(旧版)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン
第5章 予 後
6 再手術率と再発率はどの程度か
要 約
【Grade C】
通常のヘルニア摘出術後の再手術率は経過観察期間が長くなればなるほど高くなるが、10年を超えると一定の傾向を認めない。
【Grade C】
同一椎間での再手術例を再発ヘルニアとすると、通常のヘルニア摘出術では術後5年間程度は再発率が経年的に増加する傾向があるものの、5年以降は一定の傾向を認めない。
【Grade C】
顕微鏡下ヘルニア摘出術では短期的には再手術率、再発率共に経年的に増加する傾向が認められる。
【Grade B】
経皮的髄核摘出術やchemonucleolysis(わが国未承認)の再手術率や再発率にはばらつきが大きいが、通常の手術に比べ高頻度で、特に再手術率が高い。
【Grade C】
再手術の成績には一定の傾向を認めない。
【Grade C】
通常のヘルニア摘出術後の再手術率は経過観察期間が長くなればなるほど高くなるが、10年を超えると一定の傾向を認めない。
【Grade C】
同一椎間での再手術例を再発ヘルニアとすると、通常のヘルニア摘出術では術後5年間程度は再発率が経年的に増加する傾向があるものの、5年以降は一定の傾向を認めない。
【Grade C】
顕微鏡下ヘルニア摘出術では短期的には再手術率、再発率共に経年的に増加する傾向が認められる。
【Grade B】
経皮的髄核摘出術やchemonucleolysis(わが国未承認)の再手術率や再発率にはばらつきが大きいが、通常の手術に比べ高頻度で、特に再手術率が高い。
【Grade C】
再手術の成績には一定の傾向を認めない。
背景・目的
腰椎椎間板ヘルニア手術は根治的な治療法ではないため、再発の可能性は常に有している。 また、初回術後の経過が不良で再手術に至る場合もある。
解 説
1966年から1991年までに発刊された腰椎椎間板ヘルニアに関連した論文(症例数30以上、平均年齢30歳以上、follow-up率75%以上、最短follow-up期間1年以上、平均follow-up期間2年以上)のシステマティックレビュー(DF01998, EV level 1)によれば、術式を問わずfollow-up期間が長くなればなるほど再手術率は高い傾向があった。 通常のヘルニア摘出術では、平均6年前後の報告で4〜14%であった。 顕微鏡下ヘルニア摘出術はfollow-up期間が3年程度の報告しかないが、2〜7%であった。 術式間の差をはっきりと比較した文献はなかったが、再手術例のなかで同一椎間の手術例の割合は通常のヘルニア摘出術が49%(38〜60%)、顕微鏡下ヘルニア摘出術が64%(48〜78%)、経皮的髄核摘出術が83%(76〜88%)であり、経皮的髄核摘出術で同一椎間の再手術率が高かった。 しかし、life table formatで再手術率を記載した論文はなく、特定の期間での再発率にふれたものもなく、follow-up期間も幅が大きく、再手術の経年的な傾向は明確にはできなかったと報告している。
1992年以降の報告のなかで先のシステマティックレビューと同様の基準を満たす報告を加えてみると、10年以内は再手術率の増加傾向は認められるものの以後は一定の傾向を認めない。 life table formatで再手術率を記載した論文は1992年以降も認められないが、術後平均8年の報告(DF00098, EV level 5)によれば再手術例の39例(23.9%)中69.2%の患者は初回手術後2年以内であったと報告している。 また、平均10.8年経過観察した970例の報告(DF01737, EV level 5)によれば、60例の再手術例のなかで最初の1年間に再手術に至ったのが19例、次の1年に11例で、当初の2年間で2/3を占めていると報告している。 さらに、通常のヘルニア摘出術後5年間の前向き研究(DF00294, EV level 5)によれば、再手術までの平均期間は19ヵ月と報告している。 したがって、比較的早い時期の再手術例が多いことになり、再手術率は経年的に増加するものの、ある程度の期間を経過すると横這いになるものと考えられる。
術式間の再手術率の差に関しては、キモパパインによるchemonucleolysis(わが国未承認)と通常のヘルニア摘出術とをRCTにて比較した報告(DF02334, EV level 4)があるが、1年の経過でchemonucleolysisが9例(20.5%)に対して通常のヘルニア摘出術が1例(2.4%)であり、chemonucleolysisで有意に再手術率が高かったとしており、先のシステマティックレビュー(DF01998 , EV level 1)の経皮的髄核摘出術において同一椎間での手術が多いとの結果と合わせて考えると、chemonucleolysisによっても症状の改善がみられなかった症例が、初回手術後比較的早期に別の方法での再手術に至った結果と捉えられる。
椎間板ヘルニアの再発を厳密に定義するとすれば、手術後ないしは保存経過中に症状の改善に伴ったヘルニアの消失ないしは縮小を画像上認めた後で同一椎間に新たな椎間板の突出を伴った症状の再現を認めた場合か、手術後一定期間に症状の改善を認めたうえで、同一椎間でのヘルニアの再発が認められ、再手術中にヘルニアの存在を確認できた場合ということになる。 しかし、前者の定義にしたがっての報告はなく、多くは再手術を行った症例で同一椎間であったかどうかが記載されているにすぎない。
同一椎間での再手術例を再発ヘルニアとすると、通常のヘルニア摘出術では術後5年間程度はfollow-up期間が長くなればなるほど再発率は増加する傾向があるものの、5年以降は一定の傾向を認めない(図1)。 970例の手術症例を検討した報告(DF01737, EV level 5)によれば、再手術例は60例(6.2%)で、そのうち同一椎間・同一側の再手術はその半数の30例で、他椎間・同一側が16例あったとしている。顕微鏡下ヘルニア摘出術ではfollow-up期間が短い報告しかないが、短期的には経年的に増加する傾向が認められる(図2)。 経皮的髄核摘出術やchemonucleolysisでは通常のヘルニア摘出術と同程度の再発率を示した文献がある反面、ばらつきがきわめて大きい(図3)。 再手術率と再発率が共に記載されている報告をみると、先のシステマティックレビューの結論と同様に、通常のヘルニア摘出術が同一椎間での再手術が少なく、経皮的髄核摘出術やchemonucleolysisで高かった。 これらの事実からすると経皮的髄核摘出術やchemonucleolysisでは短期で同一椎間での再手術が多いことになるが、その原因としては、これら術式の適応がない症例が多く含まれたシリーズでは、十分な治療効果が得られなかったことが再手術の多さに関連していると考えられ、適応を厳密にすれば通常のヘルニア摘出術と同等の再発率になる可能性もあると考えられる。
再手術の成績に関しては、初回手術の成績と比較した報告によれば、同等とする報告[(DF00253, EV level 7)、(DF00803, EV level 6)]と再手術が劣るとする報告[(DF00098, EV level 5)、(DF01343, EV level 7)]がそれぞれあり一定の傾向を認めない。 再手術の術式により比較検討した報告はない。
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図1 通常のヘルニア摘出術の再手術率と再発率 |
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図2 顕微鏡下ヘルニア摘出術の再手術率と再発率 |
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図3 経皮的髄核摘出術とchemonucleolysisの再手術率と再発率 |
文 献
1) | DF01998 | Hoffman RM, Wheeler KJ, Deyo RA:Surgery for herniated lumbar discs:A literature synthesis. J Gen Intern Med 8:487-496, 1993 |
2) | DF00098 | Vik A, Zwart JA, Hulleberg G et al:Eight year outcome after surgery for lumbar disc herniation:A comparison of reoperated and not reoperated patients. Acta Neurochir(Wien)143:607-610、discussion 10-11, 2001 |
3) | DF00294 | Atlas SJ, Keller RB, Chang Y et al:Surgical and nonsurgical management of sciatica secondary to a lumbar disc herniation:Five-year outcomes from the Maine Lumbar Spine Study. Spine 26:1179-1187, 2001 |
4) | DF02334 | Muralikuttan KP, Hamilton A, Kernohan WG et al:A prospective randomized trial of chemonucleolysis and conventional disc surgery in single level lumbar disc herniation. Spine 17:381-387, 1992 |
5) | DF01737 | Davis RA:A long-term outcome analysis of 984 surgically treated herniated lumbar discs. J Neurosurg 80:415-421, 1994 |
6) | DF00253 | Suk KS, Lee HM, Moon SH et al:Recurrent lumbar disc herniation:Results of operative management. Spine 26:672-676, 2001 |
7) | DF00803 | Cinotti G, Roysam GS, Eisenstein SM et al:Ipsilateral recurrent lumbar disc herniation. A prospective, controlled study. J Bone Joint Surg 80B:825-832, 1998 |
8) | DF01343 | Fritsch EW, Heisel J, Rupp S:The failed back surgery syndrome:Reasons, intraoperative findings, and long-term results:A report of 182 operative treatments. Spine 21:626-633, 1996 |