EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン
III 尿失禁診療ガイドライン |
2. 腹圧性尿失禁の治療
(3) 外科的治療
1)手術術式
<1> 恥骨後式膀胱頸部挙上術
恥骨後式膀胱頸部挙上術は、下腹部切開による開創手術により、クーパー靭帯や恥骨骨膜などをアンカーとして利用し、傍尿道・膀胱頸部組織を挙上・支持固定するものである。代表的な術式としては、尿道・膀胱頸部周囲組織および腟と恥骨後面の骨膜とを縫合するMarshall-Marchetti-Kranz法、クーパー靭帯とを縫合するBurch法があり、膀胱頸部過可動症例を適応とする。
<2> 経腟式膀胱頸部挙上術
Stamey法、Gittes法、Raz法などがあり、わが国では1980年代中ごろよりStamey法が広く行われており、膀胱頸部過可動症例を適応とする。術後短期成績は優れるが、長期成績の低下が近年指摘され39)、最近では膀胱頸部過可動症例に対してもスリング手術が選択されることがある40)。膀胱頸部過可動症例を適応とし、ISDを有する症例では改善率が不良である41)。
<3> 膀胱頸部(尿道)スリング手術
経腹的および経腟的な方法があるが、女性腹圧性尿失禁には通常侵襲の少ない経腟的スリング手術を行うことが一般的である。ISD症例や他の尿失禁手術失敗例が適応となるが、最近は膀胱頸部過可動症例も適応とされている40)。スリングに用いる素材としては、筋膜(腹直筋、大腿筋)、腟壁などの生体組織やMarlex mesh、ポリテトラフロロエチレンなどの合成素材を用いる。長期成績は良好であるが、術後の下部尿路閉塞や新たに発生する尿意切迫感の発生が問題となる。近年は、膀胱頸部あるいは尿道をスリングで「挙上」するのではなく、「支える」という考え方で、スリングに張力をかけない手術を行うことが一般的である。プロリーンメッシュテープをスリングとして用い、尿道中部を支えるTVT(Tension-free Vaginal Tape)スリング手術は、局所麻酔下でできる低侵襲手術として行われている。
<4> 尿道周囲注入療法
膀胱頸部・近位尿道粘膜下にGAXコラーゲンを注入し、膀胱頸部・近位尿道の密着を図るもので、ISD症例を適応とする。経尿道的内視鏡下あるいは傍外尿道口からの針穿刺による注入法がある。再発率が高く、安定した効果を得るためには2回以上の注入を要することが多い。