(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン (改訂第2版)
第3章 診断
■ Clinical Question 2
診断における特徴的な所見(理学所見および神経学的所見)は何か
推奨
【Grade B】
SLRテスト陽性は,腰椎椎間板ヘルニア診断に有用な所見である.神経学的所見として特異的なものはない.
背景・目的
診断の基本となる問診により,腰椎椎間板ヘルニアを疑った後に的確な理学的および神経学的診察を行い,腰椎椎間板ヘルニアの診断を深めていく.MRIをはじめとする各種画像診断はあくまで補助診察の役割を果たす.ここでは,腰椎椎間板ヘルニア診断のために有益な症状および所見を検討する.
解説
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理学所見 |
腰椎椎間板ヘルニアに伴う理学所見で,SLRテストはよく知られた検査手技である.腰椎椎間板ヘルニアの診断にSLRテストが有用であるとする報告は多い. | |
腰椎椎間板ヘルニアが原因の坐骨神経痛において,病歴と理学所見の意義を検討したmeta-analysis(文献総数37編)では,SLRテストが腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛に対して信頼性のある徴候であり,敏感度(sensitivity)0.85,特異度(specificity)0.52であったとしている(DF00590, EV level 3).また,cross SLRは,敏感度0.30,特異度0.84であった.その他の分析的横断研究でも,SLRテストの有用性が指摘されている(DJ00068, EV level 9). | |
腰部神経根圧迫性病変をきたす3つの疾患群(ヘルニア,central stenosis,lateral stenosis)において,特徴的な症状・所見を検討した症例対照研究では,脊柱可動性の減少はヘルニア群で著明であり,SLRテスト陽性はヘルニア群で高頻度であった(約90%).腰椎過後屈テスト陽性率は3群で同等であったとしている(DF01996, EV level 6). | |
SLRテストと安静時痛,夜間痛,咳嗽痛,鎮痛薬の必要度,歩行障害の関係を調査したコホート研究では,SLRテストの強弱と臨床症状は正の相関関係にあり,SLRテストの強弱(下肢挙上の角度)がヘルニアの重症度を表すとしている(DF01576, EV level 5). | |
上位腰椎椎間板ヘルニアで陽性になるとされるFNST(femoral nerve stretching test)に関して,上位腰椎椎間板ヘルニア(L1/2〜L3/4)141 例の臨床症状,所見を調査した記述的横断研究では,FNSTが陽性となる頻度は不明としている(DF02017, EV level 10). | |
術前臨床所見(理学所見,神経学的所見)と,術中のヘルニア形態との関係を調査したコホート研究がある(DF01219, EV level 5).術前理学所見として,kyphometerを用いて胸椎後弯,腰椎前弯,胸椎・腰椎可動域を計測し,同時にLasègue徴候,cross Lasègue徴候,知覚,腱反射,足・第1趾伸展筋力を検査した.この研究では,腰椎可動域とcross Lasègue徴候を調べることにより,74%の脱出型ヘルニアと68%の非脱出型ヘルニアの診断が可能であったとしている. | |
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神経学的所見 |
腰椎椎間板ヘルニアでは,一般に筋力低下,知覚鈍麻,深部腱反射低下など神経学的脱落所見を呈することが多い.しかし,これが診断的価値を有するかに関しては問題のあるところである. | |
SLRテスト以外の所見,すなわち筋力,知覚,腱反射などの神経学的所見は診断と一致しないという分析的横断研究がある(DJ00068, EV level 9).一方,上位腰椎椎間板ヘルニア(L1/2〜L3/4)141例の臨床症状,所見を調べた分析的横断研究では,約50%の症例(特にL3/4)で大腿四頭筋力は低下し,PTRは低下あるいは消失するとしている(DF02017, EV level 10). |
文献