EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン
III 尿失禁診療ガイドライン |
3. 治療
(3) 外科的治療
1) 女性の腹圧性尿失禁に対する手術
原因として、膀胱頸部・尿道の過可動性によるものと内因性括約筋不全によるものがあり、外科的治療の選択においては2つの病態の評価が重要である。女性腹圧性尿失禁に対する外科的治療として、恥骨後式膀胱頸部挙上術、経腟式膀胱頸部挙上術、前腟壁形成術、スリング手術、尿道周囲コラーゲン注入術、人口尿道括約筋埋め込み術の6つの手術法がある。
<1> 恥骨後式膀胱頸部挙上術
膀胱頸部過可動症例に対して行うもので、Marshall-Marchetti-Krantz手術やBurch手術など開腹して行う手術である61,62)。AHCPR尿失禁ガイドラインの45論文の3,882例のまとめでは、治癒率は79%、治癒を含む改善率は84%であった。最近では、腹腔鏡による手術も試みられている63,64)。
<2> 経腟式膀胱頸部挙上術
膀胱頸部過可動症例に対して行うもので、Stamey手術、Pereyra手術、Gittes手術、Raz手術がある61,62)。これら手術を受けた3,015例のまとめでは、治癒率は74%、治癒または改善率は84%であった(AHCPR 尿失禁ガイドラインから抜粋)。術後短期成績は優れているものの、長期成績の低下が近年指摘されている。
<3> 前腟壁形成術
膀胱頸部過可動症例に対して行うもので、Kelly 手術が原法となっている65)。11論文中の957人患者のうち、治癒率は65%とされている(AHCPR尿失禁ガイドラインから抜粋)。
<4> スリング手術
腹直筋筋膜などの生体組織やMarlex mesh、ポリテトラフロロエチレン、プロリーンメッシュテープなどの合成素材をスリングとして膀胱頸部あるいは尿道を支える66,67,68,69)。腹直筋筋膜を材料とした434例の治癒率は89%、改善率は92%、合成素材を用いた298例の治癒率は78%、改善率は84%とされている(AHCPR 尿失禁ガイドラインから抜粋)。内因性尿道括約筋不全症例や他の尿失禁手術失敗例が対象となるが、最近は膀胱頸部過可動症例も適応とされている。
<5> 尿道周囲コラーゲン注入術
膀胱頸部・近位尿道粘膜下にコラーゲンを注入し、膀胱頸部・近位尿道の密着を図るもので、内因性括約筋不全症例を対象とする。528例の女性に対する本法の成績は治癒率49%、改善率67%とされているが(AHCPR尿失禁ガイドラインから抜粋)、再発率が高く、長期成績は不明である。
<6> 人工尿道括約筋埋め込み術
192例の女性に対する本法の成績は、治癒率で77%、改善率は80%とされている(AHCPR 尿失禁ガイドラインから抜粋)。しかし、症例数も少なく、長期成績も欠除しており、有用性については評価は定まっていない。また、わが国ではあまり行われていない。人工括約筋の機能不全や難治性感染などの合併症が生じやすいことが問題である。