(旧版)科学的根拠に基づく 乳癌診療ガイドライン 5 疫学・予防 2005年版
日本乳癌学会診療ガイドライン(疫学・予防) |
1.本ガイドラインの特徴-EBMとの関連から
「日本乳癌学会 診療ガイドライン作成小委員会(疫学・予防)」では,乳癌発症の危険因子として疑われているもの,および乳癌とその合併症に対する予防法やケアとして有望視されているものの中で,診療でよく遭遇する疑問点(Research Question:RQ)を選択した。本ガイドラインの目的は,臨床医が診療上の意思決定を行う際に,科学的根拠に基づいた最新で最良の医療が提供できるよう支援することである。
「根拠に基づく医療:Evidence Based Medicine(EBM)」とは,個々の患者が遭遇する諸問題に対して,現在ある最良の根拠(evidence:エビデンス)を良心的かつ明快に理解し,それを慎重に用いることである。医学のartの部分である豊富な臨床的経験と,scienceの部分である最良のエビデンスの両方が備わって初めて適切な医療が提供できる。
日々の診療に多忙な医師が,氾濫する情報の中から適切な情報を迅速に取得することは容易ではない。したがって,本ガイドラインのような,EBMを支援することを目的とした診療ガイドラインがわが国でも積極的に開発され利用されつつある。臨床的判断はともすれば個人の経験や権威者の意見に左右されることが多いが,ガイドラインに照らし合わせることで効果的,効率的で質の高い医療を提供することが可能になると考えられる。
このガイドラインは乳癌診療に携わる臨床医を主な対象にしているが,一般の読者にとっても納得できる医療を受ける手助けとなるであろう。一方,臨床医が本ガイドラインを利用するに際し特に注意すべきことは,このガイドラインは個々の患者の状況を無視した画一的な診療を勧めるものでは決してないということである。一律にガイドラインに従うことが適切でないケースが存在することは自明であり,本ガイドラインの使用については,各臨床医が,個々のケースに応じて考慮・判断しなければならない。また本ガイドラインは,その性格上,医療訴訟等において過失の判断の基準として使用されることを目的としていない。
ガイドラインの作成作業中においても,日々新たな疫学研究の結果や臨床試験の成績が明らかになりつつある。そのため,ガイドラインの内容は2〜3年に1回改定される予定である。