(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第7章 大腿骨転子部骨折の治療
7.1.入院から手術までの管理と治療
7.1.入院から手術までの管理と治療
■ Clinical Question 2
術前牽引は行ったほうが良いか
推奨
【Grade Id】
術前の牽引をルーチンに行うことは推奨しない.
解説
早期手術を前提とした場合,術前牽引が有効であるという文献はない.ただし,待機手術や特殊な骨折型において術前牽引が有効である可能性は否定できない.
サイエンティフィックステートメント
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術前に画一的に牽引(介達牽引,直達牽引ともに)することは,手術および予後に対して有効とはいえないとする高いレベルのエビデンスがある(EV level I-2). |
エビデンス
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大腿骨近位部骨折(頚部・転子部・転子下骨折)において,牽引群と非牽引群,および介達牽引群と直達牽引群で比較(術前の疼痛,鎮痛薬の使用,骨折整復の容易性,手術時間,褥瘡の発生率,偽関節,骨頭壊死の発生率)した結果,術前にルーチンに牽引を行うことの有効性はなかった.しかし,特定の骨折型において牽引が有効である可能性を除外するまでのエビデンスはなかった.また牽引により確実に合併症が起こるというエビデンスもなかった(F2F01130, EV level I-2). |
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大腿骨近位部骨折患者において,術前の皮膚牽引は,入院日の夕方と翌日の朝の疼痛を抑制したが,鎮痛薬使用量を減少させることはなかった(F2F01629, EV level II-2). |
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大腿骨頚部骨折および転子部骨折患者において手術前の皮膚牽引は,皮膚牽引しない場合に比べて,疼痛の減少,合併症の改善または機能回復に関して差がなく効果がなかった(F1F00661, EV level II-2). |
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大腿骨頚部/転子部骨折患者に対する術前介達牽引は,牽引をしない場合に比べ,疼痛の軽減や合併症,整復,術後4ヵ月での骨癒合率に差がなく,有効性がなく,推奨できない(F1F01071, EV level II-1). |
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大腿骨近位部骨折に対して,牽引をした例としなかった例との間に,疼痛,手術時の整復のしやすさ,手術時間に有意差は認められなかった.鋼線牽引と介達牽引の間にも有意差はなかった.唯一の違いは,鋼線牽引のほうが介達牽引よりも痛みが強くコストがかかったことである.術前牽引をルーチンに行うことには何もメリットはない(F1F01099, EV level I-2). |
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当初24時間での疼痛改善に関しては牽引グループのほうが優れていたが,その他は特に牽引グループが優れているわけではなかった(F1F04447, EV level II-1). |
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大腿骨頚部・転子部・転子下骨折に対する術前牽引は,手術時の整復時間,出血量のいずれにおいても有用ではなく,とりわけ直達牽引は鎮痛薬の使用量が多く,また整復時間,出血量も増加する(平均手術時期は入院から手術まで24時間で あった)(F1F04840, EV level II-1). |
文献