EBMに基づく尿失禁診療ガイドライン

 
I 尿失禁診療ガイドラインの概要
尿失禁の診療標準化と診療ガイドラインについての概説

5. 女性尿失禁に対する診療ガイドライン

「女性尿失禁診療ガイドライン」は、すでに記載した第1回国際尿失禁会議で作成された、尿失禁の診断と治療に関する勧告(ICS ガイドライン)および1997年に米国泌尿器科学会が作成した、女性腹圧性尿失禁の外科的治療に関するガイドライン(AUA ガイドライン)を基にして、両者の比較検討に加え、両者が作成された年度以降の新たな論文を系統的論評し、女性腹圧性尿失禁および切迫性尿失禁を対象に作成したものである。論文探索は英文論文についてはCochrane LibraryのCD版とインターネットを介したPub Medで1995年から2001年の間にclinical trial, Human, female Medline, incontinenceのキーワードを用いて447論文を、日本の論文は手作業で尿失禁に関する臨床研究の12論文を抽出した。抽出した論文は名古屋大学泌尿器科(主任 : 大島伸一教授)、奈良県立医科大学泌尿器科(主任 : 平尾佳彦)、信州大学泌尿器科(主任 : 西沢 理教授)および三井記念病院(中田真木)ならびにそれぞれの関連病院勤務医等が分担して論文を査読し、論文評価シートを用いて系統的に評価し、ランクづけを行った(それぞれの論文のエビデンスレベルについては「女性尿失禁診療ガイドライン・女性尿失禁診療ガイドライン作成に関する主な論文」を参照)。これらの論文は再度パネルを開いて、領域別にそのエビデンスレベルの確認を研究小班研究者(西沢 理、中田真木、武田正之、石塚 修、後藤百万、吉川羊子、加藤久美子、百瀬 均、関 成人)により行われ、原則としてエビデンスレベルI、IIを優先したが、無作為試験の対象となりにくい診断法などについての領域はレベルVでも採択し、最終的に105論文がガイドライン作成に用いられた。
このガイドラインの使用対象者は、尿失禁を専門とする医師が極めて少ないわが国の現状を考え、泌尿器科医、産婦人科医および実地医家とし、日常臨床で容易に活用できるよう簡明な表現を工夫した。モデル患者としては「客観的に証明され、社会的にも衛生的にも問題となる尿失禁を自覚し、受診した女性患者」を想定している。このガイドラインの全般的な要約はアルゴリスムで表現し、冒頭に示した(図1)。その特徴をみると、尿失禁は同じQOL疾患である前立腺肥大症とは異なり、確立した重症度判定基準がなく、また、重症度に対応する治療法も明快に示せないことで、簡便な初期評価により、腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、混合性尿失禁などのタイプに分類し、患者に治療指針を提示し、それぞれのタイプに応じた保存的治療、すなわち骨盤底筋訓練・膀胱訓練・生活指導と、薬物治療をまず行うことにある。これらで治療効果が不十分な患者もしくは外科的治療の対象となる患者や神経学的異常が疑われる段階で、専門医による尿流動態検査と画像診断を中心とした二次評価を行い、あらためて治療指針を提示して治療を選択するステップを採ることにある。それぞれの詳細については、「女性尿失禁診療ガイドライン」の章で詳細を記載するので本章では割愛する。


図1 女性尿失禁の診療アルゴリズム
図1 女性尿失禁の診療アルゴリズム
# : このアルゴリスムは、客観的に証明され、社会的にも衛生的にも問題となる尿失禁患者を対象とする。
*1 : 問診(排尿状態、月経状態を含む) ; 排尿日誌、パッドテスト、QOL身体的検査(神経学的検査、膣診) ; ストレステスト、検尿、残尿の有無
*2 : 残尿測定、尿流測定、膀胱内圧測定、ALPP、画像検査(腹部超音波、膀胱造影)
*3 : バイオフィードバック療法、電気刺激療法
*4 : 吸収剤、デバイス
 
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