(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版
16.小児思春期糖尿病
解説
2.1型糖尿病
(1)治療目標
1型糖尿病においては,個々の患児の普段の食生活や身体活動度,運動習慣とインスリン治療をうまく組み合わせることが必要であるa).心身の正常な成長と発育のためには,食事とインスリン療法に自由度を持たせることを考慮しなければならない.特に思春期以降は,患者の生活習慣を把握し,糖尿病の治療をそれに合わせていく.血糖値管理の目標は,患児の年齢が18歳以上であれば,成人と同じ目標を適用する1),2),a),b),d).インスリンは基本的に1日の総使用量として,思春期前は0.4~1.2単位/kg,思春期以降は0.6~1.7単位/kg程度を使用することが多い3).思春期以降の患者では,1日2回のインスリン注射法より3~4回の注射法(強化インスリン療法)で良好な血糖コントロールを得られることが多いので,積極的に頻回注射を導入する1),2),4).しかし,思春期では強化療法を行っても十分なコントロールを得られない症例が一部にみられるという報告もある5),6).超速効型インスリンを用いた頻回注射法は,速効型インスリンと比較して血糖コントロール,低血糖発作の頻度,QOLの向上の面で優れていることが明らかにされている7).また,頻回注射法において中間型インスリンではなく持効型溶解インスリンを使用し,超速効型インスリンと組み合わせて使用すると,血糖コントロールが改善し低血糖が減るという報告がある(ただし,妊娠時の持効型溶解インスリンの取り扱いに関しては「15.糖尿病合併妊娠と妊娠糖尿病」の項参照)8),9).しかし,超速効型インスリンを用いた持続皮下インスリン注入療法(continuous subcutaneous insulin infusion:CSII)は,インスリン頻回注射法を行っても血糖値の変動が激しく目標とするコントロールが得られない場合でも,生活の自由度を保ちつつ血糖コントロールを得られるという利点があるので10),11),12),欧米では小児に頻用されている.インスリン注射のみにて十分な血糖コントロールが得られない場合はメトホルミンを併用すると改善することがある(わが国においては保険適用外)13).
6~7歳以下では低血糖を認知できない可能性があるa).さらにその低血糖が認知機能障害を増強する可能性があるため14),15),16),低血糖を避けるためにインスリン注射の方法(量・時間)やエネルギー(補食を含む)摂取に留意する必要がある8),9),17),18),19).
(2)食事・運動療法
食事療法のポイントは,正常な発育のために必要十分なエネルギーの摂取,良好な血糖コントロールの維持,そして重症低血糖を起こさないようにすることであるa),b),d).これは,患児ひとりひとりの食事とインスリン療法の内容を検討することによってはじめて可能となるa).必要摂取エネルギーは,基本的に表2に従い,図1より求められる標準体重も参考にする.1日摂取エネルギー量は“1,000+100×年齢”kcal(上限は,16歳の男児:2,750kcal,14歳の女児:2,300kcal)の計算式による簡易法でも求められる.必要なエネルギー量は思春期で最大となり,その後徐々に減少していくb).就学期前の小児では低血糖を予防するために就寝前の炭水化物摂取が有効であるという報告や17),一価不飽和脂肪酸を多く含んだ食事18)やGI(glycemic index)の低い食事が血糖コントロールを改善する19)という報告もあるが,コンセンサスは得られていない.
1型糖尿病の運動療法は,進行した合併症がなく,血糖コントロールが落ち着いている限りは積極的に推奨し,基本的に競技を含めたすべてのスポーツを許可する.しかし,運動によって血糖値の変動が大きくなるため,低血糖に関する十分な教育を行い,かつ,学校関係者など周囲の協力を要請するe).運動時は血糖値を80mg/dL以上に保つようにインスリン量の調節を行い,必要に応じて補食を摂取させるf).
(3)その他
行動的,感情的,心理的,精神的側面にも注意を払い,問題があるときは本人ならびに家族とよく話し合う.思春期の問題行動や心理状態が,成人になってからの血糖コントロール不良と関連することがある20),21).思春期の患児と両親に教育プログラムによる介入を行うと,親子間の関係が改善することがある22).また,わが国では思春期に発症した患児の予後が,それ以前に発症した者と比較して不良であるという報告がある23).女性の場合は月経の発来とともに血糖コントロールが乱れることが多いので配慮を要する.小児科医から内科医への移行のタイミングは症例ごとに異なる.本人とよく話し合い,小児科医と内科医が連絡を密に行い,大学進学や就職などの機会を捉えて移行することが望ましい.
表2 エネルギーの食事摂取基準:推定エネルギー量(kcal/日)
1型糖尿病においては,個々の患児の普段の食生活や身体活動度,運動習慣とインスリン治療をうまく組み合わせることが必要であるa).心身の正常な成長と発育のためには,食事とインスリン療法に自由度を持たせることを考慮しなければならない.特に思春期以降は,患者の生活習慣を把握し,糖尿病の治療をそれに合わせていく.血糖値管理の目標は,患児の年齢が18歳以上であれば,成人と同じ目標を適用する1),2),a),b),d).インスリンは基本的に1日の総使用量として,思春期前は0.4~1.2単位/kg,思春期以降は0.6~1.7単位/kg程度を使用することが多い3).思春期以降の患者では,1日2回のインスリン注射法より3~4回の注射法(強化インスリン療法)で良好な血糖コントロールを得られることが多いので,積極的に頻回注射を導入する1),2),4).しかし,思春期では強化療法を行っても十分なコントロールを得られない症例が一部にみられるという報告もある5),6).超速効型インスリンを用いた頻回注射法は,速効型インスリンと比較して血糖コントロール,低血糖発作の頻度,QOLの向上の面で優れていることが明らかにされている7).また,頻回注射法において中間型インスリンではなく持効型溶解インスリンを使用し,超速効型インスリンと組み合わせて使用すると,血糖コントロールが改善し低血糖が減るという報告がある(ただし,妊娠時の持効型溶解インスリンの取り扱いに関しては「15.糖尿病合併妊娠と妊娠糖尿病」の項参照)8),9).しかし,超速効型インスリンを用いた持続皮下インスリン注入療法(continuous subcutaneous insulin infusion:CSII)は,インスリン頻回注射法を行っても血糖値の変動が激しく目標とするコントロールが得られない場合でも,生活の自由度を保ちつつ血糖コントロールを得られるという利点があるので10),11),12),欧米では小児に頻用されている.インスリン注射のみにて十分な血糖コントロールが得られない場合はメトホルミンを併用すると改善することがある(わが国においては保険適用外)13).
6~7歳以下では低血糖を認知できない可能性があるa).さらにその低血糖が認知機能障害を増強する可能性があるため14),15),16),低血糖を避けるためにインスリン注射の方法(量・時間)やエネルギー(補食を含む)摂取に留意する必要がある8),9),17),18),19).
(2)食事・運動療法
食事療法のポイントは,正常な発育のために必要十分なエネルギーの摂取,良好な血糖コントロールの維持,そして重症低血糖を起こさないようにすることであるa),b),d).これは,患児ひとりひとりの食事とインスリン療法の内容を検討することによってはじめて可能となるa).必要摂取エネルギーは,基本的に表2に従い,図1より求められる標準体重も参考にする.1日摂取エネルギー量は“1,000+100×年齢”kcal(上限は,16歳の男児:2,750kcal,14歳の女児:2,300kcal)の計算式による簡易法でも求められる.必要なエネルギー量は思春期で最大となり,その後徐々に減少していくb).就学期前の小児では低血糖を予防するために就寝前の炭水化物摂取が有効であるという報告や17),一価不飽和脂肪酸を多く含んだ食事18)やGI(glycemic index)の低い食事が血糖コントロールを改善する19)という報告もあるが,コンセンサスは得られていない.
1型糖尿病の運動療法は,進行した合併症がなく,血糖コントロールが落ち着いている限りは積極的に推奨し,基本的に競技を含めたすべてのスポーツを許可する.しかし,運動によって血糖値の変動が大きくなるため,低血糖に関する十分な教育を行い,かつ,学校関係者など周囲の協力を要請するe).運動時は血糖値を80mg/dL以上に保つようにインスリン量の調節を行い,必要に応じて補食を摂取させるf).
(3)その他
行動的,感情的,心理的,精神的側面にも注意を払い,問題があるときは本人ならびに家族とよく話し合う.思春期の問題行動や心理状態が,成人になってからの血糖コントロール不良と関連することがある20),21).思春期の患児と両親に教育プログラムによる介入を行うと,親子間の関係が改善することがある22).また,わが国では思春期に発症した患児の予後が,それ以前に発症した者と比較して不良であるという報告がある23).女性の場合は月経の発来とともに血糖コントロールが乱れることが多いので配慮を要する.小児科医から内科医への移行のタイミングは症例ごとに異なる.本人とよく話し合い,小児科医と内科医が連絡を密に行い,大学進学や就職などの機会を捉えて移行することが望ましい.
表2 エネルギーの食事摂取基準:推定エネルギー量(kcal/日)
年齢 | 男性 | 女性 | ||||
身体活動レベル | 身体活動レベル | |||||
I | II | III | I | II | III | |
0~5(月)母乳栄養児 | - | 600 | - | - | 550 | - |
人工乳栄養児 | - | 650 | - | - | 600 | - |
6~11(月) | - | 700 | - | - | 650 | - |
1~2(歳) | - | 1,050 | - | - | 950 | - |
3~5(歳) | - | 1,400 | - | - | 1,250 | - |
6~7(歳) | - | 1,650 | - | - | 1,450 | - |
8~9(歳) | - | 1,950 | 2,200 | - | 1,800 | 2,000 |
10~11(歳) | - | 2,300 | 2,550 | - | 2,150 | 2,400 |
12~14(歳) | 2,350 | 2,650 | 2,950 | 2,050 | 2,300 | 2,600 |
15~17(歳) | 2,350 | 2,750 | 3,150 | 1,900 | 2,200 | 2,550 |
図1-a

図1-b

- 1)年齢別の平均体重ならびに平均身長は,年齢と平均体重曲線ならびに平均身長曲線との交点となる.
例:10歳男児の平均体重は約33kg,平均身長は約136cmとなる. - 2)標準体重は身長から推定する.例:女子で身長125cmの場合の標準体重を推定する場合:125cmと平均身長曲線の交点が,8歳に相当するので,8歳の線と平均体重曲線の交点を求めると,約25kgとなる.
図1-b
