(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版

 
14.糖尿病に合併した高脂血症


解説

1.糖尿病に合併した高脂血症の意義
2型糖尿病に合併する脂質代謝異常としては,高中性脂肪血症と低HDL-C血症の頻度が高く,高LDL-C血症もみられ,WHO分類ではIIb型およびIV型が特に多い(表2).
糖尿病患者では非糖尿病者に比べて心血管疾患の発症が2~4倍多く,そのうち冠動脈性心疾患(coronary heart disease:CHD)に罹患した場合の予後も悪いことが,Framingham Studyをはじめとする疫学研究により明らかにされている1),2),3),4),5),6).糖尿病患者の初発心筋梗塞発症頻度は非糖尿病者のそれの5倍以上であり,すでに心筋梗塞を起こしたことのある非糖尿病者の心筋梗塞再発頻度とほぼ同等であるという報告もある7)
高コレステロール血症は,喫煙,高血圧と同様に,糖尿病患者が心血管疾患を発症するリスク,死亡するリスクを増大させる.総コレステロール値200mg/dL以上では,その値が高くなればなるほど心血管障害の発生が増加する6).LDL-Cは,多くのevidenceではFriedewaldの計算式[LDL-C=TC-(HDL-C+TG/5)](TG<400mg/dLのとき)にて計算される.最近では直接法によるLDL-Cの測定も可能である.わが国において,糖尿病患者を対象に高脂血症の影響をみた調査結果は少ないが,平成8年より全国59施設において行われているJDCS(Japan Diabetes Complications Study)によれば,LDL-C 160mg/dL以上の糖尿病患者の虚血性心疾患リスクは,100mg/dL未満の患者の3.7倍であった8),9),10)
高LDL-C血症は,糖尿病患者におけるCHD発症のリスクを有意に増加させる11)が,LDL-Cが正常でも2型糖尿病患者の血中には催動脈硬化作用の強い小型で比重の高いsmall dense LDLが高頻度に出現する.small dense LDLの測定法としては,ポリアクリル電気泳動による方法やリポ蛋白分画精密測定法によってLDLサイズを推定する方法,VLDLと正常のLDL分画を分離しsmall dense LDLとHDL分画が含まれる上清を従来のLDLコレステロールの直接測定法を用いて求める方法などがある.
高中性脂肪血症も,近年,CHDの独立した危険因子であることが疫学調査ならびにメタアナリシスにより示されている12),13).糖尿病では中性脂肪に富むリポ蛋白(カイロミクロン,VLDL)の異化障害が生じ,その結果として中間産物であるカイロミクロンレムナント,VLDLレムナントが増加する.
レムナントは動脈硬化惹起リポ蛋白のひとつと考えられる.レムナントを反映する簡便な方法としてレムナント様リポ蛋白-コレステロール(RLP-C)が測定でき保険収載されている.
HDL-Cは,末梢組織に蓄積したコレステロールをくみ出すコレステロール逆転送系として重要であり,動脈硬化の抑制に関与していると考えられる.糖尿病に見られる低HDL-C血症は,インスリン作用不足によりリポ蛋白リパーゼ(LPL)の活性が低下し,カイロミクロン,VLDLの異化障害のためにHDL-Cの生成が減少することによる.
コレステロール低下療法は糖尿病患者における心血管イベントの発症を有意に抑制することが,主として大規模臨床試験の糖尿病サブグループ解析から明らかにされた14).6つの大規模臨床試験(AFCAPS15),POSCH16),VA-HIT17),CARE18),LIPID19),4S20))のメタアナリシスによると,コレステロール低下療法の効果として糖尿病患者のCHDリスクは平均約31%低下したa).HPS(HeartProtection Study)糖尿病サブ解析は,LDL-Cがほぼ正常の糖尿病患者約6,000例を対象にシンバスタチン40mg/日による脂質低下療法の効果をみた比較試験である21).治療群はプラセボ群に比しLDL-Cは39mg/dL低下した.結論は,糖尿病患者においてはLDL-Cが高くなくとも,脂質低下療法が血管系イベントのリスクを有意に低下させた.CARDS(CollaborativeAtorvastatin Diabetes Study)は,LDL-C 160mg/dL未満かつTG 600mg/dL未満で糖尿病以外の危険因子を1つ以上持つCHD既往のない2型糖尿病患者を対象に,アトルバスタチン10mg/日の効果を検討した22).アトルバスタチンは主要CHDイベントを37%減少させ,全死亡27%減少させるなど,顕著な有用性が示された.CARDSは日本国内においても通常投与される投与量で試験が行われており,LDL-Cがそれほど高くなくとも糖尿病患者にはスタチンによる脂質低下療法がイベント抑制に有効であることを証明した意味でインパクトが大きい.
高脂血症治療による脳梗塞の予防への効果についての検討では,HPS研究23),CARS研究22),わが国ではKLIS24),PATE25)などでその効果が示されている.


表2 高脂血症の表現型による分類(WHO分類)
型分類 増加するリポ蛋白 血清脂質の変動
I型 カイロミクロン 中性脂肪著明増加
IIa型 LDL コレステロール増加
IIb型 LDLとVLDL コレステロールと中性脂肪増加
III型 IDL 電気泳動でbroad β
IV型 VLDL 中性脂肪増加
V型 カイロミクロンとVLDL 中性脂肪著明増加


 
ページトップへ

ガイドライン解説

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す

診療ガイドライン検索

close-ico
カテゴリで探す
五十音で探す