(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)

 
 
第4章 大腿骨頚部/転子部骨折の予防

■ Clinical Question 1
薬物療法は予防に有効か

推奨

【Grade A】
薬物療法は大腿骨頚部/転子部骨折の予防に有効である.


解説

ここでは大腿骨頚部/転子部骨折の予防効果についてのみ検討した(大腿骨頚部/転子部骨折以外の骨折予防や骨粗鬆症の治療については,骨粗鬆症の治療に関する他のガイドラインを参照).

サイエンティフィックステートメント

dot アレンドロネートとリセドロネートは70歳代までの骨粗鬆症の女性の大腿骨頚部/転子部骨折を減少させるとする高いレベルのエビデンスがある(EV level I-2).
dot ビタミンDはカルシウム併用で高齢者の大腿骨頚部/転子部骨折を減少させるとする高いレベルのエビデンスがあるが,単独使用や低用量では有効ではない(EV level I-2).
dot エストロゲンは大腿骨頚部/転子部骨折を減少させるが,他の全身的有害事象が多いとする高いレベルのエビデンスがある(EV level I-2
dot ビタミンKは,アルツハイマー病,パーキンソン病などの合併患者が多くを占める高齢者集団において大腿骨頚部/転子骨折を減少させるというエビデンスがある(EV level I-2
dot カルシウムは,ビタミンD併用で高齢者の大腿骨頚部/転子部骨折を減少させるとするエビデンスがあるが,高用量の単独投与により大腿骨頚部/転子部骨折リスクが上昇するというエビデンスもある(EV level I-2

エビデンス

dot 閉経後骨粗鬆症に対する治療のmeta-analysisシリーズの総まとめによれば,非脊椎骨折の抑制効果については,相対危険度はカルシウムが0.86(95%CI 0.43〜1.72),ビタミンD が0.77(95%CI 0.57〜1.04),エチドロネートが0.99(95%CI 0.69〜1.42),アレンドロネート(5mg)が0.87(95%CI 0.73〜1.02),アレンドロネート(10〜40 mg)が0.51(95%CI 0.38〜0.69),ラロキシフェンが0.91(95%CI 0.79〜1.06),カルシトニンが0.80(95%CI 0.59〜1.09),リセドロネートが0.73(95%CI 0.61〜0.87),エストロゲンが0.87(95%CI 0.71〜1.08),フロライドが1.46(95%CI 0.92〜2.32)であった.アレンドロネートとリセドロネートだけが非脊椎骨折に有意な治療効果を有していた.95%CIから相対危険度減少はアレンドロネートで少なくとも31%,リセドロネートで少なくとも13%であることが示された(F1F10067, EV level I-2).
dot カルシウム摂取に関する今日の文献と閉経後の女性の骨折のリスクについてのsystematic reviewによれば,ランダム化比較試験(RCT)からはカルシウムサプリメントによる大腿骨頚部骨折減少のエビデンスはなかった.大腿骨頚部骨折が調べられたカルシウム食餌摂取の疫学研究では,カルシウム食餌摂取と大腿骨頚部骨折の関連に大きな不一致がみられた.合体して算出された,1日当たり300mgのカルシウム食餌摂取増量の大腿骨頚部骨折に対するオッズ比(OR)は,0.96(95%CI 0.93〜0.99)であった(F1F02796, EV level I-2).
dot 大腿骨頚部/転子部骨折リスクとカルシウム摂取の関連を評価するためのコホート研究とRCTのmeta-analysisによれば,コホート研究からは,カルシウム摂取300mg/日による大腿骨頚部/転子部骨折相対リスクは,女性で1.01(95%CI 0.97〜1.05),男性で0.92(95%CI 0.82〜1.03)と有意な関連性はなかったが,RCT(n=6,504,カルシウム摂取量1,000〜1,200mg/日)からは,カルシウムとプラセボの間の大腿骨頚部/転子部骨折の相対リスクは1.64(95%CI 1.02〜2.64)で,感受性分析においても結果の実質的な変化はなかった.カルシウム補給は大腿骨頚部/転子部骨折リスクを減らすことなく,増加させる可能性がある(F2F03852, EV level I-2).
dot ビタミンDとその類似物質で高齢者骨折を予防できるかを知るために,ビタミンDとその類似物質を単独またはカルシウム併用で用いた群と,プラセボ,服用なし,またはカルシウム単独投与群とをRCTや準RCTで検討した.アウトカムが高齢者骨折である臨床試験をfixed-effect modelやrandom-effects modelで解析したところ,大腿骨頚部/転子部骨折(7試験,18,668例,RR 1.17,95%CI 0.98〜1.41),脊椎骨折(4試験,5,698例,RR 1.13,95%CI 0.50〜2.55),他の新規骨折(8試験,18,935例,RR 1.02,95%CI 0.93〜1.11)の発生に関して,ビタミンD単独投与では有意な抑制効果はなかった.カルシウム併用したビタミンDは,大腿骨頚部/転子部骨折(10,376例,RR 0.81,95%CI 0.68〜0.96)と非脊椎骨折(10,376例,RR 0.87,95%CI 0.78〜0.97)でわずかに新規骨折発生の抑制効果が認められたが,脊椎骨折では効果がなかった.プラセボ投与群とカルシウム単独投与群と比較して,ビタミンDあるいはその類似物質投与群,とりわけカルシトリオール投与群では,高カルシウム血症となる率が高かった.ビタミンD服用で胃腸障害や腎機能障害の発生率が高くなるという根拠はなかった.カルシウムを併用してビタミンDを投与すれば,施設の虚弱高齢者の大腿骨頚部/転子部骨折と非脊椎骨折の発生率を下げることが可能かもしれない.ビタミンDの単独投与の効果は明らかでない.ビタミンDと比べた場合にビタミンD類似物質の有用性は明らかでない.カルシトリオールは悪影響を及ぼす可能性があるかもしれない(F2F01125, EV level I-2).
dot ビタミンD補給による大腿骨頚部/転子部骨折や非脊椎骨折の予防効果を検証するために,ビタミンD単独あるいはカルシウム併用とプラセボあるいはカルシウム単独を比較したRCTに限定してsystematic reviewを実施した.大腿骨頚部/転子部骨折には5試験(9,294例),非脊椎骨折には7試験(9,820例)が採用された.高用量ビタミンD(700〜800IU/日)は,プラセボあるいはカルシウム単独に比べて,大腿骨頚部/転子部骨折リスクを26%減少させ(3試験,5,572例,RR 0.74,95%CI 0.61〜0.88),非脊椎骨折リスクを23%減少させた(5試験,6,098例,RR 0.77,95%CI 0.68〜0.87).しかしながら,低用量(400IU/日)では,大腿骨頚部/転子部骨折(RR 1.15,95%CI 0.88〜1.50),非脊椎骨折(RR 1.03,95%CI 0.86〜1.24)ともに有意な効果は得られなかった.700〜800IU/日のビタミンD補給は,歩行可能,あるいは施設入所の高齢者において大腿骨頚部/転子部骨折および非脊椎骨折のリスクを減少させるようだ.400IU/日では骨折予防には不十分である(F2F02731, EV level I-2).
dot 研究目的は,大腿骨頚部/転子部骨折予防のためにビタミンDにカルシウム補給の追加の必要性を明確にすることである.ビタミンD単独あるいはカルシウム併用とプラセボあるいはカルシウム単独を比較したRCTで,大腿骨頚部/転子部骨折リスクを報告しているものに限定した.大腿骨頚部/転子部骨折相対リスクは,ビタミンD単独では,4試験(9,083例)において1.10(95%CI 0.89〜1.36)であったが,ビタミンDとカルシウム併用では,6試験(45,509例)において0.82(95%CI 0.71〜0.94)であった.ビタミンDとカルシウム併用のビタミンD単独に対する大腿骨頚部/転子部骨折相対リスクは0.75(95%CI 0.58〜0.96)であった.これらの結果から,ビタミンD投与は,カルシウム補給が追加された場合のみ大腿骨頚部/転子部骨折リスクを下げることが示唆された.臨床的有効性を最適化するためにはカルシウムが併用されるべきである((F2F02297, EV level I-2).
dot アレンドロネートは閉経後骨粗鬆症の女性の骨折リスクを有意に減少させることが知られている.このmeta-analysisの目的は,異なった研究と対象層においてアレンドロネートによる大腿骨頚部/転子部骨折リスクの減少効果が一貫性を有するかを検証することである.meta-analysisの対象としたRCTにおいて研究期間は1〜4.5年で,アレンドロネートの用量は5〜20mg/日であったが,95%以上が5あるいは10mg/日であった.骨密度のT-scoreが-2.0以下か,あるいは既存脊椎骨折のある患者では,アレンドロネート投与による大腿骨頚部/転子部骨折リスクは一定して良好で45%減少(95%CI 16〜64%)であった.また,WHOの骨粗鬆症定義に合致するT-scoreが-2.5以下か,あるいは既存脊椎骨折のある患者では,大腿骨頚部/転子部骨折リスク減少は55%(95%CI 29〜72%)であった.どちらの解析においても感受性分析を行い,どの試験を抜いてもエビデンスの強さは不変だった.結論として,アレンドロネート治療は閉経後骨粗鬆症の女性の大腿骨頚部/転子部骨折の有意で臨床的意義の大きな頻度減少と関連していた.全体の減少は異なった患者層間で一定であった(F2F03194, EV level I-2).
dot リセドロネートは,70歳代骨粗鬆症女性5,445例と,80歳以上の女性で骨以外の大腿骨頚部骨折リスク因子を1つ以上有するもの,骨粗鬆症を有する女性3,886例での試験において,全体で大腿骨頚部/転子部骨折の相対危険度を0.7(95%CI 0.6〜0.9)に減少させた.特に70歳代骨粗鬆症女性では相対危険度は0.6(95%CI 0.4〜0.9)と有効性が高かったが,80歳以上の群では発生率に有意差はみられなかった(F1F00792, EV level I-1).
dot ビタミンK(フィトナジオンとメナキノン)の補給が骨減少を抑え,骨折を予防するかを評価するmeta-analysisを実施した.成人に6ヵ月以上フィトナジオンあるいはメナキノンを経口補給したRCTを対象とし,骨量減少は13試験,骨折データは7試験が同定された.1試験を除いた全試験でビタミンKの骨量減少抑制効果が示された.骨折効果の7試験はすべて日本人でメナキノンが使用されていた.7試験の骨折データを共同計算すると,メナキノンのORは,脊椎骨折で0.40(95%CI 0.25〜0.65),大腿骨頚部/転子部骨折で0.23(95%CI 0.12〜0.47),非脊椎骨折で0.19(95%CI 0.11〜0.35)だった.ただし,感受性分析で,大腿骨頚部/転子部骨折データの多くを提供する1センターからのデータ(脳卒中,パーキンソン病,アルツハイマー病を合併した高骨折リスク層のもの)を除くと,大腿骨頚部/転子部骨折リスクの減少は有意でなくなった(F2F03868, EV level I-2).
dot カルシトニンとエチドロネートの閉経後骨粗鬆症に対する予防効果をカルシトニン投与論文18編,エチドロネート投与論文6編に基づき,検討したところ,カルシトニン投与群のBMD変化率は脊椎で1.97,大腿骨近位部は0.32,脊椎圧迫骨折予防率は59.2,エチドロネート投与群では,それぞれ3.20,2.42,28.3であり,2者間で優劣は決定できなかった.しかし,大腿骨頚部骨折に関するデータはない(F1F02909, EV level I-2).
dot カルシトニンの閉経後骨粗鬆症に対する予防効果の検討により,カルシトニン投与群は,脊椎のBMD変化率が1.97,脊椎骨折予防率が59.2であった.大腿骨頚部/転子部骨折に関するデータはない(F1F02909, EV level I-2).
dot エストロゲンとプロゲステロンを併用した治療は,米国の16,608例の試験において大腿骨頚部/転子部骨折のハザード比を0.66(95%CI 0.45〜0.98)と有意に減少させた.ほかに結腸直腸癌も減少したが,虚血性心疾患,脳卒中,肺塞栓症は増加し,この試験は,エストロゲンとプロゲステロンの併用療法がむしろ有害であることを示した(F1F00268, EV level I-1).
dot 1995年までの37論文が採用されたmeta-analysisによれば,エストロゲンは閉経後の骨折率を抑制し,①primary prevention ではeffect sizeは0.5〜2.5 standard deviation(SD)unitsであった.②secondary preventionでも同様の数値であった.椎体骨折と大腿骨頚部/転子部骨折への効果を比較した論文としては,secondary prevention を検討した4編があった.effect sizeは大腿骨頚部/転子部骨折で小さく(0.92 SD units),椎体骨折で大きかった(2.12 SD units).primary preventionの1編では椎体骨折と大腿骨頚部/転子部骨折でeffect sizeに差がなかった(F1F02132, EV level I-2).

文献

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2) F1F02796 Cumming RG, Nevitt MC:Calcium for prevention of osteoporotic fractures in postmenopausal women. J Bone Miner Res 1997;12:1321-1329
3) F2F03852 Bischoff-Ferrari HA, Dawson-Hughes B, Baron JA et al:Calcium intake and hip fracture risk in men and women:a meta-analysis of prospective cohort studies and randomized controlled trials. Am J Clin Nutr 2007;86:1780-1790
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5) F2F02731 Bischoff-Ferrari HA, Willett WC, Wong JB et al:Fracture prevention with vitamin D supplementation:a meta-analysis of randomized controlled trials. JAMA 2005;293:2257-2264
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8) F1F00792 McClung MR, Geusens P, Miller PD et al:Effect of risedronate on the risk of hip fracture in elderly women. Hip Intervention Program Study Group. N Engl J Med 2001;344:333-340
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10) F1F02909 Cardona JM, Pastor E:Calcitonin versus etidronate for the treatment of postmenopausal osteoporosis:a meta-analysis of published clinical trials. Osteoporos Int 1997;7:165-174
11) F1F00268 Anonymous:Risks and benefits of estrogen plus progestin in healthy postmenopausal women:principal results from the Women's Health Initiative randomized controlled trial. JAMA 2002;288:321-333
12) F1F02132 O'Connell D, Robertson J, Henry D et al:A systematic review of the skeletal effects of estrogen therapy in postmenopausal women. II.An assessment of treatment effects. Climacteric 1998;1:112-123



 

 
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