(旧版)高血圧治療ガイドライン2004
第4章 生活習慣の修正 |
1)食塩制限(減塩)
食塩過剰摂取が血圧を上昇させることは以前より疫学的研究から指摘されてきた。例えば、世界32カ国52集団の1万人あまりを調査したINTERSALT(INTERnational study on SALT and blood pressure)17)などで食塩摂取と高血圧の頻度との正の相関関係が指摘されている。この研究によると食塩制限に基づく降圧は3g/日以上の摂取量では減塩に伴う降圧は緩徐であるが、約3g/日未満で顕著になっている。元来人類は0.5〜3g/日の食塩しか摂取しておらず133)、人類の歴史からすると、多量の食塩を摂取している期間は非常に短く、非常に厳しい3g/日未満の減塩が妥当であるように思われる。しかし、減少傾向にあるとはいえ11〜12g/日の食塩を摂取している現在のわが国では(図4-2)134)、ほとんどの加工食品に食塩が添加され、調味料として主に食塩を多く含んだものが使用されているため、栄養学的に偏らずに厳しい減塩を実行するのは困難である。このため、一般に軽度の減塩が推奨される。欧米の大規模臨床試験をみると、食塩摂取量の平均値が8.5g/日の高齢高血圧患者に6.1g/日の減塩を行ったTONE(Trial Of Nonpharmacologic intervention in the Elderly)111)では問題となる副作用がなく、有意の降圧を認めた。また、DASH(Dietary Approaches to Stop Hypertension)-Sodiumでは、DASH食(コレステロール・飽和脂肪酸の制限、カリウム(K)・カルシウム(Ca)・マグネシウム(Mg)の増加、食物繊維の増加)の有無にかかわらず、8.7g/日から食塩制限3g/日まで直線的に有意の降圧を認めた23)。これらの大規模臨床試験の成績を根拠に、欧米のガイドラインではさしあたり6g/日未満の減塩を推奨している。本邦でも食塩摂取量が漸減していることを考慮し、欧米ガイドラインに準拠し、6g/日未満の減塩を推奨する。
理想的なより厳格な減塩を健全な形で実施することは現在の社会状況からは極めて困難であるので、社会全体での減塩キャンペーンが重要であり、加工食品などの食塩含有量の減少を政策的に指導してゆくべきである。また、減塩の食事指導を若年者(高校生)に試みて降圧に成功したという報告があり135)、食習慣が十分完成していない幼・若年者に対して教育・指導を今後充実させてゆくべきである。
現在、食品の栄養表示は食塩でなくナトリウム(Na)(mg/100gあるいはmg/100ml)表示となっている。食塩摂取量(g/日)での食事指導が広く普及していることから、食品の栄養表示は食塩(g/100gあるいはg/100ml)表示としてわかりやすくすべきである。なお、Naと食塩相当量の関係は
食塩相当量(g)=Na(mg)×2.54÷1000
で表されるので、現時点ではこの式を患者に指導するほかはない。
なお、食塩による血圧上昇の程度(食塩感受性)には個人差があり136)、高血圧家族歴のある者や高齢者などで顕著である。本邦の研究では、食塩感受性高血圧患者の心血管合併症の頻度は高く137)、これは糸球体内圧の上昇や血圧日内変動の異常などが関与し、これらの異常は減塩で改善する。しかし、現在のところ日常診療において食塩感受性を調べるための簡便な検査法はなく、さらに食塩は血圧に無関係に心血管などを障害することが明らかになってきたので、高血圧患者に限らず社会全体で一律に減塩を目指す必要がある。
図4-2 日本人の食塩摂取量(g/日)の年次推移134) |
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