(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン (改訂第2版)
第3章 診断
■ Clinical Question 1
診断に必要な問診や病歴は何か
推奨
【Grade B】
的確な問診を行うことにより,ヘルニアを疑うことや,ヘルニア高位の推定を行うことは高い確率で可能である.腰椎椎間板ヘルニアの診断に際して,問診や病歴を採取することはきわめて重要である.
背景・目的
腰椎椎間板ヘルニアに限らず,あらゆる疾病を診断することの基本は的確な問診に始まる.単純X線写真やMRIなどを含む各種画像診断はあくまで補助診察の役割を担うべきである.ここでは,腰椎椎間板ヘルニア診断のために有益な病歴および臨床症状を検討する.
解説
問診や病歴の診断的価値を評価したRCTはない.中程度のエビデンスを有する論文が複数あり,これらを中心に概説する.
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疼痛の部位と分布領域 |
ヘルニアでは一般に下肢痛を呈する.ヘルニアの問診では,この下肢痛の部位および分布領域を丁寧に聞くことが重要である. | |
ヘルニアを含む神経根圧迫を疑った274例について,病歴・理学所見とMRI上の神経根圧迫が一致するかを調査し,病歴・理学所見の診断的価値を評価した横断研究がある(DF10006,EV level 10).ROC(receiver-operating characteristic)曲線の値(0〜1で表す.1は完璧の検査.0.5以下は無効)は,病歴だけで0.8であり,正しい病歴の採取がヘルニアをはじめとする神経根圧迫の診断にきわめて重要であることを報告している.病歴のなかでも,下腿まで放散する疼痛,神経根の走行に一致する疼痛,咳やくしゃみにより悪化する疼痛,発作性の疼痛の4つが重要で,病歴にSLR(straight leg raising)陽性や知覚鈍麻などの理学所見を追加しても,ROC曲線の値は0.83と軽度上昇するだけであり,あらためて病歴の重要性が強調されている. | |
L5またはS1神経根症状を呈したヘルニア80例に関して,臨床所見(発症,疼痛,労災,側弯,局所の筋スパズム,指床間距離,SLR,麻痺,筋萎縮,腱反射異常,知覚障害)とその診断能力を評価したコホート研究では,疼痛の部位(坐骨神経痛)がもっとも診断精度の高いパラメータであり,その他の項目は診断精度が低いか,まったく診断的価値がないとしている(DF01162,EV level 5). | |
腰椎椎間板ヘルニアが原因の坐骨神経痛において,病歴と理学所見の意義を検討したmeta-analysis(文献総数37編)では,病歴の有用性を述べた論文はなかった.診断に唯一有効であったのは,疼痛の分布領域であったとしている(DF00590,EV level 3). | |
手術により確診したヘルニア393例に関するコホート研究では,L5領域に放散する疼痛がL5神経根障害を診断するために重要な所見であることを報告している(DF03789,EV level 5). | |
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上位腰椎椎間板ヘルニア |
腰椎椎間板ヘルニアの好発部位は,一般に下位腰椎(L4/5,L5/S1)である.しかし,L1/2〜L3/4 に発生する上位腰椎椎間板ヘルニアも少なくない.この場合の下肢痛の分布領域には注意を要する. | |
上位腰椎椎間板ヘルニア(L1/2〜L3/4)141例の臨床症状,所見を調べた記述的横断研究では,下肢痛の分布は鼡径部や大腿部に多いが(50%以上の症例),時に下腿痛もあるとしている(DF02017,EV level 10).手術により確診したヘルニア393例に関するコホート研究では,上位腰椎椎間板ヘルニアでは,疼痛放散領域に信頼性はないとしている(DF03789,EV level 5). | |
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有症期間 |
有症期間の長短は,腰椎疾患の特異性を現すことがある. | |
腰部神経根圧迫性病変をきたす3つの疾患群(ヘルニア,central stenosis,lateral stenosis)において,特徴的な症状・所見を検討した症例対照研究で,ヘルニア群では術前有症期間は短く,咳嗽時痛の頻度は,ヘルニアとlateral stenosisが同等でcentral stenosisで少なかったことが報告されている(DF01996,EV level 6). | |
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ヘルニア脱出形態 |
横断面でのヘルニア突出形態を,臨床症状からある程度推察することが可能である.臨床症状からヘルニアの脱出形態予測が可能であるかを調査したコホート研究では,extruded/sequestrated typeは,鎮痛薬の使用頻度が高く,SLRテストも30°以下,筋力や知覚低下も一般的であり,いわゆる“aggressive”な状態を呈するとしている(DF01268,EV level 5).腰痛・下肢痛とヘルニア形態との関係を調査した研究では,下肢痛のみの症例,もしくは腰痛に比し下肢痛が強い症例で,extruded/sequestrated typeの可能性が高かったとしている(DF01861,EV level 9). |
文献