(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版
13.糖尿病に合併した高血圧
解説
5.降圧薬の選択
(1)インスリン抵抗性を改善する降圧薬
糖尿病における降圧薬としては,第一選択薬として,ACE阻害薬,ARB,持続型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬を用いるべきである.これら降圧薬はインスリン抵抗性を改善し,脂質代謝にも悪影響を及ぼさない6),7),8),9),10),11),12).サイアザイド系利尿薬を用いる際には,インスリン抵抗性悪化を介した糖・脂質代謝への悪影響や低カリウム血症や高尿酸血症などの代謝系への副作用を減らすために,常用量の半量をめどに少量にとどめるべきである33).β遮断薬はインスリン抵抗性を悪化させるが,血管拡張性のβ遮断薬はインスリン抵抗性を改善する9).なお,経口血糖降下薬やインスリン使用中の患者では,β遮断薬の使用にあたっては,低血糖の症状が現れにくくなったり,遷延することがあるので,注意する34).α1遮断薬はインスリン抵抗性や血清脂質濃度を改善するので,高脂血症や前立腺肥大症合併例では第一選択薬になりうるが,糖尿病神経障害がある症例では起立性低血圧に留意する.
なお,ACE阻害薬やARBやカルシウム拮抗薬で利尿薬やβ遮断薬に比べて,糖尿病の新規発症率が20〜30%低下することが報告されている.したがって,特に,糖尿病には至らないものの耐糖能低下があるようなメタボッリクシンドロームの患者では,インスリン抵抗性を改善する降圧薬を選択することが重要である15),16),17),18),41),42).
(2)降圧薬の心血管系疾患に及ぼす影響
糖尿病における高血圧患者において,利尿薬やβ遮断薬や持続型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬で,脳卒中や心疾患などの心血管系疾患の発症率が減少することが示されている1),2),13),14),15),16),41).最近では,高血圧患者を56%含むハイリスクの糖尿病患者におけるMICRO-HOPE(Heart Outcomes Prevention Evaluation)Studyで,ACE阻害薬が心血管系疾患発症率および死亡を25%減少させることが明らかにされている17).ARBについても,ロサルタンがβ遮断薬に比べて,糖尿病患者における心血管系疾患による死亡を37%減少させることが最近報告された18).ただ,糖尿病患者の高血圧治療にあたり,心筋梗塞の発症率を持続型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬よりACE阻害薬のほうがより減少させるとの報告35),36),37)があったが,最近の2型糖尿病を約36%含むハイリスクの高血圧患者で行われたALLHAT(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)の結果では,カルシウム拮抗薬はACE阻害薬と同等の効果を有していることが報告されている15).また,2型糖尿病患者を31.7%含むハイリスクの高血圧患者で行われたVALUE(Valsartan Antihypertensive Long-term Use Evaluation)Trialでも,カルシウム拮抗薬はARBと同等の効果を有していることが報告されている16).すでに虚血性心疾患がある場合には,β遮断薬を用いることにより,心血管疾患の死亡率が50%以下になると報告されている29),30).
(3)降圧薬の糖尿病腎症に及ぼす影響
糖尿病腎症がある場合には,十分な降圧をはかる.蛋白尿が1g/日以上の症例では,目標血圧を125/75mmHg未満にすることも勧められている3),4),5).特に,ACE阻害薬が蛋白尿や微量アルブミン尿を減少させ,腎保護作用を発揮するとの多くのevidenceがある.微量アルブミン尿が認められれば,正常血圧であってもACE阻害薬を投与すべきとの考えがある3),4),5),19),20),21).2002年1月に,イミダプリルが微量アルブミン尿や蛋白尿を有する1型糖尿病患者に追加効能を取得し,正常血圧でも保険適用が得られた5).最近ARBの糖尿病腎症における有効性が相次いで報告された.蛋白尿を示し高血圧の2型糖尿病患者で,ロサルタンやイルベサルタンはプラセボ群やカルシウム拮抗薬群に比し,透析・腎死・死亡に至る率を16〜20%減少させた24),25).また,ARBを微量アルブミン尿で正常〜高血圧の2型糖尿病患者へ投与したところ,尿中アルブミン排泄率が減少し,微量アルブミン尿から蛋白尿への進展が抑制されたり,アルブミン尿が正常化することも報告されている26),27),28).
以上,ACE阻害薬あるいはARBは,少なくとも微量アルブミン尿が認められれば,血圧の値にかかわらず,また軽度の腎機能低下がある症例でも投与すべきといえる.ただし,なかにはACE阻害薬の投与により,血清クレアチニンやカリウム濃度が上昇する例があるので,必ず数週後に血清クレアチニンやカリウム濃度を確認することが必要である.
ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の腎保護作用については,明らかでなかったとする試験25),28)もある.一方,ABCD(Appropriate Blood Pressure Control in Diabetes)Trial4)やわが国で行われたJ-MIND試験22)では,ニソルジピンやニフェジピン徐放錠は,ACE阻害薬と同程度に経時的な尿中アルブミン尿の増加を抑制したと報告されており,なお今後の検討が必要である.さらに,UKPDSでもβ遮断薬のアテノロールがACE阻害薬と同等の腎保護作用を示した2).いずれにしても,糖尿病腎症を伴う例では,十分な降圧をはかることが重要である.
(4)降圧薬の糖尿病網膜症・神経障害に及ぼす影響
高血圧は糖尿病腎症や神経障害の危険因子となる38),39).降圧治療が網膜症の進展を予防することはUKPDSの成績からも明らかである2).ACE阻害薬が有用なことはEUCLID(EURODIAB Controlled Trial of Lisinopril in Insulin-Dependent Diabetes Mellitus)Studyでも示されている40).神経障害の改善効果が小規模なACE阻害薬の試験で示唆されている.
糖尿病における降圧薬としては,第一選択薬として,ACE阻害薬,ARB,持続型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬を用いるべきである.これら降圧薬はインスリン抵抗性を改善し,脂質代謝にも悪影響を及ぼさない6),7),8),9),10),11),12).サイアザイド系利尿薬を用いる際には,インスリン抵抗性悪化を介した糖・脂質代謝への悪影響や低カリウム血症や高尿酸血症などの代謝系への副作用を減らすために,常用量の半量をめどに少量にとどめるべきである33).β遮断薬はインスリン抵抗性を悪化させるが,血管拡張性のβ遮断薬はインスリン抵抗性を改善する9).なお,経口血糖降下薬やインスリン使用中の患者では,β遮断薬の使用にあたっては,低血糖の症状が現れにくくなったり,遷延することがあるので,注意する34).α1遮断薬はインスリン抵抗性や血清脂質濃度を改善するので,高脂血症や前立腺肥大症合併例では第一選択薬になりうるが,糖尿病神経障害がある症例では起立性低血圧に留意する.
なお,ACE阻害薬やARBやカルシウム拮抗薬で利尿薬やβ遮断薬に比べて,糖尿病の新規発症率が20〜30%低下することが報告されている.したがって,特に,糖尿病には至らないものの耐糖能低下があるようなメタボッリクシンドロームの患者では,インスリン抵抗性を改善する降圧薬を選択することが重要である15),16),17),18),41),42).
(2)降圧薬の心血管系疾患に及ぼす影響
糖尿病における高血圧患者において,利尿薬やβ遮断薬や持続型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬で,脳卒中や心疾患などの心血管系疾患の発症率が減少することが示されている1),2),13),14),15),16),41).最近では,高血圧患者を56%含むハイリスクの糖尿病患者におけるMICRO-HOPE(Heart Outcomes Prevention Evaluation)Studyで,ACE阻害薬が心血管系疾患発症率および死亡を25%減少させることが明らかにされている17).ARBについても,ロサルタンがβ遮断薬に比べて,糖尿病患者における心血管系疾患による死亡を37%減少させることが最近報告された18).ただ,糖尿病患者の高血圧治療にあたり,心筋梗塞の発症率を持続型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬よりACE阻害薬のほうがより減少させるとの報告35),36),37)があったが,最近の2型糖尿病を約36%含むハイリスクの高血圧患者で行われたALLHAT(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)の結果では,カルシウム拮抗薬はACE阻害薬と同等の効果を有していることが報告されている15).また,2型糖尿病患者を31.7%含むハイリスクの高血圧患者で行われたVALUE(Valsartan Antihypertensive Long-term Use Evaluation)Trialでも,カルシウム拮抗薬はARBと同等の効果を有していることが報告されている16).すでに虚血性心疾患がある場合には,β遮断薬を用いることにより,心血管疾患の死亡率が50%以下になると報告されている29),30).
(3)降圧薬の糖尿病腎症に及ぼす影響
糖尿病腎症がある場合には,十分な降圧をはかる.蛋白尿が1g/日以上の症例では,目標血圧を125/75mmHg未満にすることも勧められている3),4),5).特に,ACE阻害薬が蛋白尿や微量アルブミン尿を減少させ,腎保護作用を発揮するとの多くのevidenceがある.微量アルブミン尿が認められれば,正常血圧であってもACE阻害薬を投与すべきとの考えがある3),4),5),19),20),21).2002年1月に,イミダプリルが微量アルブミン尿や蛋白尿を有する1型糖尿病患者に追加効能を取得し,正常血圧でも保険適用が得られた5).最近ARBの糖尿病腎症における有効性が相次いで報告された.蛋白尿を示し高血圧の2型糖尿病患者で,ロサルタンやイルベサルタンはプラセボ群やカルシウム拮抗薬群に比し,透析・腎死・死亡に至る率を16〜20%減少させた24),25).また,ARBを微量アルブミン尿で正常〜高血圧の2型糖尿病患者へ投与したところ,尿中アルブミン排泄率が減少し,微量アルブミン尿から蛋白尿への進展が抑制されたり,アルブミン尿が正常化することも報告されている26),27),28).
以上,ACE阻害薬あるいはARBは,少なくとも微量アルブミン尿が認められれば,血圧の値にかかわらず,また軽度の腎機能低下がある症例でも投与すべきといえる.ただし,なかにはACE阻害薬の投与により,血清クレアチニンやカリウム濃度が上昇する例があるので,必ず数週後に血清クレアチニンやカリウム濃度を確認することが必要である.
ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の腎保護作用については,明らかでなかったとする試験25),28)もある.一方,ABCD(Appropriate Blood Pressure Control in Diabetes)Trial4)やわが国で行われたJ-MIND試験22)では,ニソルジピンやニフェジピン徐放錠は,ACE阻害薬と同程度に経時的な尿中アルブミン尿の増加を抑制したと報告されており,なお今後の検討が必要である.さらに,UKPDSでもβ遮断薬のアテノロールがACE阻害薬と同等の腎保護作用を示した2).いずれにしても,糖尿病腎症を伴う例では,十分な降圧をはかることが重要である.
(4)降圧薬の糖尿病網膜症・神経障害に及ぼす影響
高血圧は糖尿病腎症や神経障害の危険因子となる38),39).降圧治療が網膜症の進展を予防することはUKPDSの成績からも明らかである2).ACE阻害薬が有用なことはEUCLID(EURODIAB Controlled Trial of Lisinopril in Insulin-Dependent Diabetes Mellitus)Studyでも示されている40).神経障害の改善効果が小規模なACE阻害薬の試験で示唆されている.