(旧版)EBMに基づく 胃潰瘍診療ガイドライン 第2版 -H. pylori二次除菌保険適用対応-
第1部 胃潰瘍の基礎知識 |
3.症状
2)潰瘍の合併症と症状
潰瘍の重篤な合併症としては,出血,穿通,穿孔,狭窄があげられる。吐血と下血は重篤な合併症である。胃潰瘍では,十二指腸潰瘍に比べると吐血の頻度が高いが,下血だけがみられることもある。出血が急速で大量に起これば,頻脈や血圧低下をきたすが,少量の場合は症状がみられず,長期間にわたり出血が持続して,動悸,息切れ,めまいを訴えて来院する場合もみられる。吐物は暗赤色からコーヒー残渣様を呈することが多い。下血は少量のときには気づかれずにいることもあるが,大量のときには,黒色泥状のタール便となる。
一般に,穿通,穿孔は,十二指腸潰瘍に多いが,穿通が起こると疼痛は,より限局し背部に放散して,食事や制酸剤が無効な強度の疼痛になる。さらに突然に腹部全体に重度のびまん性の腹痛が生じたときは穿孔が示唆される。腹部所見として圧痛は,はじめ穿孔部周辺に限局するが,時間とともに筋性防御,Blumberg徴候を認め,腹壁は板状硬となる。さらに腸雑音は消失し,肝濁音界は証明できなくなる。穿孔による胃内容物の横隔膜への刺激で,肩に放散痛を生じる29)。
嘔吐は幽門狭窄の主要な症候である。狭窄により蠕動は亢進するが,狭窄が高度となると腹部は膨隆する。さらに胃液が胃に充満して振水音が聴取される。
NSAIDの投与は,高率に消化器症状を認めるが,潰瘍の発症と症状の間には違いがみられる。症状があっても内視鏡の所見を認めないことがある反面,潰瘍があっても症状が乏しいことがある。