III. 分担研究報告 |
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6. 薬物療法の適応 |
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厚生科学研究費補助金(21世紀型医療開拓推進研究事業:EBM分野) 分担研究報告書 科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドラインの策定に関する研究 薬物療法の適応 分担研究者 茨木 信博 日本医科大学付属千葉北総病院眼科教授 |
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研究要旨 : 白内障の薬物療法についての診療ガイドラインを作成するために、科学的根拠を明らかにした。
PubMed、医学中央雑誌より文献を抽出し、さらに、国内承認済の白内障治療薬については、可能な限り過去にさかのぼり文献抽出し、エビデンスレベルを付け、勧告をおこなった。その結果、有効性に関するランダム化比較試験がないか、あってもきわめて少なく、客観性を欠いており、十分な科学的根拠を持つ白内障治療薬はなかった。
国内承認薬の使用にあたっては、その有効性が明確でないことの十分なインフォームドコンセントを得た上で投与することが望ましいと考えられ、今後各々の薬物に対する科学的根拠を明確にする必要があると思われた。 |
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A. 研究目的 |
白内障の薬物療法、予防法の診療ガイドライン策定のために科学的根拠を明らかにすること。 |
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B. 研究方法 |
白内障の薬物療法、予防法に関する文献を、PubMedでは2001年2月より過去10年間、医学中央雑誌の1987年より2001年5月の間について検索した。
PubMed 272件、医学中央雑誌888件の該当論文より、動物実験、テキストが日本語、英語以外のもの、その他本研究に該当しないものを除いた24件について検討した。
エビデンスレベルを表1のように分類、勧告(ガイドライン)を表2のように分類した。
また、国内認可薬物については、可能な限り過去にさかのぼり文献検索を行った。
169件の文献の内、動物実験、テキストが日本語、英語以外のもの、その他本研究に該当しないものを除いた51件についてエビデンスの分類、勧告を作成した。
表1 | エビデンスのレベル | 内容 | I | ランダム化比較試験のメタ分析 | II | 1つ以上のランダム化比較試験 | III | 非ランダム化比較試験 | IV | コホート研究/症例対照研究 | V | ケースシリーズ/ケースレポート | VI | 患者データに基づかない専門委員会や専門家個人の意見 |
表2 | 勧告のグレード | 内容 | A | 行うよう強く勧められる | B | 行うよう勧められる | C | 行うか、行わないか勧められるだけの根拠が明確でない | D | 行わないよう勧められる |
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C. 研究結果 |
PubMed、医学中央雑誌58件中、エビデンスレベルIIIのものは3件、IIのものは12件、Iのものはなかった。
点眼薬についてのエビデンスはなく、内服薬で3種の薬物(ベンダリン、L-システイン、抗酸化物)が検討されていた。
ベンダリンは、症例数が少なく、観察期間が短いという問題はあるものの有効性が認められるという報告と、胃腸障害等の副作用が有意に多く有用性はないという報告があった。
L-システインはチオプロニンと同等の白内障抑制効果を持つとの報告があるが、チオプロニンに抑制効果のエビデンスがないことより、L-システインの有効性は明らかではなかった。
抗酸化物であるビタミンC、ビタミンE、β-カロチンの白内障進行阻止効果については4500余名を対象に7年間のRCTが行われた結果、無効と報告されていた。以上より、ベンダリン、L-システインに関しては勧告グレードCに、ビタミンC、ビタミンE、β-カロチンはDの勧告グレードとなった。
国内承認薬物については、51件中エビデンスレベルIIIのものが5件、IIのものが4件、Iのものはなかった。
ピノレキシンが有効であるという報告は、症例数が少ないこと、肉眼で行われた写真による混濁変化判定の非客観性等の問題があった。
グルタチオンの検討では、混濁の軽度なものに有効であるという報告があるが、肉眼で行われた写真による混濁変化判定の非客観性等の問題があった。
チオプロニン、パロチンが有効であるという報告は、効果判定に自覚検査の矯正視力が用いられていること、混濁変化判定用の写真撮影の再現性、評価方法が不明確で客観性を欠いていた。
漢方薬は、八味地黄丸、牛車腎気丸に適応があるが、ランダム化比較試験はなかった。
以上より、国内承認薬については、勧告グレードはCとなった。 |
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D. 考察 |
承認済の点眼薬、内服薬共に有効性を検討したランダム化比較試験がないか、あってもきわめて少なく、十分に検討されていなかった。
その数少ないランダム化比較試験においても、症例数が少ないことや、効果判定に自覚検査の矯正視力が用いられていること、混濁変化判定の写真撮影の再現性、評価方法が不明確で客観性を欠いていた。
したがって、初期老人性白内障に対し、承認済の点眼薬(ピノレキシン、グルタチオン)、内服薬(チオプロニン、パロチン)の投与を考慮しても良いが、十分な科学的根拠がないため、十分なインフォームドコンセントを得た上で使用することが望ましいと考えられた。
漢方薬は、白内障に対する効果に科学的根拠が無いので勧められないと考えられた。
それ以外の薬物では、ベンダリン、L-システインは、白内障治療薬としての十分な科学的根拠がないので、十分なインフォームドコンセントを得た上で使用することが望ましく、白内障予防薬として、ビタミンC、ビタミンE、β-カロチンの投与は推奨できないと考えられた。
科学的根拠がない薬物、あるいは十分でない薬物に対して、今後客観的評価方法を用いたランダム化比較試験の必要性があると思われた。 |
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E. 結論 |
現在のところ、白内障の薬物療法に関して、十分な科学的根拠を持つ薬物はない。
国内承認薬の使用にあたっては、その有効性が明確でないことの十分なインフォームドコンセントを得た上で投与することが望ましい。
また、今後各々の薬物に対する科学的根拠を明確にする必要がある。 |
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F. 研究発表 |
なし |
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G. 知的所有権の出願・登録状況 |
なし |