(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 -H. pylori二次除菌保険適用対応-

 
第3部 胃潰瘍診療ガイドラインの作成と評価

 
1.EBMの解説とガイドライン作成過程
1)Evidence-based Medicineと診療ガイドライン

Evidence-based Medicine(EBM)は,その強力な提唱者であるSackettらの著書によれば,最良の研究成果(best research evidence),深い臨床経験や技能(clinical expertise),患者の価値観(patient values)を統合して行う医療のことである1)。ここでの研究成果は実験室での基礎的研究ではなく,診断や治療,予防に関する患者を対象とした科学的な手法に基づく臨床的研究を中心としたものをいう。EBMはこのような研究成果に基づきながらも,医師の技能や経験によって患者の状態や問題点を的確に把握し患者の個々の希望や悩みについても十分勘案したうえで,最も適切な治療を考える医療であり,医師や患者の積極的・主体的な関与を認めていることを忘れてはならない。このような考え方に沿って医療を行うことにより,医療水準や患者の満足度を向上することに資するだけでなく,根拠のない無駄な医療を排除することによって限られた医療資源の効率的な活用が期待できるであろう。
わが国でもEBMを「科学的根拠に基づく医療」とせず,「根拠に基づく医療」と名づけ,「診ている患者の臨床上の疑問点に関して,医師が関連文献等を検索し,それらを批判的に吟味したうえで患者への適応の妥当性を評価し,さらに患者の価値観や意向を考慮したうえで臨床判断を下し,専門技能を活用して医療を行うこと」と定義している(図12)。しかし,日常臨床の場において遭遇する多くの患者の多様な問題点や疑問点に対して,多忙な医師が関連文献をもれなく検索しこれを批判的に吟味してその妥当性について評価したうえで臨床判断を行うことは極めて困難である。そこで,さまざまな臨床的問題点についてのエビデンスを体系的に収集し,これを吟味・評価する作業を専門家が代行し,診療指針(ガイドライン)として提供することが一般的に行われることとなった。
もちろん,臨床上の疑問点に対して,きちんとした科学的根拠が整えられているわけではなく,エビデンスのない場合もむしろ多い。しかし,これはEBMを排除する根拠にはならず,エビデンスの構築が必要な問題点を明確化し,その解決を促すEBMのひとつの動的プロセスとして捉えるべきである。すなわちEBMは,たんに受動的にエビデンスを受け取るだけでなく,必要なエビデンスを構築していくという能動的なプロセスを含む医学思想体系であると考えるべきである。

図1 EBMの考え方
図1EBMの考え方
厚生省健康政策局研究開発振興課医療技術情報推進室 監修:わかりやすいEBM講座.厚生科学研究所,2000

 

 
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