EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン

 
III 尿失禁診療ガイドライン
女性尿失禁診療ガイドライン

2. 腹圧性尿失禁の治療
(1) 下部尿路リハビリテーション

1)下部尿路リハビリテーションの方法

<1> 骨盤底筋訓練法
骨盤底筋訓練法は、肛門挙筋および尿道周囲、腟周囲の括約筋群を随意的に収縮させて行う下部尿路リハビリテーションである。
骨盤底筋訓練法は (1) 腹圧負荷時に反射的に尿道括約筋を収縮させる方法を習得させる、(2) 骨盤底筋群の筋力強化により尿道閉鎖圧を高める、という2点を目標とする。腹圧性尿失禁の重症度や困窮度別の骨盤底筋訓練法の適応基準に言及する報告は少なく16)、原則として訓練法を理解し、継続する意思のあるすべての症例が適応となる。
患者にはまず腹圧性尿失禁の生じる機構(解剖・生理)について説明し、訓練の方法を理解させる。訓練は、口頭での説明のみでは不十分であり17)、指導者が腟内診を行いながら、骨盤底筋群の位置を認識させ、正しい収縮法を伝える(用手的指導法)。基本的な訓練プログラムは、最大収縮力で8〜12秒間の収縮維持と、引き続き収縮と同じ時間の弛緩をさせ、この反復を一日に80〜100回行わせる。訓練開始時の患者の筋力により収縮時間や、収縮回数は適宜減じる。また、患者には尿失禁を生じるような腹圧時(例 : 咳、くしゃみ、運動時など)に骨盤底を意識的に収縮させるように指導する。
骨盤底筋訓練法の効果をより増強するための補助方法としては定期的な指導者による集中訓練18)、バイオフィードバック療法19)、腟内コーン20)などがある。
指導者による集中訓練は骨盤底筋訓練法を習得した者に、定期的に施設を受診させ、毎回指導者による一定時間の訓練を行う。指導者は種々の体位で骨盤底の最大収縮をさせ、自宅でも同様の訓練を継続するように動機づけをする。
バイオフィードバック療法は骨盤底筋の収縮を電気的あるいは力学的にモニターし、患者がこれを視覚的、聴覚的に把握できるような機器を用いた訓練である。代表的なものとして腟内圧測定計を用いる方法と、腟・肛門内電極あるいは表面電極から導出した筋電図を用いる方法とがある。近年は、筋電計の情報をパーソナル・コンピュータ上に表示して指導するシステムがいくつか製品化されているが、わが国では未認可である。簡便法としては、腟内に細径の円筒を挿入して、骨盤底筋収縮時の円筒の動きを確認させて収縮法を把握させる方法もある。
腟内コーンとはタンポン型に成型された錘である。これを腟内に挿入し、落下させないように骨盤底筋を収縮させて歩行する。15分間の歩行が一般的である。錘は同型で20から100gの間で数種の重量に設定されており、各自の骨盤底筋の筋力強度によりいずれかを選択して使用する。

<2> 膀胱訓練法
膀胱訓練法とは「成人において尿失禁をコントロ-ルすることを目的とした、学習および行動療法的な訓練法」と定義されている。具体的な方法は報告者により異なるが、原則的には、(1) 尿禁制および尿失禁の病態についての学習、(2) 計画的な排尿および段階的な排尿間隔の延長、(3) 気を紛らわせたり心身をリラックスさせることによる尿意切迫感のコントロ-ル、(4) 排尿習慣についての自己評価、(5) 医師による支援、の各要素より構成される21)。これらのうち (2) に関しては、計画の順守を強く強制するものから緩やかなものまで報告によりさまざまであり、また、排尿間隔についても一定していない。(3) の尿意切迫感の自己コントロ-ルの具体的な方法についても、深呼吸・算数計算などに精神を集中する方法・自己暗示・会陰部圧迫法・骨盤底筋の随意収縮法などが報告されている。

<3> 骨盤底筋電気刺激療法
骨盤底筋群に対する電気刺激療法は、同所において肛門挙筋、尿道・肛門括約筋を収縮させる。電気刺激の投与ルートにより経腟的、経肛門的、経皮的電極が市販されている。電極の選択、治療のスケジュール(刺激周波数、刺激回数、治療頻度など)に関しては、種々の報告があるが、腹圧性尿失禁においては、外尿道括約筋の閉鎖機能の強化を図るため、20〜50Hzで2〜3回/日を4〜8週で行う22,23)。副作用として、腟、肛門の不快感や疼痛があるが重篤ではない。電気刺激を行う禁忌の主なものとしては妊婦あるいは妊娠の可能性のある症例、腟炎、腟瘻、子宮脱などの症例、心臓ペースメーカー使用例、不整脈がある。本法に用いる電気刺激発生器は、わが国では未認可である。

<4> 生活指導
腹圧性尿失禁の生活習慣における危険因子としては、肥満、便秘、喫煙、飲水過多などがあり、これらの改善を指導する。服用中の薬剤による可能性も考慮する必要がある。一方、腹圧性尿失禁の消極的防御法として各種吸収性パッドを用いる方法がある。治療開始までの評価期間あるいは、治療効果の発現までの期間にやむを得ず用いる他は、安易に使用することは指導すべきでない。
 
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