(旧版)高血圧治療ガイドライン2004

 
第8章 高齢者高血圧


3)治療

d 降圧薬の選択

(1) 合併症のない場合

高齢者高血圧の降圧薬選択に当たっては病態、合併症に応じた薬剤の選択が重要であり、臓器血流の低下と自動調節能の障害、起立性低血圧の存在など高齢者高血圧の特徴に対応した薬剤の選択が必要である。第一次薬としてCa拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、あるいは少量のサイアザイド系利尿薬が適当である。治療のながれを図8-2にまとめた。降圧効果の不十分な場合や忍容性に問題がある場合には、第一次薬の他薬物への変更も可能である。単薬で降圧効果が不十分な場合は、図8-2にしたがって併用療法を行う。好ましい組み合わせはCa拮抗薬とARBまたはACE阻害薬、ARBまたはACE阻害薬と低用量の利尿薬である。さらに降圧効果不十分であれば、場合によりこれら3薬の併用を行う357)
一般成人における第一次薬であるβ遮断薬、α遮断薬は高齢者においても病態に応じて使用可能であるが、介入試験の結果や、高齢者高血圧の特徴から、第一次薬として使いやすい薬物は限られる。さらに服薬継続を保つために1日1回ないし2回型の長時間作用型降圧薬であること、早朝の血圧上昇に効果のある薬物(トラフ/ピーク比50%以上)である必要がある。
大規模臨床試験で有効性が明らかなのは利尿薬、Ca拮抗薬、ARBおよびACE阻害薬である。Messerliら358)のメタアナリシスではβ遮断薬は虚血性心疾患、心血管病死、全死亡に関し、有効性は証明できないとしている。α遮断薬は高齢者に起立性低血圧の頻度が高いことから第一次薬とはなりにくい。
利尿薬はEWPHE、SHEP、STOP-Hypertensionなど従来から多くの大規模臨床試験で有用性が証明されている。本邦でもNICS-EHでCa拮抗薬の対照薬とされており、有用性は明らかであるが、耐糖能障害、高尿酸血症、高脂血症などへの影響を考えると使用できる患者は制限され、忍容性もCa拮抗薬と比しやや劣る346)。このため利尿薬を使用する時は少量にとどめる。Ca拮抗薬やARB、ACE阻害薬の併用薬としては極めて有用である。
Ca拮抗薬はSTONE試験343)、Syst-Eur341)、Syst-China342)、NICS-EH165)、STOP-Hypertension-2359) PATE-Hypertension347)などで収縮期高血圧を含めて有効性が証明されている。またSyst-EurのサブスタディではCa拮抗薬(ニトレンジピン)により痴呆(特にアルツハイマー型)の発症抑制効果が示唆されており、注目されている360)。禁忌疾患が少なく、他の降圧薬との併用範囲も広い。ジルチアゼムは伝導障害、徐脈、心不全などに注意する。Ca拮抗薬は現在、本邦において最も頻用されている降圧薬である351)。多くのメタアナリシスの結果、Ca拮抗薬は脳卒中抑制効果に優れており163)、本邦では合併症として脳卒中が優位であり、その有用性は高い。
ACE阻害薬は高齢者高血圧においても降圧効果は認められており361)、うっ血性心不全、心筋梗塞後の左室リモデリング予防効果、心肥大退縮効果などの心保護効果、腎機能保持効果など高齢者高血圧の治療に有利であり、QOL改善効果にも優れることから、高齢者高血圧の第一次薬となりうる362)。CAPPP試験ではACE阻害薬の第一次予防効果が認められているが、これは特に高齢者を対象としたものではない309)。STOP-Hypertension-2では高齢者高血圧におけるACE阻害薬の心血管事故予防効果は利尿薬などの従来の降圧薬、あるいはCa拮抗薬の効果と同等であった359)。本邦において行われた高齢者高血圧を対象としたPATE -Hypertensionでは、ACE阻害薬はCa拮抗薬と同等の有効性が認められている。ただし、中止率はCa拮抗薬より高く、これは咳による347)。ACE阻害薬は高齢者においては血清クレアチニンが2mg/dl以上の場合は慎重投与とする。
ANBP-2ではACE阻害薬(エナラプリル)が特に男性において利尿薬に比し有用であった348)
ARBはACE阻害薬に比し、降圧効果は同等で、特に咳の副作用はない。ACE阻害薬のもつ臓器保護作用が期待でき、高齢者高血圧でも降圧効果は十分認められているので363)、第一次薬となりうる。RENAAL試験や、ELITE試験、CHARM試験、VALLIANT試験で2型糖尿病性腎症、心不全、急性期心筋梗塞後の心不全症例での効果が証明されており、確認された。またLIFE試験の収縮期高血圧群サブ解析でも脳卒中抑制に優れることが報告され364)、高齢者収縮期高血圧におけるARBの有用性を示すものと考えられる。


図8-2 高齢者高血圧の治療計画

図8-2 高齢者高血圧の治療計画


(2) 合併症を伴う場合

高齢者においては合併症を有する場合が多く、合併症に応じた降圧目標の設定、降圧薬の選択を行う必要がある。脳血管障害、腎障害、虚血性心疾患、糖尿病、高脂血症などの合併は高リスク状態であり、一般にはより積極的な降圧が必要とされており、高齢者においても140/90mmHg未満を降圧目標とするが、特に脳血管障害や冠動脈疾患を合併している場合はより慎重に緩徐な降圧を図る必要がある。表8-3に各種合併症を有する場合の降圧薬の適否を示した357)
脳血管障害(慢性期)を有する高齢者高血圧では脳血流の維持が大切で、特に脳梗塞後の場合、緩徐な降圧を図る必要がある。Ca拮抗薬やARB、ACE阻害薬が用いられる。PROGRESS試験ではACE阻害薬と利尿薬の併用が再発防止(二次予防)に有用であった106)
労作性狭心症ではβ遮断薬が、冠攣縮性狭心症ではCa拮抗薬が用いられる。慢性心不全を合併する場合はARB365、ACE阻害薬や利尿薬が適応である。Ca拮抗薬(アムロジピン、フェロジピン)も使用可能である。
腎障害を合併する高齢者高血圧では食事療法とともに血圧の管理が重要である。血清クレアチニンが2.0 mg/dl未満またはクレアチニンクリアランス(Ccr)30ml/分以上の場合、ARBまたはACE阻害薬を使用し、降圧不十分な場合はCa拮抗薬を追加する。血清クレアチニンが2.0mg/dl以上またはCcr 30ml/分未満の場合はARB、ACE阻害薬は少量から慎重投与を行い、Ca拮抗薬を併用する。体液量貯留傾向のある場合は少量のループ利尿薬を使用する。
糖尿病を合併する高齢者高血圧では、糖尿病の管理とともに、より積極的な降圧が必要である。耐糖能に悪影響を与えない薬物を選択すべきであり、腎障害が進行していない限り、ARB、ACE阻害薬309)、Ca拮抗薬が積極的選択となる。Syst-Eurにおいて、Ca拮抗薬(ニトレンジピン)の効果は糖尿病合併例において有用性が高いことが示されている310)。2型糖尿病性腎症においてARBの有用性を示す多くの成績が示されており83)、またACE阻害薬と同様、ARBは糖尿病の新規発症を抑制することが示されている116,231)。これらを勘案すると、ARBは糖尿病合併例において有用な降圧薬である。


表8-3 合併症を有する高齢者高血圧に対する降圧薬の選択
合併症  Ca拮抗薬
(ジヒドロピリジン)
ARB/
ACE阻害薬
利尿薬 β遮断薬 α遮断薬
脳血管障害慢性期 *1    
虚血性心疾患   *2  
心不全   *3
腎障害 *4 *5    
糖尿病 *6
高脂血症
痛風 ×    
慢性閉塞性肺疾患       ×  
閉塞性動脈硬化症 ×  
骨粗鬆症     *7    
前立腺肥大        
○:積極的適応 空欄:適応可 △:使用に際して注意が必要 ×:禁忌
*1:脱水に注意、*2:冠攣縮性狭心症は禁忌、*3:少量から開始し臨床経過を観察しながら慎重に使用、*4:クレアチニン2mg/dl以上は慎重投与、*5:ループ利尿薬、*6:起立性低血圧に注意、*7:サイアザイド系利尿薬 ARB:アンジオテンシンII受容体拮抗薬
 
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