしかないことが本邦の研究で証明されている65)。さらに1回のみの家庭血圧測定値さえ診察室血圧よりも予後予測能の高いことが示されている66)。
日本高血圧学会の指針においては,共通の臨床評価には「1機会の第1回目の測定値の朝晩それぞれ長期間の平均値を用いる」としている63)。したがって,家庭血圧による高血圧,正常血圧の判定には1機会第1回目の測定値の朝晩それぞれの平均値(週5-7回)を用いることを基本とするが,1機会複数回(1-3回)の測定値の個々,あるいはすべてのある期間の平均値も十分な臨床的価値を有することから,本ガイドラインでは測定者がすべての測定値を記録することを強く推奨する。家庭血圧は長期にわたる多数回の測定が可能であり,季節変動のような長期の血圧変動性の評価にも有用である67)。指用の血圧計は不正確である。手首血圧計は使用が容易であるが,水柱圧補正が困難であること,また手首の解剖学的特性から動脈の圧迫が困難である場合があり不正確になることが多く68),現状では家庭血圧測定には,上腕用を使用する69),70)。カフ・オシロメトリック法による上腕家庭血圧測定計の精度は,本邦の製作社の装置であるかぎり大きな問題はない。各家庭血圧計の精度検定の成績は,http://www.dableducational.orgあるいはhttp://www.bhsoc.org/blood_pressure_list.stmに記載されている。
家庭血圧は診察室血圧値よりも優れた生命予後の予知因子であると報告されており71),72),家庭血圧値と心血管病発症および生命予後に関する臨床成績も集積していることから73),74),75),76),77),78),今後さらなる臨床での応用が期待される。家庭血圧値は診察室血圧値よりも一般に低値を示す傾向にある。近年,家庭血圧値による血圧分類は一般化しつつある。JNC-VI79),JNC750)およびESH-ESC 2003ガイドライン80)では,欧米の断面的調査や本邦の大迫研究を根拠に,135/85mmHgが高血圧の基準値であるとしている。一方,1999年のWHO/ISHガイドラインは,125/80mmHgが診察室血圧140/90mmHgに相当するとしている81)。したがって,125/80mmHg未満は正常血圧と考えられる。家庭血圧を用いた前向き観察研究である大迫研究において,総死亡の最も低い点から相対リスクが10%上昇する点を高血圧とすると,その値が137/84mmHgであることが示された82)。一方,心血管病死亡の相対リスクの最小となる家庭血圧値は120-127/72-76mmHgであり,138/83mmHg以上で相対リスクが有意に上昇することから83),JSH2004では世界のガイドラインと共通性をもたせ,135/85mmHgを家庭血圧の高血圧基準とした84)。一方,ESH-ESC 2007ガイドラインでは130-135/85mmHgを家庭血圧値高血圧基準とし,収縮期血圧に幅をもたせている85)。しかしながら,JSH2004の基準値も認識率が上昇しつつあることから61),62),JSH2009ガイドラインにおいても,135/85mmHgを高血圧基準とし(表2-4),125/80mmHgを正常基準とする。したがって,125/80mmHg以上と135/85mmHg未満の間は正常血圧とはいえず,少なくとも正常高値以上の血圧域にあることを認識すべきである。
なお,家庭血圧の正常基準は家庭血圧における降圧目標レベルとは異なる。後者を得るには,家庭血圧に基づく介入試験の成績をまたなければならないが86),診察室血圧と家庭血圧の関係から得られる,家庭血圧による降圧目標値を暫定的に表2-5に示す(診察室血圧の降圧目標の詳細は第3章 3.治療対象と降圧目標 2)降圧目標を参照)。
日本高血圧学会の指針においては,共通の臨床評価には「1機会の第1回目の測定値の朝晩それぞれ長期間の平均値を用いる」としている63)。したがって,家庭血圧による高血圧,正常血圧の判定には1機会第1回目の測定値の朝晩それぞれの平均値(週5-7回)を用いることを基本とするが,1機会複数回(1-3回)の測定値の個々,あるいはすべてのある期間の平均値も十分な臨床的価値を有することから,本ガイドラインでは測定者がすべての測定値を記録することを強く推奨する。家庭血圧は長期にわたる多数回の測定が可能であり,季節変動のような長期の血圧変動性の評価にも有用である67)。指用の血圧計は不正確である。手首血圧計は使用が容易であるが,水柱圧補正が困難であること,また手首の解剖学的特性から動脈の圧迫が困難である場合があり不正確になることが多く68),現状では家庭血圧測定には,上腕用を使用する69),70)。カフ・オシロメトリック法による上腕家庭血圧測定計の精度は,本邦の製作社の装置であるかぎり大きな問題はない。各家庭血圧計の精度検定の成績は,http://www.dableducational.orgあるいはhttp://www.bhsoc.org/blood_pressure_list.stmに記載されている。
家庭血圧は診察室血圧値よりも優れた生命予後の予知因子であると報告されており71),72),家庭血圧値と心血管病発症および生命予後に関する臨床成績も集積していることから73),74),75),76),77),78),今後さらなる臨床での応用が期待される。家庭血圧値は診察室血圧値よりも一般に低値を示す傾向にある。近年,家庭血圧値による血圧分類は一般化しつつある。JNC-VI79),JNC750)およびESH-ESC 2003ガイドライン80)では,欧米の断面的調査や本邦の大迫研究を根拠に,135/85mmHgが高血圧の基準値であるとしている。一方,1999年のWHO/ISHガイドラインは,125/80mmHgが診察室血圧140/90mmHgに相当するとしている81)。したがって,125/80mmHg未満は正常血圧と考えられる。家庭血圧を用いた前向き観察研究である大迫研究において,総死亡の最も低い点から相対リスクが10%上昇する点を高血圧とすると,その値が137/84mmHgであることが示された82)。一方,心血管病死亡の相対リスクの最小となる家庭血圧値は120-127/72-76mmHgであり,138/83mmHg以上で相対リスクが有意に上昇することから83),JSH2004では世界のガイドラインと共通性をもたせ,135/85mmHgを家庭血圧の高血圧基準とした84)。一方,ESH-ESC 2007ガイドラインでは130-135/85mmHgを家庭血圧値高血圧基準とし,収縮期血圧に幅をもたせている85)。しかしながら,JSH2004の基準値も認識率が上昇しつつあることから61),62),JSH2009ガイドラインにおいても,135/85mmHgを高血圧基準とし(表2-4),125/80mmHgを正常基準とする。したがって,125/80mmHg以上と135/85mmHg未満の間は正常血圧とはいえず,少なくとも正常高値以上の血圧域にあることを認識すべきである。
なお,家庭血圧の正常基準は家庭血圧における降圧目標レベルとは異なる。後者を得るには,家庭血圧に基づく介入試験の成績をまたなければならないが86),診察室血圧と家庭血圧の関係から得られる,家庭血圧による降圧目標値を暫定的に表2-5に示す(診察室血圧の降圧目標の詳細は第3章 3.治療対象と降圧目標 2)降圧目標を参照)。
表2-3.家庭血圧の測定 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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*あまり多くの測定頻度を求めてはならない。 注1:家庭血圧測定に対し不安をもつ者には測定させるべきではない 注2:測定値に一喜一憂する必要のないことを指導しなければならない 注3:測定値に基づき勝手に降圧薬を変更してはならない旨を指導しなければならない |
表2-4.異なる測定法における高血圧基準(mmHg) |
収縮期血圧 | 拡張期血圧 | |
診察室血圧 | 140 | 90 |
家庭血圧 | 135 | 85 |
自由行動下血圧 24時間 昼間 夜間 | 130 135 120 | 80 85 70 |
表2-5.降圧目標 |
診察室血圧 | 家庭血圧 | |
若年者・中年者 | 130/85mmHg未満 | 125/80mmHg未満 |
高齢者 | 140/90mmHg未満 | 135/85mmHg未満 |
糖尿病患者 CKD患者 心筋梗塞後患者 | 130/80mmHg未満 | 125/75mmHg未満 |
脳血管障害患者 | 140/90mmHg未満 | 135/85mmHg未満 |
注:診察室血圧と家庭血圧の目標値の差は,診察室血圧140/90mmHg,家庭血圧135/85mmHgが,高血圧の診断基準であることから,この二者の差を単純にあてはめたものである。 |
(2)24時間自由行動下血圧測定
カフ・オシロメトリック法による精度の優れた自動血圧計が開発され87),88),89),非観血的に15-30分間隔で24時間自由行動下血圧測定(Ambulatory Blood Pressure Monitoring:ABPM)することによって診察室以外の血圧情報が得られ,24時間にわたる血圧プロフィール,24時間,昼間,夜間,早朝などの限られた時間帯における血圧情報が得られるようになった。ABPMの普及に対し,本邦でも『24時間血圧計の使用(ABPM)基準に関するガイドライン』が刊行されている90)。通常,血圧は覚醒時に高値を示し,睡眠時に低値を示す。また,多数の測定値が得られることにより,自動血圧計で24時間高頻度に測定した血圧値の平均値の方が診察室血圧よりも,高血圧性臓器障害の程度とより相関していること,および治療による臓器障害の抑制・改善とも密接に相関していることが示されている53),91),92)。また,一般集団,高齢者集団あるいは高血圧集団において,ABPMは診察室血圧以上に心血管病発症を予測できる54),93),94),95),96),97),98)。
ABPMは白衣高血圧の診断に特に有用であり,白衣高血圧が疑われる例およびコントロール不良高血圧,治療抵抗性高血圧の診断に適応となる。ABPMによる正常血圧の定義はなされていないが,本邦の18歳から93歳までの正常血圧者634名においてABPMを測定した24時間平均値±標準偏差は,男性119±9/70±6mmHg,女性110±10/64±7mmHgであった99)。JNC-VI,JNC7では日中の覚醒時血圧が135/85mmHg以上,睡眠時血圧が120/75mmHg以上を高血圧と提唱している50),79)。また,1999年WHO/ISHのガイドライン81)およびESH-ESC 2003ガイドライン80)では24時間血圧125/80mmHgが外来血圧の140/90mmHgに相当するとしている。また,大迫研究を含む近年の国際協同データベースによれば,24時間のABPの基準値は130/80mmHg,昼間ABPの基準値は140/85mmHg,夜間ABPの基準値は120/70mmHgであった100)。以上のような報告より,24時間ABPM平均値で130/80mmHg以上の場合には高血圧として対処する(表2-4)。また昼間ABPM平均値で135/85mmHg以上,夜間ABPM平均値で120/70mmHg以上を高血圧とする基準は,ESH-ESC 2007ガイドラインと同様である85)。
近年ABPMの短期変動性の増大が心血管病の危険因子となることが明らかにされ,ABPMの新たな臨床的意義として注目されている101)。ABPMは2008年4月より保険適用となったことから,より広汎な使用とその診断,治療における役割が期待されている。
ABPMは白衣高血圧の診断に特に有用であり,白衣高血圧が疑われる例およびコントロール不良高血圧,治療抵抗性高血圧の診断に適応となる。ABPMによる正常血圧の定義はなされていないが,本邦の18歳から93歳までの正常血圧者634名においてABPMを測定した24時間平均値±標準偏差は,男性119±9/70±6mmHg,女性110±10/64±7mmHgであった99)。JNC-VI,JNC7では日中の覚醒時血圧が135/85mmHg以上,睡眠時血圧が120/75mmHg以上を高血圧と提唱している50),79)。また,1999年WHO/ISHのガイドライン81)およびESH-ESC 2003ガイドライン80)では24時間血圧125/80mmHgが外来血圧の140/90mmHgに相当するとしている。また,大迫研究を含む近年の国際協同データベースによれば,24時間のABPの基準値は130/80mmHg,昼間ABPの基準値は140/85mmHg,夜間ABPの基準値は120/70mmHgであった100)。以上のような報告より,24時間ABPM平均値で130/80mmHg以上の場合には高血圧として対処する(表2-4)。また昼間ABPM平均値で135/85mmHg以上,夜間ABPM平均値で120/70mmHg以上を高血圧とする基準は,ESH-ESC 2007ガイドラインと同様である85)。
近年ABPMの短期変動性の増大が心血管病の危険因子となることが明らかにされ,ABPMの新たな臨床的意義として注目されている101)。ABPMは2008年4月より保険適用となったことから,より広汎な使用とその診断,治療における役割が期待されている。
(3)診察室血圧測定,家庭血圧測定,24時間自由行動下血圧測定,その他の方法で得られる情報
[1]白衣高血圧・白衣現象(効果)
医療環境下(外来など)で測定した血圧が常に高血圧で,非医療環境下で測定した血圧(家庭血圧,ABPM)は常に正常である状態をいう。したがって,白衣高血圧・白衣現象の診断に家庭血圧測定,ABPMは不可欠である。白衣高血圧は未治療者における定義である。診察室血圧と家庭血圧の差は治療中の対象でも認められる。この現象を白衣現象(効果)と呼ぶ。治療中の患者で,医療環境下血圧が高血圧かつ非医療環境下血圧が正常である場合,「治療下白衣高血圧」と特定しなければならない。白衣高血圧が有害か無害かはまだ確定していないが,白衣高血圧から真性高血圧への移行の確率が高いこと102),9年の追跡で脳卒中発症リスクが持続性高血圧と同等になることが知られている103)。
医療環境下(外来など)で測定した血圧が常に高血圧で,非医療環境下で測定した血圧(家庭血圧,ABPM)は常に正常である状態をいう。したがって,白衣高血圧・白衣現象の診断に家庭血圧測定,ABPMは不可欠である。白衣高血圧は未治療者における定義である。診察室血圧と家庭血圧の差は治療中の対象でも認められる。この現象を白衣現象(効果)と呼ぶ。治療中の患者で,医療環境下血圧が高血圧かつ非医療環境下血圧が正常である場合,「治療下白衣高血圧」と特定しなければならない。白衣高血圧が有害か無害かはまだ確定していないが,白衣高血圧から真性高血圧への移行の確率が高いこと102),9年の追跡で脳卒中発症リスクが持続性高血圧と同等になることが知られている103)。
[2]仮面高血圧
白衣高血圧とは逆に,診察室血圧は正常であり,非医療環境での血圧値が高血圧状態にあるものを呼ぶ。治療者,未治療者を問わず認められる。診察室血圧では遮蔽(マスク)された高血圧という意味で仮面高血圧(masked hypertension)と呼ばれる。これにはnon-dipper,riser,モーニングサージなどの生理的な血圧日内変動の一部としての朝の血圧上昇104),105)や,降圧薬の薬効持続が不十分で,次回服用前の血圧が高血圧レベルに上昇してしまった結果の朝の高血圧が関係する106)。一般には家庭血圧測定によりとらえられる。仮面高血圧の不良な予後は明白である107),108)。職場高血圧も仮面高血圧の一型である109)。[3]早朝高血圧
早朝高血圧の厳密な定義はないが,早朝起床後の血圧が特異的に高い状況を早朝高血圧と定義できよう。家庭血圧,ABPMの測定でとらえられる絶対値としては,たとえば朝の家庭血圧が135/85mmHg以上の場合早朝高血圧といえるが,特異的に朝の血圧が高いという定義からは,たとえば朝の家庭血圧が,就寝前の家庭血圧に比べて高いという状況が見いだされなければならない。この早朝高血圧をもたらす血圧日内変動には2つの形がある。一つは夜間低値の血圧が早朝覚醒前後に急激に上昇して高血圧に至るモーニングサージ,もう一つは夜間降圧が消失したnon-dipper,あるいは夜間昇圧を示すriserに認められる早朝高血圧である。両者とも心血管病のリスクとなりうると考えられている104),105),110),111),112),113)。[4]夜間血圧
ABPMによる睡眠時血圧を夜間血圧と呼ぶ。近年では家庭血圧測定計によっても深夜睡眠時の血圧を自動的に測定することが可能になった114)。昼間の血圧レベルより10-20%夜間降圧するものを正常型(dipper)とし,0-10%の夜間降圧を示すものを夜間非降下型(non-dipper),夜間に昼間より高い血圧を示すものを夜間昇圧型(riser),および20%以上の夜間降圧を認めるものを夜間過降圧型(extreme-dipper)と分類している。non-dipper,riserの予後が不良であることは疑いない98),104),115),116),117),118)。non-dipperやriserではdipperに比較して,無症候性ラクナ梗塞,左室肥大,微量アルブミン尿などの高血圧性臓器障害を高率に認める115),116),117)。また,前向き研究においてnon-dipper群はdipper群に比較して心血管事故のリスクが高いことが示されている98),104),118)。しかしながら,本邦の高血圧患者600例以上を対象としたJ-MUBAでは,臓器障害のない例でもnon-dipperを示す例が数多くみられている119)。一方,大迫研究の成績によれば,正常血圧者においても,non-dipperの心血管事故のリスクは高い118)。このような観点から夜間血圧の臨床的意義が注目されている。extreme-dipperを示す高齢者では無症候性脳梗塞が多いとする報告120)がある反面,一般住民ではextreme-dipperのリスクはdipperと同程度であるとする報告もある104)。また夜間血圧の上昇は,直線的に心血管病のリスクを上昇させるとする大規模介入試験95)や国際協同研究の成績があり121),夜間血圧も低いことが予後の改善につながると考えられる。[5]中心血圧
中心血圧とは,一般に大動脈起始部(中心大動脈)の血圧を指す。間接的・非侵襲的な中心血圧の測定法として,これまでにアプラネーション・トノメトリで記録した橈骨動脈圧波形を伝達関数によって大動脈圧波形に変換するか122),頸動脈圧波形を大動脈波形の代用として記録し,上腕血圧で補正する方法が用いられてきた123)。また,橈骨動脈圧波形の後期(第2)ピーク圧から線形式を用いて推定する方法も用いられている124)。動脈系における圧波の伝播と反射の現象により,中心血圧は従来用いられてきた上腕血圧と異なった値を示すことが知られる。中心血圧や波反射の指標である増幅係数(augmentation index:AI)は,心血管危険因子の存在下で上昇するとともに,心臓など主要臓器にかかる圧負荷を反映し,上腕血圧より密接に高血圧性臓器障害と関連することが推測されている125)。また,降圧薬は中心血圧と上腕血圧に対して異なった降圧作用を示し,上腕血圧では認められない薬剤効果の差異が,中心血圧測定により実証されうる126)。近年の縦断研究により,中心血圧やAIが上腕血圧とは独立に心血管イベントと関連し,高血圧治療に伴う臓器障害退縮のマーカーとなる可能性が示唆されている127),128)。しかしながら,中心血圧の予後指標としての有用性は,今後の大規模な観察・介入研究によりさらに検証される必要がある。本邦では,橈骨動脈脈波より中心血圧,AIを計測する装置(オムロンヘルスケアHEM-9000AI)が使用されている。[6]心拍
心拍数の増加は心血管病の罹患率と死亡率,さらには総死亡とも関連するという多くのエビデンスが蓄積されている129),130),131),132)。ことにABPMによる心拍数133)や家庭血圧測定に基づく心拍数の予後予測能は高い134)。しかしながら,至適な心拍レベルへの心拍数のコントロールが予後を改善するという確固たるエビデンスはまだない。したがって至適心拍数も設定されていない。[7]収縮期血圧・脈圧
中年以降の対象においては,収縮期高血圧は,強い心血管病のリスクである73),135),136)。したがって,脈圧が心血管病発症の強力な予測因子であることが知られているが137),138),本邦における脳卒中発症の予測能に関しては,脈圧より収縮期血圧や平均血圧の方が高い28),29)。こうした事実も家庭血圧やABPMでより明瞭にとらえられる29),73)。