(旧版)高血圧治療ガイドライン2004
第6章 臓器障害を合併する高血圧 |
3)腎疾患
e 透析患者
透析患者では心血管合併症が予後に重大な影響を及ぼす。死亡原因で最も多いのが心不全で、次いで感染症、脳卒中の順になっている285)。透析患者では血圧が予後因子として重要である286,287,288)。さらに、左室肥大を高率に合併し289)、左室肥大もまた重要な予後規定因子とされている290)。透析期間が長くなると高血圧の頻度は徐々に減り、低血圧をきたす患者も出てくるので、漫然と同じ処方を継続せず、患者の状態に合わせて降圧薬を切り替えていくことも肝要である。
治療方針としては、まず体液量依存性の血圧上昇をコントロールすべきである。ドライウェイト(体液量管理の際に必要となる目標体重)を適切に設定し、透析後より次の透析前までの体重増加をドライウェイトの5%以下になるように指導する。
多くの透析患者では尿排出はほとんどなく、利尿薬は無効である。しかし、透析後も1日数百mlの排尿を認める場合があり、この際にはフロセミドなどのループ利尿薬を用いる。比較的大量を必要とする場合が多いので、聴覚障害などの副作用に注意する。
ドライウェイトを適切に設定しても高血圧が持続する場合には降圧薬治療が必要となる。降圧作用機序だけでなく、薬物代謝、排泄経路、透析性、持続時間なども考慮する。また、透析中に著明な低血圧のある場合には透析日の朝の服用を控えるなどの工夫が必要である。
透析患者では血圧と生命予後との関係にU字型現象がみられ、収縮期血圧が120〜160mmHgで死亡率は最も低い286,287)。血圧が低い群で死亡率が高いのは、心血管事故以外によるものが多いためとされている。また、脈圧が大きいほど予後も悪くなる287)。心血管事故を抑制する薬剤に関しては一定の見解は得られておらず、Ca拮抗薬291)、β遮断薬292)、ACE阻害薬293,294)の有効性が報告されている。最近は、心肥大の退縮にARBが有効であることが報告されている295,296)。
透析による血圧の変動を少なくするために透析性がない薬剤を選択する。Ca拮抗薬は透析性がなく、透析時の血圧変動が少ないという報告もある。ACE阻害薬は透析性のあるものが多いが、一部は透析性のないものもある。ACE阻害薬は陰性荷電の透析膜を用いるとアナフィラキシー様ショック症状を引き起こすことがある。該当するのはポリアクリロニトリル膜やデキストラン硫酸セルロースを用いたダイアライザーで、これらとACE阻害薬の併用は禁忌である。ACE阻害薬は腎性貧血を増悪させ、エリスロポエチンの必要量が多くなるという報告がある。ARBも透析性がなく、透析患者の降圧薬として有用との報告がある297)。ACE阻害薬と異なり、陰性荷電の透析膜との併用でアナフィラキシー様ショック症状が起こらないことが利点である。α遮断薬は透析性もなく使いやすいが、副作用としての起立性低血圧が透析施行の障害となる可能性がある。β遮断薬の多くは脂溶性で透析性がなく使いやすい。また、β遮断薬は心機能を抑制するので、体液量の変動する透析患者では心不全の発症にも注意する。血清Kの上昇にも注意すべきである。