(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版
21.2型糖尿病の発症予防
解説
2.2型糖尿病の発症に関連した生活習慣
表2に2型糖尿病の発症を促進させるあるいは予防的に働くと考えられている生活・環境要因を挙げるa).
表2 生活・環境要因と2型糖尿病の関連
(文献aより引用)
(1)BMI
BMI値は2型糖尿病の発症リスクと強く関連する.この場合,BMI≧25という肥満の範疇に入らないような軽度のBMIの増加(いわゆる過体重)も糖尿病発症のリスクを高める6).また現在のBMIだけでなく,過去の最大体重8)や,成人してからどれだけ体重が増加したかも6),8),2型糖尿病の危険因子となる.近年,肥満やその程度ばかりでなく,増加した体脂肪の分布と2型糖尿病発症の関係が注目を集めている.すなわち,BMIよりウエスト周囲径やウエストヒップ比(WHR)9),10),11)のほうが2型糖尿病との関連が大きい.非糖尿病の日系米国人(2世,3世)を対象とした前向き研究12)では,腹腔内脂肪蓄積が,BMIや全身の脂肪量で調整後も糖尿病発症の危険因子であることが示されている.
(2)運動習慣
運動や身体活動量の少ない生活は糖尿病発症のリスクとなる.逆に,運動習慣は体重への効果とは別に糖尿病を予防する効果があることが,大規模コホート研究より明らかとなっている13),14),15),16),17),18),19).たとえば,米国では年齢40〜65歳の非糖尿病の看護師(70,102人)を8年間にわたって追跡し,運動習慣と糖尿病の発症の関係が調べられている16).運動習慣はアンケートでウォーキング,水泳,テニスなど8種類のスポーツについて,それぞれ1週間に何時間行うのかの調査から,MET-Hours/週を計算して5分位に区分している.その結果,ほとんど運動をしない(0〜2.0MET-Hours/週)群からの糖尿病の発症を基準に,運動を最もよくする群(21.8MET-Hours/週以上)の糖尿病発症の相対危険度(年齢,BMIなどで調整後)は0.74(95%CI:0.62〜0.89,Pfortrend:0.01)と報告されている.
(3)食事
エネルギーの過剰摂取は2型糖尿病発症の促進因子である.さらに,最近,摂取するエネルギー量のみならず,何を食べるのかも重要であることが明らかにされつつある.異なったタイプの脂質や炭水化物が,糖代謝やインスリン感受性に異なった影響を有するというわけである.すなわち,(1)植物油や魚油を部分的に水素化処理したときに生ずるトランス型脂肪酸は危険因子であり,(2)逆に,多価不飽和脂肪酸を含む植物油は糖尿病発症の予防因子である20),21).一方,炭水化物に関しては,(1)GI(glycemic index)の高い食事はリスクとなり22),23),(2)食物繊維,特に穀物繊維22),23),24)や未精白穀類の摂取24),25)が糖尿病発症の予防因子である.
米国で行われたNurses' Health Studyでは84,941人の糖尿病のない中年看護師を1980〜1996年にわたって観察し,食事と糖尿病の発症の関係を調べている26).食事調査により,(1)穀物繊維の摂取量,(2)食事のGI,(3)多価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比(P/S),(4)トランス型脂肪酸の摂取量の4点について評価し,総合的に最もリスクの高い食事を摂っている群から低い食事の群まで5段階に区分している.そして,最もリスクの高い食事群からの糖尿病発症を1とすると,最もリスクの低い食事群の相対危険度(年齢で調整後)は0.49(95%CI:0.42〜0.56)であったと報告されている.食事と糖尿病発症の関係は,BMIとは関係なく認められた.
しかしながら,食事に関しては,どのような食品がリスクとなり,また予防因子となるか,研究方法や対象によって,必ずしも一定の結論には至っていない.さらにデータの蓄積が必要である.
(4)喫煙・飲酒
喫煙は糖尿病発症の危険因子であるとする報告が多い27),28),29),30),31).習慣的な喫煙は腹部への脂肪蓄積を促進し,インスリン抵抗性を惹起する.インスリン分泌能への影響も指摘されている.一方,適度の飲酒習慣はインスリン感受性をよくして,糖尿病の発症には抑制的に働く27),32),33).しかし適量を超えると発症を促進する35).6,362名の中年男性を追跡したわが国の成績34)では,BMI≧22.1についてみると,中等量のアルコール摂取(29.1〜50.0mL/日)者では糖尿病の発症が非飲酒者に比して低い.一方,BMI≦22.0の痩せた者でみると,50.1mL/日以上のアルコール摂取者では糖尿病発症が高くなっている.
表2 生活・環境要因と2型糖尿病の関連
予防的 | 促進的 | |
確実 | 過体重者・肥満者の自発的体重減少,運動 | 過体重,肥満,腹部肥満,運動不足,妊娠糖尿病 |
高い可能性 | 非でんぷん性多糖類 | 飽和脂肪酸,子宮内発育遅延 |
可能性あり | 低グリセミック・インデックス食品,完全な母乳栄養 | 総脂質,トランス型脂肪酸 |
不十分 | ビタミンE,クロム,マグネシウム,軽度な飲酒 | 過度な飲酒 |
(1)BMI
BMI値は2型糖尿病の発症リスクと強く関連する.この場合,BMI≧25という肥満の範疇に入らないような軽度のBMIの増加(いわゆる過体重)も糖尿病発症のリスクを高める6).また現在のBMIだけでなく,過去の最大体重8)や,成人してからどれだけ体重が増加したかも6),8),2型糖尿病の危険因子となる.近年,肥満やその程度ばかりでなく,増加した体脂肪の分布と2型糖尿病発症の関係が注目を集めている.すなわち,BMIよりウエスト周囲径やウエストヒップ比(WHR)9),10),11)のほうが2型糖尿病との関連が大きい.非糖尿病の日系米国人(2世,3世)を対象とした前向き研究12)では,腹腔内脂肪蓄積が,BMIや全身の脂肪量で調整後も糖尿病発症の危険因子であることが示されている.
(2)運動習慣
運動や身体活動量の少ない生活は糖尿病発症のリスクとなる.逆に,運動習慣は体重への効果とは別に糖尿病を予防する効果があることが,大規模コホート研究より明らかとなっている13),14),15),16),17),18),19).たとえば,米国では年齢40〜65歳の非糖尿病の看護師(70,102人)を8年間にわたって追跡し,運動習慣と糖尿病の発症の関係が調べられている16).運動習慣はアンケートでウォーキング,水泳,テニスなど8種類のスポーツについて,それぞれ1週間に何時間行うのかの調査から,MET-Hours/週を計算して5分位に区分している.その結果,ほとんど運動をしない(0〜2.0MET-Hours/週)群からの糖尿病の発症を基準に,運動を最もよくする群(21.8MET-Hours/週以上)の糖尿病発症の相対危険度(年齢,BMIなどで調整後)は0.74(95%CI:0.62〜0.89,Pfortrend:0.01)と報告されている.
(3)食事
エネルギーの過剰摂取は2型糖尿病発症の促進因子である.さらに,最近,摂取するエネルギー量のみならず,何を食べるのかも重要であることが明らかにされつつある.異なったタイプの脂質や炭水化物が,糖代謝やインスリン感受性に異なった影響を有するというわけである.すなわち,(1)植物油や魚油を部分的に水素化処理したときに生ずるトランス型脂肪酸は危険因子であり,(2)逆に,多価不飽和脂肪酸を含む植物油は糖尿病発症の予防因子である20),21).一方,炭水化物に関しては,(1)GI(glycemic index)の高い食事はリスクとなり22),23),(2)食物繊維,特に穀物繊維22),23),24)や未精白穀類の摂取24),25)が糖尿病発症の予防因子である.
米国で行われたNurses' Health Studyでは84,941人の糖尿病のない中年看護師を1980〜1996年にわたって観察し,食事と糖尿病の発症の関係を調べている26).食事調査により,(1)穀物繊維の摂取量,(2)食事のGI,(3)多価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比(P/S),(4)トランス型脂肪酸の摂取量の4点について評価し,総合的に最もリスクの高い食事を摂っている群から低い食事の群まで5段階に区分している.そして,最もリスクの高い食事群からの糖尿病発症を1とすると,最もリスクの低い食事群の相対危険度(年齢で調整後)は0.49(95%CI:0.42〜0.56)であったと報告されている.食事と糖尿病発症の関係は,BMIとは関係なく認められた.
しかしながら,食事に関しては,どのような食品がリスクとなり,また予防因子となるか,研究方法や対象によって,必ずしも一定の結論には至っていない.さらにデータの蓄積が必要である.
(4)喫煙・飲酒
喫煙は糖尿病発症の危険因子であるとする報告が多い27),28),29),30),31).習慣的な喫煙は腹部への脂肪蓄積を促進し,インスリン抵抗性を惹起する.インスリン分泌能への影響も指摘されている.一方,適度の飲酒習慣はインスリン感受性をよくして,糖尿病の発症には抑制的に働く27),32),33).しかし適量を超えると発症を促進する35).6,362名の中年男性を追跡したわが国の成績34)では,BMI≧22.1についてみると,中等量のアルコール摂取(29.1〜50.0mL/日)者では糖尿病の発症が非飲酒者に比して低い.一方,BMI≦22.0の痩せた者でみると,50.1mL/日以上のアルコール摂取者では糖尿病発症が高くなっている.