(旧版)科学的根拠に基づく 乳癌診療ガイドライン 5 疫学・予防 2005年版

 

Research Question 10
BRCA1 or 2遺伝子変異を持つ女性に対する予防的タモキシフェン(TAM)投与は乳癌発症リスクを減少するか

エビデンスグレード I    予防的TAM投与はBRCA1 or 2遺伝子変異女性の乳癌発症リスクを減少する。
エビデンスグレード II   予防的TAM投与の効果はBRCA1遺伝子変異キャリアよりも特にBRCA2遺伝子変異キャリアで大きい。


【背景・目的】

BRCA1 or 2遺伝子変異を持つ女性の生涯の乳癌発症率は90%近くに達する。よって,BRCA1 or 2遺伝子変異のあることがわかった女性では,予防法をとることが何よりも望まれる。乳癌は乳房内の上皮細胞が女性ホルモンの強い影響を受け癌化するため,女性ホルモンと拮抗するタモキシフェン(tamoxifen;TAM)により予防することが検討されてきた。この予防的TAM投与の有用性を知る目的で文献を検索した。

【解説】

BRCA1 or 2の遺伝子変異を有する高リスク女性に対するTAMの予防効果を知るための無作為二重盲検比較試験が報告されている1)。BRCA1変異陽性女性では乳癌発症8人中5人がTAMを服用しており(RR:1.67),BRCA2変異では11人中3人がTAMを服用していた(RR:0.38)。よって,TAMはBRCA2遺伝子変異キャリアの乳癌リスクを62%減少させた。
いくつかのケースコントロール研究のメタアナリシスを行った報告では,併せてBRCA1遺伝子変異陽性322人,BRCA2遺伝子変異陽性151人について解析されている2)。その結果,TAMの効果を認める傾向はいずれも同じで,TAMによる乳癌リスクの減少率はBRCA1遺伝子変異女性では13%(RR:0.87, 95%CI:0.68-1.11),BRCA2遺伝子変異女性では 27%(RR:0.73, 95%CI:0.59-0.90)であった。すなわち,予防的TAM投与による効果はBRCA1遺伝子変異キャリアでは小幅で,BRCA2変異キャリアではより大きい。
BRCA1 or 2変異キャリアの片側乳癌患者に対するTAMの対側乳癌予防効果を研究するmatched case-control studyがある3)。CaseとしてBRCA遺伝子変異の両側乳癌患者209人,ControlとしてはBRCA遺伝子変異の片側乳癌患者384人に対してTAMの投与歴がアンケート調査され,比較検討された。対側乳癌の危険率は全体では0.5,BRCA1では0.38,BRCA2では0.63であった。TAMを2~4年間服用した人では対側乳癌リスクが75%減少していた。よって,BRCA1 or 2遺伝子変異キャリアに対してTAMは(対側)乳癌の予防効果がある。

【検索式・参考にした二次資料】

海外文献検索
MEDLINE(Dialog)1966~2004/04/30よりBRCA 4,050件
1×(PREVENTION+PROPHYLAXIS) 631件
2×HUMAN×言語ENGLISH×1995以降 553件
Cochrane Library(Web)2004 Issue 2よりBRCA 49件
4×(PREVENTION+PROPHYLAXIS+BREAST NEOPLASMS) 27件
5×1995以降 27件
3+5-重複文献 573件
 
国内文献検索
#1  医中誌Web 1983~2004/04よりBRCA 309件
#2  #1×予防 10件
#3  #1×(乳癌+乳房+乳腺+マンモグラフィ) 197件
#4  #2+#3 198件
#5  #4-(会議録,症例報告) 50件

海外文献該当573件より,タイトルと抄録で75件選択,原論文査読により19件の構造化抄録を作成,本RQの解説に3件引用した。
国内文献該当50件には採択すべき論文はなかった。

【参考文献】

1) King MC, Wieand S, Hale K, Lee M, Walsh T, Owens K, et al. Tamoxifen and breast cancer incidence among women with inherited mutations in BRCA1 and BRCA2:National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP-P1)Breast Cancer Prevention Trial. JAMA 2001;286(18):2251-6.
2) Duffy SW, Nixon RM. Estimates of the likely prophylactic effect of tamoxifen in women with high risk BRCA1 and BRCA2 mutations. Br J Cancer 2002;86(2):218-21.
3) Narod SA, Brunet JS, Ghadirian P, Robson M, Heimdal K, Neuhausen SL, et al. Tamoxifen and risk of contralateral breast cancer in BRCA1 and BRCA2 mutation carriers:a case-control study. Hereditary Breast Cancer Clinical Study Group. Lancet 2000;356(9245):1876-81.


RQ10 BRCA1 or 2遺伝子変異を持つ女性に対する予防的タモキシフェン(TAM)投与は乳癌発症リスクを減少するか
アブストラクトテーブル
参考
文献
EV
レベル
目的 対象患者(数・人種) 介入
(曝露・case vs. control)
結果
1 1b BRCA1 or 2の変異を有する高リスク女性に対するTAMの予防効果を知る。 288人の女性 Prospective randomized double-blinded trial(TAM or Placebo服用) BRCA1変異陽性女性では乳癌発症8人中5人がTAM服用(Risk Ratio:1.67)。BRCA2変異では11人中3人がTAM服用(RR:0.38)。
2 3a BRCA遺伝子変異女性にTAMはどれくらい有効なのか。 BRCA1変異陽性:322人,BRCA2変異陽性:151人 メタアナリシス。ただし,統合したstudyのほとんどがケースコントロール研究。 BRCA1遺伝子変異女性ではTAMによる乳癌リスクの減少は13%(RR:0.87, 95%CI:0.68-1.11)。BRCA2遺伝子変異女性では 27%(RR:0.73, 95%CI:0.59-0.90)。BRCA1に比べBRCA2で効果が高い。
3 3b BRCA1 or 2変異キャリアの片側乳癌患者に対するTAMの乳癌予防効果を知る。 BRCA変異の両側乳癌患者209人。対照はBRCA変異の片側乳癌患者384人。 Matched case-control study.年齢,診断年齢だけでなく,二次癌発生が同時期のcaseとcontrolを比較した。TAM投与歴もインタビューかアンケートにより調査された。 全体の危険率は0.5,BRCA1では0.38,BRCA2では0.63。TAMを2~4年間服用した人では対側乳癌リスクが75%減少していた。卵巣切除でも58%,化学療法でも60%減少していた。

 

 
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