(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 -H. pylori二次除菌保険適用対応-

 
第2部 胃潰瘍診療ガイドライン―解説―

 
4.H. pylori 除菌治療
4-5再発防止,除菌治療と逆流性食道炎,胃食道逆流症(GERD)

3)ステートメントの根拠
(1)H. pylori 除菌治療による胃潰瘍の再発予防
(グレードA,レベルI)
1994年のNIHコンセンサス会議では,すべてのH. pylori 陽性の消化性潰瘍は,初発・再発を問わず,除菌すべきであると結論された1)
しかし,欧米では消化性潰瘍のなかでも十二指腸潰瘍の占める比率が高く,除菌治療による胃潰瘍再発抑制効果は疑問視された時期もあった2)
海外やわが国での多くの報告ではH. pylori の除菌に成功すると胃潰瘍の再発は明らかに抑制されるとの報告が相次ぎ,これらの結果は従来の酸分泌抑制薬を用いる維持療法よりも優れた成績である。胃潰瘍症例でも十二指腸潰瘍と同様にH. pylori 除菌治療は潰瘍再発を予防することが明らかである3),4),5),6),7),8),9),10)
その後,Hulstらは45例の胃潰瘍症例に対して除菌治療を行い,平均2.5年,最長9.8年の長期に及ぶ経過観察の結果から,十二指腸潰瘍と同様に除菌成功群からの胃潰瘍再発が皆無であったことを報告した(表310)。最近報告された世界における52件の臨床試験のメタアナリシスによると,胃潰瘍も十二指腸潰瘍と同様に除菌治療は再発抑制に効果的であるとされている11)。しかし,胃潰瘍再発抑制の長期経過観察の報告はいまだ少なく,今後の検討が必要である。
わが国でも,除菌治療による胃潰瘍の再発抑制効果が確認されている12)。LPZ/AMPC/CAM3剤併用治療1年後の胃潰瘍の累積再発率は,除菌成功群では11.4%であるのに対して,除菌治療不成功群では64.5%と有意に高い(P<0.0001)再発率を示した(図5)。また,最近報告されたわが国での4,000例を超える多施設共同研究13)では,除菌後の胃潰瘍の再発率は1年間に1.9%と非常に低率であることが示されている。
したがって,活動性出血がなく,かつNSAID使用との関連のない胃潰瘍症例ではH. pylori の感染診断を行い,H. pylori 陽性症例に対しては除菌治療を行うべきである。

表3 H. pylori 除菌による胃・十二指腸潰瘍の再発抑制
  胃潰瘍 十二指腸潰瘍
患者数 64 183
平均年齢(歳) 54.0 48.2
除菌成功 45 141
追跡期間(年) 2.5(0.5〜9.8) 2.6(0.6〜9.2)
除菌後の患者×期間 113 367
潰瘍再発率 0 0
Van der Hulst RW, et al: Gastroenterology, 113(4):1082-6,199710)

図5 胃潰瘍の累積再発率
図5胃潰瘍の累積再発率
Asaka M, et al: J Gastroenterol, 38(4):339-47,200312) (注)Logrank検定  

(2)逆流性食道炎,胃食道逆流症(GERD)の発生
H. pylori 除菌治療後の問題点のひとつとして逆流性食道炎あるいは胃食道逆流症(GERD)の新たな発症やその増悪が懸念されている14),15),16)
除菌治療後にGERDが発生する重要な要因のひとつは,除菌による胃底腺領域の炎症の改善による胃酸分泌の回復である。
除菌治療後に逆流性食道炎あるいはGERD症状が新たに出現するかどうかは報告により異なり,現在までのところ明らかではない。また,既存の上記症状を増悪させるとの成績も示されていない17),18)。最近では除菌治療は逆流性食道炎,GERDの原因とはいえないという報告が多い19),20),21),22),23)
一方,除菌後にGERD症状の改善あるいは消失が除菌成功群に多いとの報告もみられ24),25),26),最近ではむしろ,逆流性食道炎やGERD症状は改善するという報告が多くみられる27),28),29),30)。しかし,これらの報告の多くは十二指腸潰瘍を対象にしたものが多く,胃潰瘍のみを対象とした報告がないことが問題である。
このように,除菌後のGERDについてはいまだ一定の見解が得られていない。特に,わが国では欧米と比較して体部胃炎が強いので,除菌後の胃酸分泌能を含めた胃の生理学的機能の変化を客観的に把握する必要がある。
海外の成績ではあるが,24時間pHモニタリングを用いた除菌前後での検討では,胃食道逆流の頻度および持続時間には有意差を認めていない。最近わが国からも,胃潰瘍除菌後では胃内は過酸となるが食道ではpH変化がないという報告がある31)
わが国は,欧米と比較して萎縮性胃炎の頻度と程度が高い国であり,胃潰瘍に対して除菌治療が行われた症例のその後の症状を注視する必要がある。

 

 
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