(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン (改訂第2版)
第5章 予後
■ Clinical Question 3
術前の病状のなかで予後を予測できる要因は何か
要約
【Grade B】
男性,画像の明瞭な異常所見,罹病期間の短さ,心理状態が正常であること,術前の休職期間が短いこと,労災関連でないことなどが手術成績を向上させる要因となる.
【Grade B】
再就労をアウトカムとすると,関連する要因は疼痛や日常生活動作とした場合と異なる.
背景・目的
手術的治療が選択された場合でも時に臨床成績が不良な症例が散見されるが,この要因を明確にしておく必要がある.また,疼痛や臨床症状だけではなく,手術後に原職に復帰できるのかという観点での検討も必要である.
解説
1966年から1991年までの腰椎椎間板ヘルニアに関連した論文のシステマティックレビュー(症例数30以上,平均年齢30歳以上,follow-up率75%以上,最短follow-up期間1年以上,平均follow-up期間2年以上)によれば,画像の明瞭な異常所見,神経脱落症状,SLRテスト陽性,過去の少ない入院歴,罹病期間の短さが良好な成績に関連し,異常な心理状態,労災関連,他疾病の罹患,高年齢が不良な成績に関連していたと報告している(DF01998,EV level 1).他の身体的所見のなかで手術成績に関連している因子として有意であったと報告しているのは,SLRテスト(DF01220,EV level 5),知覚障害(DF01697,EV level 5)だけであった.患者背景では年齢(D2F00819,EV level 6),性別[(DF00545,EV level 5),(DF00555,EV level 5),(DF00694,EV level 5),(DF01116,EV level 5),(DF01697,EV level 5),(D2F01980,EV level 5)],下肢痛持続期間[(DF00555,EV level 5),(DF00394,EV level 5),(DF01622,EV level 5),(D2F00613,EV level 5),(D2F00821,EV level 5)]が複数の検討で有意差が認められた.また喫煙習慣との関連を指摘した報告(D2F00826,EV level 5)もあった.下肢の筋力低下に着目した報告でも罹病期間を危険因子として指摘している(D2F00816,EV level 7).
患者背景では術前の就労状況[(DF00394,EV level 5),(DF01220,EV level 5),(DF01622,EV level 5)],労災・休業保障の有無,訴訟の有無[(DF01116,EV level 5),(DF01220,EV level 5),(D2F01932,EV level 5),(D2F01989,EV level 5)]で有意差が認められた.術前よりさらに機能的に悪化することに着目した報告(DF00613,EV level 5)では,術後1年での悪化例は全体の4%を占めており,悪化する危険因子として機能的には軽症であるにもかかわらず,休職期間が長いことであったとしている.
術中所見や画像所見に関しては,7シリーズ[(DF00555,EV level 5),(DF00661,EV level 5),(DF01116,EV level 5),(DF01697,EV level 5),(D2F02015,EV level 5),(D2F00804,EV level 5),(D2F00950,EV level 5)]でヘルニアの大きさやヘルニアタイプが術後成績と関連があったと報告している.
術前の心理的要因に関しては多数の検討がなされている[(DF00545,EV level 5),(DF00555,EV level 5),(DF00661,EV level 5),(DF01220,EV level 5),(DF01504,EV level 5),(DF01836,EV level 5),(DF03110,EV level 5)].HAD scale(Hospital Anxiety and Depression Scale),MSPQ(modified somatic perception questionnaire)とVPMI(Vanderbilt pain management inventory)と術後のCOS(clinical overall scale)とを比較した報告では[(DF00545,EV level 5),(DF01504,EV level 5)],不安と身体的苦痛が成績に影響するものの,うつ状態には有意な関連を認めなかったとしている.275例の通常の手術後患者の成績と術前MMPI を比較検討した報告によれば(DF01220,EV level 5),MMPIにおけるヒポコンドリア,ヒステリーが成績に関与していたとしている.職業復帰に対する期待度も術後のアウトカムと関連すると報告されている(D2F01992,EV level 5).
以上より,男性,画像の明瞭な異常所見,罹病期間の短さ,心理状態が正常であること,術前の休職期間が短いこと,労災関連ではないことなどが手術成績を向上させる要因であることになる.
一方で,最終成績を復職として各因子を検討した報告も多数ある[(DF00545,EV level 5),(DF00555,EV level 5),(DF00661,EV level 5),(DF00791,EV level 9)].分析的横断研究において3,956例のヘルニア手術患者の術後就労状況を検討した報告(DF00791,EV level 9)によれば,術式では固定術併用で有意に不就労率が高く(不就労;固定術60%,通常25%),術前無職ないしは不就労6ヵ月以上,30歳以上などが術後1 年時の不就労に関連していたとしている.また,術前の精神異常状態なし,下肢痛7ヵ月未満,高い教育レベル,41歳以上,男性,手術歴なしが手術後2年時の復職状況と関連すると報告している論文(DF00555,EV level 5)もあり,臨床成績とほぼ同じ要因が復職に関連しているとも考えられる.しかし痛みの軽減,日常生活動作障害の軽減と再就労をそれぞれアウトカムとした解析では,痛みや日常生活動作には画像所見や神経脱落症状などが関連しているが,再就労に関しては不安,うつ,低いバイタリティーだけが関連していたとの報告(DF00661,EV level 5)もあり,手術後の成績に関連する因子は設定したアウトカムによってかなり異なる可能性もある.
保存的治療例の予後に関連する因子の検討としては,脱出形態や発症後早期の病状経過が関連しているとする報告(DF00033,EV level 5)や,経過が短い群や訴訟に関わっていない群が良好であった.画像所見に関する報告[(DF01116,EV level 5),(DF02421,EV level 5)]では一定の傾向は認められていない.
患者背景では術前の就労状況[(DF00394,EV level 5),(DF01220,EV level 5),(DF01622,EV level 5)],労災・休業保障の有無,訴訟の有無[(DF01116,EV level 5),(DF01220,EV level 5),(D2F01932,EV level 5),(D2F01989,EV level 5)]で有意差が認められた.術前よりさらに機能的に悪化することに着目した報告(DF00613,EV level 5)では,術後1年での悪化例は全体の4%を占めており,悪化する危険因子として機能的には軽症であるにもかかわらず,休職期間が長いことであったとしている.
術中所見や画像所見に関しては,7シリーズ[(DF00555,EV level 5),(DF00661,EV level 5),(DF01116,EV level 5),(DF01697,EV level 5),(D2F02015,EV level 5),(D2F00804,EV level 5),(D2F00950,EV level 5)]でヘルニアの大きさやヘルニアタイプが術後成績と関連があったと報告している.
術前の心理的要因に関しては多数の検討がなされている[(DF00545,EV level 5),(DF00555,EV level 5),(DF00661,EV level 5),(DF01220,EV level 5),(DF01504,EV level 5),(DF01836,EV level 5),(DF03110,EV level 5)].HAD scale(Hospital Anxiety and Depression Scale),MSPQ(modified somatic perception questionnaire)とVPMI(Vanderbilt pain management inventory)と術後のCOS(clinical overall scale)とを比較した報告では[(DF00545,EV level 5),(DF01504,EV level 5)],不安と身体的苦痛が成績に影響するものの,うつ状態には有意な関連を認めなかったとしている.275例の通常の手術後患者の成績と術前MMPI を比較検討した報告によれば(DF01220,EV level 5),MMPIにおけるヒポコンドリア,ヒステリーが成績に関与していたとしている.職業復帰に対する期待度も術後のアウトカムと関連すると報告されている(D2F01992,EV level 5).
以上より,男性,画像の明瞭な異常所見,罹病期間の短さ,心理状態が正常であること,術前の休職期間が短いこと,労災関連ではないことなどが手術成績を向上させる要因であることになる.
一方で,最終成績を復職として各因子を検討した報告も多数ある[(DF00545,EV level 5),(DF00555,EV level 5),(DF00661,EV level 5),(DF00791,EV level 9)].分析的横断研究において3,956例のヘルニア手術患者の術後就労状況を検討した報告(DF00791,EV level 9)によれば,術式では固定術併用で有意に不就労率が高く(不就労;固定術60%,通常25%),術前無職ないしは不就労6ヵ月以上,30歳以上などが術後1 年時の不就労に関連していたとしている.また,術前の精神異常状態なし,下肢痛7ヵ月未満,高い教育レベル,41歳以上,男性,手術歴なしが手術後2年時の復職状況と関連すると報告している論文(DF00555,EV level 5)もあり,臨床成績とほぼ同じ要因が復職に関連しているとも考えられる.しかし痛みの軽減,日常生活動作障害の軽減と再就労をそれぞれアウトカムとした解析では,痛みや日常生活動作には画像所見や神経脱落症状などが関連しているが,再就労に関しては不安,うつ,低いバイタリティーだけが関連していたとの報告(DF00661,EV level 5)もあり,手術後の成績に関連する因子は設定したアウトカムによってかなり異なる可能性もある.
保存的治療例の予後に関連する因子の検討としては,脱出形態や発症後早期の病状経過が関連しているとする報告(DF00033,EV level 5)や,経過が短い群や訴訟に関わっていない群が良好であった.画像所見に関する報告[(DF01116,EV level 5),(DF02421,EV level 5)]では一定の傾向は認められていない.
文献