(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 -H. pylori二次除菌保険適用対応-

 
第2部 胃潰瘍診療ガイドライン―解説―

 
4.H. pylori 除菌治療
4-2初期治療

3)ステートメントの根拠

根拠に基づいた医療(Evidence-based Medicine;EBM)の視点から,胃潰瘍の初期治療におけるH. pylori 除菌治療の治癒効果についてのステートメントを作成した。検索にて得られた文献から,研究デザインがランダム化比較試験(RCT)である18編を採用して,H. pylori 除菌治療が胃潰瘍の治癒にどのような影響を与えているかについて検討した。
ステートメント1は従来の酸分泌抑制薬による治療群と従来の治療にH. pylori 除菌治療を加えた群において,胃潰瘍の治癒率を検討した複数のRCTとメタアナリシスに基づいている1),2),3),4),5),6),7),8),9),10),11),13),14),15),16),17)(グレードA,レベルI)。胃潰瘍の治癒率の検討において,H. pylori の除菌治療としてはビスマス製剤とビスマス製剤に抗菌薬を併用する古典的3剤療法1),2),抗菌薬1剤と酸分泌抑制薬を併用する2剤療法3),4),5),6),7),8),9),10),抗菌薬2剤と酸分泌抑制薬を併用する3剤療法11),12),13),14),15),メタアナリシス16),17),18)による成績が報告されている。いずれの治療法においても従来の酸分泌抑制薬による治療と比較して,胃潰瘍の治癒率には差を認めなかった。メタアナリシスでは14論文の1,572例を対象に,除菌後1〜3カ月間での潰瘍治癒を解析している。治癒率は除菌群で78%,酸分泌抑制薬群で86%であった。酸分泌抑制薬による治療にH. pylori 除菌を加えても,胃潰瘍の治癒率は統計学的に変わりがないと報告されている(相対危険率=1.25,95%CI:0.88〜1.76)。したがって,除菌治療はPPIによる潰瘍治療に悪影響を与えず有用である。
ステートメント2H. pylori 除菌治療の成否による消化性潰瘍の治癒率を,60文献4,329症例に対してメタアナリシスした成績に基づいている18)(グレードA,レベルI)。胃潰瘍におけるH. pylori 除菌成功群での治癒率が87.5%,除菌失敗群では72.5%と有意に除菌成功群での治癒率が高かった(オッズ比2.7,95%CI:1.3〜5.4,p<0.01)。また,除菌治療時に併用する酸分泌抑制薬についての検討においても,酸分泌抑制薬を併用していない群,通常量の酸分泌抑制薬の併用群,高用量の酸分泌抑制薬の併用群のいずれにおいても,除菌成功群での治癒率が除菌失敗群の治癒率を有意に上回っている。除菌後の酸分泌抑制薬の使用については,酸分泌抑制薬を投与した群および非投与群のいずれにおいても,除菌成功群での治癒率が除菌失敗群より有意に高かった。すなわち,除菌治療および除菌後における酸分泌抑制薬の併用にかかわらず,H. pylori 除菌の成功は胃潰瘍の治癒率を上昇させており,H. pylori 除菌成功による治癒促進効果を示している。したがって,H. pylori の除菌治療の再発予防効果を考慮にいれると,胃潰瘍には積極的に除菌治療を試みる方が,患者にとってのメリットは大きいと考えられる。
ステートメント3は酸分泌抑制薬を含まないH. pylori 除菌単独治療群と従来の酸分泌抑制薬による治療群との間での胃潰瘍の治癒率の検討に基づいている。海外の報告では,古典的3剤療法の単独治療は従来の酸分泌抑制薬を用いた治療と比べ胃潰瘍の治癒率には差がなかった1),2)。一方,わが国の報告では120例のH. pylori 陽性の胃潰瘍を対象に,1週間の除菌治療(PPI+AMPC+CAM)と8週間のPPI治療の8週治癒率を比較すると,除菌群は49%(37〜62%),PPI群は83%(73〜93%)で有意差を認めた15)。潰瘍のサイズが1.5cm以上になると,除菌治療のみでは治癒が遅れるとの成績である。H. pylori 除菌目的のため従来の酸分泌抑制薬の治療に抗菌薬等を加えたりすることや,H. pylori 除菌治療そのものが,胃潰瘍の治癒に悪影響を及ぼすことはないと考えられる。ただし,潰瘍のサイズが大きい場合には治癒が遅れる可能性があるので,除菌治療後に酸分泌抑制薬の投与を併用する方がよい。

 

 
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