(旧版)大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン

 
第8章 大腿骨頚部/転子部骨折の周術期管理

 


8.4 感染
8.4.2 抗生剤の全身予防投与は有効か(有効ならどのように投与すべきか)

推 奨
【Grade A】
手術0〜2時間前および術後24時間までの経静脈的抗生剤投与を推奨する。
【Grade D】
術後のみの投与は推奨しない。

解 説
手術0〜2時間前の抗生剤の全身投与は感染予防に有効であるとするエビデンスレベルの高い文献が多い。 同様のエビデンスレベルで無効だとする文献もあるが、絶対的な感染症例数が少なく、有意差が得られないことが原因と考えられる。 抗生剤の投与によるデメリットと感染が発生した場合のデメリットとを比較すると、抗生剤投与は必要であると判断できる。
投与時期と期間は術前1回投与を推奨するものが多いが、術後も24時間くらい継続したほうがよいという報告もある。 術後のみの投与法は推奨できない。 なお、経口投与についてはエビデンスがなく、静注が困難な症例以外には用いるべきではない。

サイエンティフィックステートメント
抗生剤の術前の全身投与は感染予防に有効との高いレベルの報告がある(EV level Ia、EV level Ib)。一方では抗生剤の投与は感染率には影響がないという報告もある(EV level Ib)。
投与時期は術前1〜2時間前が適切であり、投与量はceftriaxoneでは1〜2 gで十分であるという高いレベルの報告がある(EV level Ib)。一方、術直前1回投与と3回投与を比較すると3回投与方がよく、抗生剤投与は24時間くらい継続したほうがよいという高いレベルの報告がある(EV level Ia)。
最初の抗生剤投与は皮切前0〜2時間以内がよい。術前2時間以上前の投与や術後の初回投与開始は感染予防効果が少なくなる(EV level Ia、EV level II)。
術後投与期間について:術後24時間は抗生剤投与をしたほうがよい(EV level Ia、EV level Ib、EV level II)。

エビデンス
股関節疾患、長管骨骨折例(8307例)で手術時に抗生剤(注射)を全身投与。術前一定量の投与群では深部・表層感染、尿路、呼吸器感染が減少した。抗生剤の半減期の長い一定量の投与群と半減期の短い可変量投与群間では有意差なし(FF00538, EV level Ia)。
224例対象。抗生剤投与群(117例)、対象群(107例、術前投与なし)。手術1〜2時間前にceftriaxone 2g投与。6週以内の早期合併症は投与群で有意差(p〈0.01〉あり。Univariate解析ではceftriaxoneの投与は合併症のリスクを下げた(p〈0.01〉(FF00958 , EV level Ib)。
239例。抗生剤投与群(124例)、対象群(115例、術前投与なし)。重度な創感染は各々1%と5%、軽度な創感染は4%と11%で、抗生剤投与で創感染予防に有意(p<0.05)であった。特に手術時間が長い、受傷から入院まで時間が長い、膀胱カテーテルの留置時間が長い、術前の血清アルブミンと白血球が低下している例では術後創感染のリスクが高い。大腿骨頚部骨折の患者の術後創感染予防に予防的抗生剤の投与は有用で、全例に予防的投与をすべきである(FF04497, EV level Ib)。
200例、平均年齢75.5(40〜97)歳。A群(術前にceftriaxone 1gのみで術後投与せず)、B群(術前にcefotaxime 1g、術後に同薬3g/日を3日間投与)間で比較。両群間で血液検査、体温、疼痛スコア、検尿デ-タ、局所の炎症所見に有意差なし。術前にceftriaxone 1gのみで十分である(FF05427 , EV level Ib)。
688例対象。平均年齢80.7(10〜100)歳。cefuroximeを予防的に投与。非投与群では深部感染症の発生率が高い(FF04113, EV level IV)。
312例の周術期に抗生剤を投与。Cefazolin 4回投与群、cefazolin 1回投与群、対象群3群比較(χ二乗検定)。創感染率は各々1.6%、2.4%、3.7%で有意差なし(FF05426 , EV level IV)。
感染予防には、全患者に予防的抗生剤投与が必要。最初の抗生剤投与は手術前0〜2時間以内に必要(FF02052, EV level Ia)。
股関節骨折(頚部/転子部を含む)162例(97例は頚部、56例は転子部、9例は転子下骨折)にランダムに麻酔導入中にcefuroxime 3gを静注したprophylaxis group:76例、非投与control group:76例(13例は除外)。そのうち13例に感染が起きた。表在性感染9例(prophylaxis group:4例、control group:5例)、深部感染4例(prophylaxis group:3例、control group:1例)。抗生剤の投与は感染率には影響がないようである(FF03490 , EV level Ib)。
股関節骨折(頚部/転子部を含む)の手術での抗生剤投与に関し、麻酔導入時に1.5gのセフロキシムを静注(246例)、プラセボ(256例)と比較した結果、502人中58人(11.5%)に浅創感染を起こし、25人が抗生剤群、33人がプラセボ群で両群に発生率の有意差はなかった。深部感染は11人(2.2%)で、抗生剤群4人、プラセボ群7人で両群の発生率に有意差なし。1.5gのセフロキシム単回投与では感染発生率を減少させることはできなかった(FF05490 , EV level Ib)。
Hip fractureで抗生剤の使用群をプラセボ群と比較すると抗生剤投与により術後感染のリスクが44%少なくなった。全患者に予防的抗生剤投与が必要。術後感染に関して術直前1回投与と多数回を比較すると他多数回投与のほうがよい。3回投与と他多数回投与の比較では感染率に差がなかった。抗生剤投与は24時間くらい継続したほうがよい(3回投与)(FF02052 , EV level Ia)
予防的抗生剤の投与を行った2847例の術後創感染を皮切と抗生剤投与の時期により、Early群(369例;初回抗生剤投与が皮切の2〜24時間以内)、Preoperative群(1708例;初回抗生剤投与が皮切の0〜2時間以内)、Perioperative群(282例;初回抗生剤投与が皮切後の3時間以内)、Postoperative群(488例;初回抗生剤投与が皮切後の3〜24時間以内)と分けた。全例少なくとも術後24時間は予防投与を受けた。感染率はEarly群14例(3.8%)、Preoperative群中10例(0.6%)、Perioperative群中4例(1.4%)、Postoperative群中16例(3.3%)で感染率が最も低いのは術前0〜2時間に抗生剤投与を受けたものであった。術後投与は時間が遅くなるほど感染率が高くなった(FF10039, EV level II)。
整形外科手術のclean operationで金属製インプラントや内固定を入れる手術においてCefamandoleの5回投与(GroupI:術前30分に2g、手術開始後2時間で2g、8時間、14時間、24時間後に1gを静注または筋肉内注射した)のほうが、術前1回のみの投与(Group II:術前術前30分に2g静注のみ)より感染防止効果があった。Moore人工骨頭例では感染がGroupI:74例中0例、Group II:76例中5例(6.6%)に発生した(p=0.03)。Ender nailまたは他の内固定では感染がGroupI:261例中3例(1%)、GroupII:306例中15例(5%)に発生した(p=0.006)(FF10041 , EV levelIb)。

文 献
1) FF00538 Gillespie WJ, Walenkamp G:Antibiotic prophylaxis for surgery for proximal femoral and other closed long bone fractures. Cochrane Database Syst Rev 2001;(1):CD000244
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3) FF04497 Bodoky A, Neff U, Heberer M et al:Antibiotic prophylaxis with two doses of cephalosporin in patients managed with internal fixation for a fracture of the hip. J Bone Joint Surg 1993;75-A:61-65
4) FF05427 Karachalios T, Lyritis GP, Hatzopoulos E:Antibiotic prophylaxis in the surgical treatment of peritrochanteric fractures:a comparative trial between two cephalosporins. Chemotherapy 1990;36:448-453
5) FF04113 Aagaard H, Noer HH, Scavenius M et al:Computer registration of infections used to measure the effect of prophylactic antibiotics on postoperative infections following osteosynthesis in hip fractures. J Hosp Infect 1994;27:257-262
6) FF05426 Buckley R, Hughes GN, Snodgrass T et al:Perioperative cefazolin prophylaxis in hip fracture surgery. Can J Surg 1990;33:122-127
7) FF02052 Morrison RS, Chassin MR, Siu AL:The medical consultant's role in caring for patients with hip fracture. Ann Intern Med 1998;128:1010-1020
8) FF03490 Kaukonen JP, Kemppainen E, Makijarvi J et al:One dose cefuroxime prophylaxis in hip fracture surgery. Ann Chir Gynaecol 1995;84:417-419
9) FF05490 McQueen MM, LittleJohn MA, Miles RS et al:Antibiotic prophylaxis in proximal femoral fracture. Injury 1990;21:104-106
10) FF10039 Classen DC, Evans RS, Pestotnik SL et al:The timing of prophylactic administration of antibiotics and the risk of surgical-wound infection. N Engl J Med 1992;326:281-286
11) FF10041 Gatell JM, Garcia S, Lozano L et al:Perioperative cefamandole prophylaxis against infections. J Bone Joint Surg 1987;69-A:1189-1193

 

 
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