(旧版)科学的根拠に基づく 乳癌診療ガイドライン 5 疫学・予防 2005年版

 

Research Question 2
喫煙は乳癌の危険因子になるか

エビデンスグレード III    危険因子と決定できない(喫煙しないことが勧められる強い根拠はない)。


【背景・目的】

喫煙は最も一般的で,かつ健康障害を確実に引き起こす嗜好品である。さまざまな癌の危険因子になることが明らかになっている。肺癌は古くから喫煙が危険因子になることが疫学的に証明されてきたが,乳癌の危険因子になるかどうかの結論が出ていない。

【解説】

1966年以降の乳癌関連の論文からシステマティック・レビューを行い,ケースコントロール研究以上のエビデンスレベルを対象にし,論文テーマが乳癌と喫煙でないもの,良性疾患やレビューの形式に近いものなどを除いて25件選択された。喫煙と乳癌は関連性があるとした文献は9件で,関連性がないとした文献は16件であった。危険因子になるとしていた文献のうち,受動喫煙と乳癌との関連性についてメタアナリシスした論文2)は,弱い関連があるとしていた。他方,危険因子にならないとした文献のうち,メタアナリシスをした論文5)の結論として喫煙が乳癌に与える影響は確定していないとし,その他の文献も「関連性を支持しない,わからない」と結論していた。日本人を対象にした研究6)は1件あり,オッズ比が1.20(95%CI:0.92-1.57)で関連性がなかった。
以上より,システマティック・レビューがある場合その結果を優先する,日本人対象者の論文結果を優先する,という基準に照らし合わせると前者では2つのメタアナリシスが一致せず,後者では関連性がないとしているが,現状では論争的であり,上記のRQの回答は「危険因子になるか否かは不明であり,両者の間に関連性があると決定できない」とした。

【検索式・参考にした二次資料】

1.  Breast cancer 7,193件
2. 1×Smoking×Risk factor 168件
3. 2×(Meta+RCT+Cohort+Case-control) 72件
4. 3×Explicit criteria* 25件
    *「中心テーマでないもの,テーマが違うもの,良性腫瘍,レビュー形式のもの,などを除く」

【参考文献】

1) Couch FJ, Cerhan JR, Vierkant RA, Grabrick DM, Therneau TM, Pankratz VS, et al. Cigarette smoking increases risk for breast cancer in high-risk breast cancer families. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2001;10(4):327-32.
2) Khuder SA, Simon VJ Jr. Is there an association between passive smoking and breast cancer? Eur J Epidemiol 2000;16(12):1117-21.
3) Gammon MD, Schoenberg JB, Teitelbaum SL, Brinton LA, Potischman N, Swanson CA, et al. Cigarette smoking and breast cancer risk among young women(United States). Cancer Causes Control 1998;9(6):583-90.
4) Baron JA, Newcomb PA, Longnecker MP, Mittendorf R, Storer BE, Clapp RW, et al. Cigarette smoking and breast cancer. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 1996;5(5):399-403.
5) Velentgas P, Daling JR. Risk factors for breast cancer in younger women. J Natl Cancer Inst Monogr 1994;(16):15-24.
6) Kato I, Miura S, Kasumi F, Iwase T, Tashiro H, Fujita Y, et al. A case-control study of breast cancer among Japanese women:with special reference to family history and reproductive and dietary factors. Breast Cancer Res Treat 1992;24(1):51-9.
7) Field NA, Baptiste MS, Nasca PC, Metzger BB. Cigarette smoking and breast cancer. Int J Epidemiol 1992;21(5):842-8.
8) Ewertz M. Smoking and breast cancer risk in Denmark. Cancer Causes Control 1990;1(1):31-7.


RQ2 喫煙は乳癌の危険因子になるか
アブストラクトテーブル
参考
文献
EV
レベル
目的 対象患者(数・人種) 介入
(曝露・case vs. control)
結果
1 2b 乳癌の罹患率の高い危険因子を持つ家系の追跡調査により,乳癌の危険因子と喫煙との関連性を検討すること。 米国ミネソタ州において1944〜1952年の間に乳癌の家族歴があった426家族。 乳癌の危険因子を高い確率で持っていると思われる家族のコホート研究。電話による追跡調査を行った。 乳癌の罹患歴のある家系のうち,姉妹,娘が喫煙をした場合に危険因子の増加が認められ,RRは2.4(95% CI:1.2-5.1)であった。
2 3a 受動喫煙と乳癌危険因子との関連性をメタアナリシスにより検討すること。 1980〜2000年の疫学症例研究11件の対象者,3,672人のケース群と402,116人のコントロール群。 MEDLINEデータベースとCancer Abstractsデータベースで文献検索を行い,メタアナリシスを実施した。 常時受動喫煙の曝露を受けていた者のRRは1.41(95%CI:1.14-1.75)であった。
3 3b 10代からの喫煙や長期間の喫煙は乳癌危険因子を増加させるかどうか。喫煙はanti-estrogenとして働くか,危険性を減らすか否か,などを検討すること。 ケース群:ニュージャージー,シアトル周辺3郡,ワシントンの45歳以下のin situ,または浸潤性乳癌と診断された女性と,アトランタの乳癌と診断された55歳以下の女性。
コントロール群:年齢と居住地をケース群と照合し,任意で電話番号を選択した女性。
月経,経口避妊薬,食事習慣等は質問票により回答を得た。面接官による直接質問も行った。 乳癌と現在喫煙をしている45歳以下の女性とのORは0.82(95%CI:0.67-1.01)であった。過去に喫煙をしていた人のORは0.99(95% CI:0.81-1.21)であった。若年齢で喫煙を始め,現在も続けている人のORは0.59(95%CI:0.41-0.85)であった。長期間喫煙(>20年)している人のORは,0.70(95% CI:0.52-0.94)であった。
4 3b 乳癌の危険因子としての喫煙の影響を検討すること。 米国ウィスコンシン州,西マサチューセッツ州,メーン州,ニューハンプシャー州 6,888人のケース群(75歳未満の浸潤性乳癌患者),9,529人のコントロール群。 電話による質問で病歴,喫煙等を含む個人の習慣などの情報を入手 喫煙女性のORは1.0であった。閉経前に喫煙をした女性のORは0.99で,閉経後に喫煙をした女性のORは1.01であった。閉経前の女性で10本/日の喫煙した場合のORは1.18で,閉経前の女性で30〜40年喫煙を続けた場合のORは1.28であった。閉経前の女性で3〜10年禁煙した場合のORは1.38であった。閉経前の女性で,15〜18歳で喫煙を始めた場合のORは1.18であった。
5 3a 乳癌の危険因子についての文献をレビューし,乳癌と危険因子の関連性を検討すること。特に,若年齢女性における危険因子を中心に高年齢女性と比較すること。 135件の疫学研究の対象者。 女性の乳癌の危険性と喫煙との関連性を検討した135件の疫学研究をメタアナリシスした。 喫煙の曝露では,若年齢のRRは1.0で,関連性は認められなかった。
6 3b 乳癌と危険因子との関連性を検討すること。 国内8県の908人の乳癌患者がケース群,ケース群と年齢を一致させた対象がコントロール群。 診断時に口頭質問を行った。 喫煙者のORは1.20(95%CI:0.92-1.57)であった。
7 3b 乳癌と喫煙の関連性を検討すること。 ニューヨーク州に隣接する18郡1,617人のケース群(初期の乳癌と診断された女性),1,617人のコントロール群(運転免許証センターの記録より選択,ケース群と一致させた女性)。 社会人口統計学,疾病治療や病理学の情報を得るため標準概要形式票を使用した。個人情報を質問票により得た。 喫煙者と非喫煙者とのORは1.03(95%CI:0.90-1.19)であった。
8 3b 乳癌の危険因子として喫煙の影響を人口ベースのケースコントロール研究によって検討すること。 デンマークの1,480人のケース群(乳癌と診断された女性)と1,332人のコントロール群(年齢層に分けた)。 喫煙状況を含む危険因子についての個人情報を自己報告質問票より入手した。 喫煙開始年齢15歳未満の女性のRRは1.12であった。喫煙歴が30〜39年の女性のRRは0.99であった。閉経前の女性で25〜29歳の間の喫煙開始年齢の女性のRRは1.42であった。閉経前の女性で喫煙歴が20〜29年の女性のRRは1.01であった。閉経後の女性で15歳未満で喫煙を始めた女性のRRは1.94であった。閉経後の女性で喫煙歴が30〜39年の女性のRRは1.09であった。

 

 
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