(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン (改訂第2版)
第1章 大腿骨近位部骨折の分類
■ Clinical Question 1
大腿骨頚部骨折と転子部骨折
解説
わが国ではこれまで,高齢者の大腿骨近位部の骨折は,大腿骨頚部内側骨折(関節包内骨折)と大腿骨頚部外側骨折(関節包外骨折)とに分類され,両者を合わせて大腿骨頚部骨折と呼称してきた.
これに対して,最近の多くの欧米文献では,大腿骨頚部内側骨折をfemoral neck fracture(直訳で大腿骨頚部骨折),大腿骨頚部外側骨折をtrochanteric fracture(転子部骨折)・intertrochanteric fracture(転子間骨折)またはpertrochanteric fracture(転子貫通骨折)と呼称することが多い.したがって「大腿骨頚部骨折」という名称にはしばしば混乱が生じている.そこで,本ガイドラインでは,推奨・解説・サイエンティフィックステートメントの各項で,大腿骨頚部内側骨折・大腿骨頚部外側骨折という名称を使用せず,それぞれ大腿骨頚部骨折・大腿骨転子部骨折という名称で統一することにする.ただし,各論文から抽出したエビデンス中では,原文に従って記載してあるため,内側骨折・外側骨折という用語が使用されている箇所がある.
大腿骨近位部の骨折は,関節面に近い側から1)骨頭,2)頚部(骨頭下も含む),3)頚基部,4)転子部,5)転子下に発生する.このうち,骨頭骨折・転子下骨折は主として交通事故や労働災害などの高エネルギー損傷の結果として生じ,頚部骨折・頚基部骨折・転子部骨折は主として高齢者の転倒による低エネルギー損傷の結果として生じる.本ガイドラインが対象とするのは,後者の頚部骨折および転子部骨折(頚基部骨折を含む)である.
関節包内骨折(intracapsular fracture)である頚部骨折と,関節包外骨折(extracapsular fracture)である転子部骨折とは,解剖学的・血行動態的・生体力学的に異なるため,骨癒合率・骨壊死率・late segmental collapseの発生率に差が生じ(第6章CQ17の解説も参照),手術方法の選択も異なる.
頚部骨折は関節包内骨折,転子部骨折は関節包外骨折と前述したが,厳密な意味ではこの記述は正しくない.以下,このことと頚基部骨折について詳述する.関節包は靱帯性関節包と滑膜性関節包に分けることができるが,一般的には靱帯性関節包を関節包と呼称する.転子部前面には腸骨大腿靱帯すなわち靱帯性関節包が付いているが,付着部が厚いため,大腿骨転子部骨折の多くは腸骨大腿靱帯すなわち靱帯性関節包の停止部の内外にまたがって骨折する.つまり,大腿骨転子部骨折は靱帯性関節包内骨折である.よって,頚部骨折は滑膜性関節包内骨折,転子部骨折は滑膜性関節包外骨折と解釈すべき骨折である.頚基部骨折(basicervical fracture, basal neck fracture of the femoral neck)はその定義が明確でなく,頚部骨折・転子部骨折のどちらにも分類できないものを頚基部骨折と呼んでいるのが実状である.したがって,頚基部骨折では骨折線は滑膜性関節包の内外にまたがっていると解釈することが妥当と思われる.本ガイドラインでは,少なくとも骨折線の一部が滑膜性関節包外にあるが,靱帯性関節包の内部にあると思われる症例を頚基部骨折とする.この定義に従えば,血行の点からは転子部骨折の亜型として扱うのが妥当である.ただし,不安定な骨折であり回旋転位を生じやすい.

図1 大腿骨近位部の解剖
これに対して,最近の多くの欧米文献では,大腿骨頚部内側骨折をfemoral neck fracture(直訳で大腿骨頚部骨折),大腿骨頚部外側骨折をtrochanteric fracture(転子部骨折)・intertrochanteric fracture(転子間骨折)またはpertrochanteric fracture(転子貫通骨折)と呼称することが多い.したがって「大腿骨頚部骨折」という名称にはしばしば混乱が生じている.そこで,本ガイドラインでは,推奨・解説・サイエンティフィックステートメントの各項で,大腿骨頚部内側骨折・大腿骨頚部外側骨折という名称を使用せず,それぞれ大腿骨頚部骨折・大腿骨転子部骨折という名称で統一することにする.ただし,各論文から抽出したエビデンス中では,原文に従って記載してあるため,内側骨折・外側骨折という用語が使用されている箇所がある.
大腿骨近位部の骨折は,関節面に近い側から1)骨頭,2)頚部(骨頭下も含む),3)頚基部,4)転子部,5)転子下に発生する.このうち,骨頭骨折・転子下骨折は主として交通事故や労働災害などの高エネルギー損傷の結果として生じ,頚部骨折・頚基部骨折・転子部骨折は主として高齢者の転倒による低エネルギー損傷の結果として生じる.本ガイドラインが対象とするのは,後者の頚部骨折および転子部骨折(頚基部骨折を含む)である.
関節包内骨折(intracapsular fracture)である頚部骨折と,関節包外骨折(extracapsular fracture)である転子部骨折とは,解剖学的・血行動態的・生体力学的に異なるため,骨癒合率・骨壊死率・late segmental collapseの発生率に差が生じ(第6章CQ17の解説も参照),手術方法の選択も異なる.
頚部骨折は関節包内骨折,転子部骨折は関節包外骨折と前述したが,厳密な意味ではこの記述は正しくない.以下,このことと頚基部骨折について詳述する.関節包は靱帯性関節包と滑膜性関節包に分けることができるが,一般的には靱帯性関節包を関節包と呼称する.転子部前面には腸骨大腿靱帯すなわち靱帯性関節包が付いているが,付着部が厚いため,大腿骨転子部骨折の多くは腸骨大腿靱帯すなわち靱帯性関節包の停止部の内外にまたがって骨折する.つまり,大腿骨転子部骨折は靱帯性関節包内骨折である.よって,頚部骨折は滑膜性関節包内骨折,転子部骨折は滑膜性関節包外骨折と解釈すべき骨折である.頚基部骨折(basicervical fracture, basal neck fracture of the femoral neck)はその定義が明確でなく,頚部骨折・転子部骨折のどちらにも分類できないものを頚基部骨折と呼んでいるのが実状である.したがって,頚基部骨折では骨折線は滑膜性関節包の内外にまたがっていると解釈することが妥当と思われる.本ガイドラインでは,少なくとも骨折線の一部が滑膜性関節包外にあるが,靱帯性関節包の内部にあると思われる症例を頚基部骨折とする.この定義に従えば,血行の点からは転子部骨折の亜型として扱うのが妥当である.ただし,不安定な骨折であり回旋転位を生じやすい.

図1 大腿骨近位部の解剖