(旧版)高血圧治療ガイドライン2004
第8章 高齢者高血圧 |
3)治療
b 降圧薬治療の対象と降圧目標
(1) 治療対象
従来報告されている高齢者を対象とした高血圧の大規模臨床試験では、収縮期血圧160mmHg以上、拡張期血圧90〜100mmHg以上を対象として治療効果が証明されている。収縮期血圧140〜159mmHgの軽症高血圧についての大規模臨床試験はなく、唯一、短期少数例の検討であるが、軽症高血圧をCa拮抗薬で治療した場合、心肥大およびquality of life(QOL)の改善が認められており、その有用性が示唆されている349)。70歳以上では血圧値と生命予後に逆相関がみられるとの報告350)もあり、さらに、85歳以上の超高齢者群では高血圧は死亡のリスクとはならず、治療効果についても死亡率を抑制していない346)。このような背景下に、本邦における専門家を対象とした調査では70歳代、80歳代では治療対象血圧をやや高めに設定している351)。この是非については明らかではない。160mmHg以上では非高齢者と同様の治療開始方針に従うが、軽症高血圧ではまず生活習慣の修正を行い、数カ月の経過後も140mmHg以上であれば降圧薬治療を開始する。高血圧性心不全や大動脈瘤などの合併例では年齢、血圧値に関わりなく積極的な降圧を行う。
(2) 降圧目標
欧米のガイドライン、すなわちJNC7や2003 ESH-ESCガイドラインでは年齢を問わず140/90mmHg未満を降圧目標としている29,43)。しかしながら、高齢者において140/90mmHg未満が妥当であるか否かは、現在のところエビデンスがない352)。高齢者ではすでに動脈硬化による臓器障害を有することが多く、特に脳血流では自動調節能に障害がみられること、一般健常者でも収縮期血圧は加齢によりある程度上昇がみられることなどから、本邦においては降圧目標は一般成人と比べやや高めに設定されている353)。最近の大規模臨床試験における治療後の血圧平均値の多くは141〜152/77〜85mmHgである(表8-1、8-2)。高齢者の収縮期血圧160mmHg以上の高血圧を治療した場合、140mmHg未満への降圧がよいとする考え方に疑問を持たせる事実として、SHEP試験、HOT試験のサブ解析がある。SHEP試験では150mmHg未満の群が最も脳卒中リスク抑制効果が強く、140mmHg未満ではその有意性が消失している354)。HOT試験は65歳以上の群でみるとthe lower the betterの関係が認められなくなる355)。さらにSHEPでは拡張期血圧60mmHg未満では心血管事故が増加しており356)、収縮期血圧の降圧にも限度があることを示している。本邦において行われたPATE-Hypertension試験でもJ型カーブ現象が認められており、収縮期血圧130mmHg未満の降圧では心血管事故が増加している347)。
以上の大規模臨床試験ならびに前述した疫学調査の結果を総括すると、高齢者高血圧を若年・壮年者と全く同様に扱うことは妥当ではない。一般に生理機能の変化、合併症の頻度などを考慮して高齢者は65歳以上の前期高齢、75歳以上の後期高齢、さらに85歳以上の超高齢に分類されている。疫学データ、大規模臨床試験の結果から、いずれの年代でも140/90mmHg未満の降圧に予後改善が期待され、高齢者においても可能であれば積極的な降圧が重要である。したがって、降圧目標は前期高齢では140/90mmHg未満とする。後期高齢においても特に軽症高血圧においては140/90mmHg未満とするが、収縮期血圧160mmHg以上の中等症・重症高血圧では140/90mmHg未満を最終降圧目標とするものの、150/90mmHg未満を暫定的降圧目標とする慎重な降圧が必要である。超高齢者においても降圧薬治療は心血管疾患発症の抑制に有用であるが、死亡率の抑制は今までのところ確認されていない345)。
高齢者高血圧においては臓器血流障害、自動調節能障害が存在するため、降圧のスピードには特に配慮が必要で、降圧は緩徐に行い、一般的に初期量は最小常用量の1/2量から開始し、めまい、立ちくらみなど脳虚血性兆候や狭心症状の有無に注意しつつ、4週間間隔以上で増量し、3〜6カ月以上をかけて降圧目標値に達するようにする。
表8-2 高齢者高血圧に対する主な臨床試験(2)(薬剤間の比較) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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