(旧版)高血圧治療ガイドライン2004
第6章 臓器障害を合併する高血圧 |
まとめ
【脳血管障害】
1) | 脳卒中発症1〜2週間の急性期には、出血、梗塞の病型を問わず血圧は高値を示すことが多い。しかし、収縮期血圧220mmHg以上、拡張期血圧120mmHg以上でない限り、積極的な降圧治療は行わないのが原則である。これは降圧治療により病巣部の血流量が減少する危険性があるためである。ただし、発症3時間以内の超急性期で血栓溶解療法が考慮される例では、180/105mmHg未満にコントロールする必要がある。 |
2) | 脳卒中1カ月以後にも高血圧であれば150/95mmHg未満を一次目標に、2〜3カ月以上をかけて緩徐に降圧する。さらに140/90mmHg未満を最終目標に降圧薬治療を行う。降圧薬としてはACE阻害薬と少量の利尿薬の併用、Ca拮抗薬、ARBなどが望ましい。 |
3) | 無症候性脳血管障害のうち、無症候性脳梗塞や無症候性脳出血の降圧は原則的に症候性脳卒中の慢性期の降圧薬治療に準ずる。無症候性頸動脈狭窄や未破裂脳動脈瘤では、降圧に先立ち外科的手術の適応を考慮する。これらの病態では治療に先立ち十分なインフォームドコンセントが欠かせない。 |
【心疾患】
1) | 狭心症を合併する高血圧ではCa拮抗薬や内因性交感神経刺激作用のないβ遮断薬がよい適応になる。140/90mmHg未満を降圧目標にする。 |
2) | 心筋梗塞後の患者ではβ遮断薬、RA系抑制薬(ACE阻害薬、ARB)、アルドステロン拮抗薬が死亡率を減少させ予後を改善する。 |
3) | 心不全における降圧薬の使用は必ずしも降圧が目的ではなく、心不全患者のQOLや予後を改善するために用いられる。RA系抑制薬+β遮断薬+利尿薬の併用療法が心不全の標準的治療であり、死亡率を減少させ予後を改善する。ただし、RA系抑制薬やβ遮断薬の導入にあたっては、心不全の悪化・低血圧・徐脈(β遮断薬)・腎機能低下などに注意しながら、少量から緩徐に注意深く漸増する必要がある。アルドステロン拮抗薬は、標準的治療を受けている重症心不全患者の予後をさらに改善させる。心不全を合併する高血圧では十分な降圧薬治療が重要であり、降圧が不十分な場合にはCa拮抗薬を追加する。 |
4) | 心肥大が退縮すると予後が改善することが示唆されている。どの降圧薬でも持続的降圧により肥大を退縮させることが期待できるが、RA系抑制薬、長時間作用型Ca拮抗薬の効果が最も優れている。 |
【腎疾患】
1) | 慢性腎疾患を伴う高血圧患者は心血管事故のリスクが高く、早期発見が極めて重要である。早期発見には検尿とGFRの推定が有用である。 |
2) | 高血圧と尿蛋白はともに腎障害の進展を促す重要な危険因子であり、両者のコントロールが腎不全の予後に極めて重要である。 |
3) | 生活習慣では食塩摂取制限と蛋白摂取制限を行うとともに、腎不全では激しい運動や過労を避ける。 |
4) | 降圧目標は130/80mmHg未満とする。 |
5) | ACE阻害薬、ARBは蛋白尿を減少させ、腎保護作用を発揮する。血清クレアチニン2.0mg/dl以上では少量から使用し、血清クレアチニン値やK値に注意する。利尿薬は体液貯留傾向のあるときは不可欠であるが、血清クレアチニン2.0mg/dl以上ではループ利尿薬を用いる。 |
6) | 透析患者の降圧薬の選択時には、薬物代謝、排泄経路、透析性に注意する。 |