(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版
9.糖尿病神経障害の治療
アブストラクトテーブル
論文コード | 対象 | 方法 | 結果 |
1)Tesfaye S et al, 1996 コホート研究(横断研究) レベル4 | ランダムに選択したIDDM患者(3,250人) | 神経障害の罹病率と各種危険因子の関係について解析 | 対象者の神経障害の罹病率は28%であり,その有意な危険因子は年齢,糖尿病罹病期間,血糖コントロール,身長,喫煙,低HDL-C血症,血圧,中性脂肪,各種合併症の存在であった |
2)Forrest KY et al, 1997 コホート研究 レベル3 | 神経障害のない小児期発症のIDDM患者463人.そのうち,経過観察を受けた453人について解析 | 6年間観察し,神経障害の発症率と危険因子を解析 | 6年間で15.0%の患者が神経障害を発症.有意な危険因子は糖尿病罹病期間,高血圧,血糖コントロール不良,身長,喫煙であった.中でも,血糖,血圧の管理,禁煙が特に重要 |
3)Adler AI et al, 1997 コホート研究 レベル3 | 神経障害のない糖尿病患者387人のうち,観察の終了した288人 | 平均2.4年観察し,神経障害発症の危険因子を解析 | 288人中58人が神経障害を発症.神経障害発症の有意な危険因子は年齢,HbA1c値,身長,潰瘍の既往,飲酒であり,喫煙,血清アルブミン値は逆相関であった |
4)Partanen J et al, 1995 コホート研究 レベル3 | 新規発症NIDDM患者132人と健常者142人.それぞれ86人,121人が観察を終了 | NIDDM vs.健常者[10年間観察] | NIDDMでは神経障害の発症率が増加した.10年後の神経障害罹患率はNIDDMで41.9%,健常者で5.8%であった |
5)DCCT Research Group, 1993 RCT レベル1 | IDDM患者1,441人を強化療法群(730人)と従来療法群(711人)に割付 | 強化療法vs.従来療法[平均6.5年間観察] | 観察期間中における平均HbA1c値は強化療法群で約7%,従来療法群で約9%.神経障害発症率は強化療法群で5%,従来療法群で13%であり,強化療法は神経障害発症を60%抑制した |
6)DCCT Research Group, 1995 RCT レベル1 | IDDM患者1,441人を強化療法群(730人)と従来療法群(711人)に割付 | 強化療法vs.従来療法[平均6.5年間観察].9章文献5 DCCT研究の神経障害に関する詳細報告 | 強化療法群,従来療法群における臨床的神経障害の発症率は5%,13%で,強化療法は神経障害の発症を64%抑制した. 強化療法は神経伝導速度異常の発症率を44%抑制し(それぞれ26%,46%),自律神経機能異常の発症率を53%(それぞれ4%,9%)抑制した |
7)Reichard P et al, 1991 RCT レベル2 | IDDM患者96人を強化療法群(44人)と従来療法群(52人)に割付 | 強化療法vs.従来療法[5年間観察] | 観察期間中のHbA1c値は強化療法群で約7.2%,従来療法群で約8.7%であり,強化療法は神経障害発症を有意に抑制したが,低血糖と体重増加をきたした |
8)Ohkubo Y et al, 1995 RCT レベル2 | 日本人NIDDM患者110人にインスリン治療を行い,強化療法群(55人)と従来療法群(55人)に割付 | 強化療法vs.従来療法[6年間観察] | 観察期間中のHbA1c値平均は強化療法群で7.1%,従来療法群で9.4%であったが,強化療法により神経伝導速度が有意に改善し,振動覚閾値の悪化が有意に少なかった.起立時血圧低下度,心電図RR間隔は有意差がない |
9)Pfeifer MA et al, 1997 システマティックレビュー レベル1+ | 1981年~1993年2月に出版されたRCT文献35編 | 各種アルドース還元酵素阻害薬の糖尿病神経障害に対する効果 | アルレスタチン,ソルビニル,ポナルレスタット,トルレスタットはいずれも神経障害に有効性を示さない.ARIが有効性を示さない原因について詳しく考察 |
10)後藤由夫ほか,1990 RCT レベル2 | 糖尿病神経障害(自発痛,感覚障害)を有する日本人糖尿病患者(196人) | エパルレスタット(E)vs.プラセボ(P)[12週服薬の効果] | 自発痛の改善率は,上肢でE群42.9%,P群12.0%,下肢でE群48.6%,P群22.6%で,E群で有意に改善した.他の神経機能検査でもE群ではP群より有意に改善した |
11)Goto Y et al, 1993 RCT レベル2 | 糖尿病神経障害(自発痛,感覚障害)を有する日本人糖尿病患者(196人) | エパルレスタット(E)vs.プラセボ(P)[12週服薬の効果] | 9章文献10のサブアナリシス.EはHbA1c≧7.1%,中等症の患者に特に有効であった |
12)Goto Y et al, 1995 RCT レベル2 | 糖尿病神経障害(自発痛,感覚障害)を有する日本人糖尿病患者(196人) | エパルレスタット(E)vs.プラセボ(P)[12週服薬の効果] | 9章文献10のサブアナリシス.EはHbA1c≧7.5%,神経障害発症3年以内,軽症~中等症の患者に特に有効であった |
13)Nakayama M et al, 2001 RCT レベル2- | 軽症の神経障害を有する日本人2型糖尿病患者(30人) | エパルレスタット150mg vs.非投与[24週服薬の効果] | エパルレスタット投与群は非投与群に対し,自律神経機能検査,神経伝導速度の一部が有意に改善した |
14)Greene DA et al, 1999 RCT レベル2 | 軽症~中等症の神経障害を有する糖尿病患者(208人) | ザナレスタットvs.プラセボ[52週服薬の効果] | ザナレスタット群はプラセボ群に対し,神経伝導速度の低下,組織学的神経線維の減少を有意に抑制した |
15)Hotta N et al, 2001 RCT レベル2 | 神経障害を有する日本人糖尿病患者(279人) | フィダレスタットvs.プラセボ[52週服薬の効果] | フィダレスタット群はプラセボ群に対し,神経伝導速度および神経症状を有意に改善した |
16)Bril V et al, 2004 RCT レベル2 | 軽症~中等症の神経障害を有する糖尿病患者101人.93人が試験を完了 | AS-3201 5mg vs. 20mg vs.プラセボ[12週服薬の効果] | AS-3201 20mgはプラセボ群に対して感覚神経伝導速度を有意に改善した |
17)Hotta N et al, 2006 RCT レベル1 | 軽症の神経障害を有する糖尿病患者634人.594人が試験を完了 | エパルレスタット150mg vs.非投与[3年服薬の効果] | エパルレスタット投与群では非投与群に比して神経伝導速度の遅延を有意に抑制された |
18)Ziegler D et al, 2004 メタアナリシス レベル1+ | 感覚神経症状を有する糖尿病患者(1,258人) | α-リポ酸(600mg/day,3週間静注)のRCT 4件から得られた成績をメタ解析 | α-リポ酸は神経症状と理学所見を改善する |
19)Gomez-Perez FJ et al, 1985 RCT レベル2- | 有痛性神経障害を有する糖尿病患者24人.18人が試験を完了 | ノルトリプチリン-フルフェナジン合剤vs.プラセボ[30日服薬の効果をクロスオーバー法で観察] | ノルトリプチリン-フルフェナジン合剤は疼痛および異常感覚のスコアを有意に改善した |
20)Max MB et al, 1987 RCT レベル2- | 有痛性神経障害を有する糖尿病患者37人.29人が試験を完了 | アミトリプチリンvs.プラセボ[6週服薬の効果をクロスオーバー法で観察] | アミトリプチリン投与にて疼痛スコアが有意に改善した.14人がうつ状態であったが,疼痛スコアの改善とうつ状態の改善は無関係であった |
21)Max MB et al, 1991 RCT レベル2- | 有痛性神経障害を有する糖尿病患者24人.20人が試験を完了 | デシプラミンvs.プラセボ[6週服薬の効果をクロスオーバー法で観察] | デシプラミン投与にて疼痛スコアが有意に改善した.うつ状態の患者のほうが疼痛改善効果が大きい傾向があった |
22)Max MB et al, 1992 RCT レベル2 | 有痛性神経障害を有する糖尿病患者54人.試験を完了したのはD vs A試験で38人,F vs P試験で46人 | デシプラミン(D)vs.アミトリプチリン(A).フルオキセチン(F)vs.プラセボ(P)[6週服薬の効果をクロスオーバー法で観察] | 疼痛改善率はD群で61%,A群で74%,F群で48%,P群で41%であり,DとAは有効と判定されたが,Fは無効と判定された |
23)McQuay H et al, 1995 システマティックレビュー レベル2+ | 1966年~1994年2月に出版されたRCT文献37編 | 抗痙攣薬の疼痛治療に対する効果 | 糖尿病神経障害に対する抗痙攣薬については3論文があり,カルバマゼピンに関して1論文で有効,フェニトインに関して1論文で有効,1論文で無効 |
24)Backonja M et al, 1998 RCT レベル2 | 有痛性神経障害を有する糖尿病患者(165人) | ガバペンチンvs.プラセボ[8週服薬の効果] | ガバペンチン投与にて疼痛スコアが有意に改善した |
25)Morello CM et al, 1999 RCT レベル2- | 有痛性神経障害を有する糖尿病患者(25人) | ガバペンチンvs.アミトリプチリン[6週服薬の効果をクロスオーバー法で観察] | ガバペンチンの有効性はアミトリプチリンと同等であった |
26)Stracke H et al, 1992 RCT レベル2 | 有痛性神経障害を有する糖尿病患者(95人) | メキシレチンvs.プラセボ[5週服薬の効果] | メキシレチン投与にて疼痛スコアが有意に改善した |
27)鈴木吉彦ほか,1992 RCT レベル2- | 有痛性神経障害を有する日本人糖尿病患者(26人) | メキシレチンvs.プラセボ[1週服薬の効果をクロスオーバー法で観察] | メキシレチン投与にて自覚的疼痛レベルが有意に改善した |
28)松岡健平ほか,1997 RCT レベル2- | 有痛性神経障害を有する日本人糖尿病患者(171人) | メキシレチン300mg vs.450mg vs.プラセボ[4週服薬の効果] | メキシレチンは自発痛としびれ感を有意に改善した.改善率は300mgと450mgで有意差はなかった.有用度は300mgが最善であった |
29)松岡健平ほか,1997 RCT レベル2 | 有痛性神経障害を有する日本人糖尿病患者(118人) | メキシレチン300mg vs.プラセボ[2週服薬の効果] | 自発痛改善率はメキシレチン群で46.6%,プラセボ群で13.3%であり,メキシレチン群で有意に改善した |
30)Watson CP et al, 2003 RCT クロスオーバー レベル2- | 中等症以上の有痛性神経障害を有する糖尿病患者(45人).36人が試験を完了 | 徐放性オキシコドン(20~80mg/day,最長4週間)vs.プラセボ[クロスオーバー法で観察] | 徐放性オキシコドンは有意に疼痛を緩和するとともにQOLを改善した |
31)Gimbel JS et al, 2003 RCT レベル2 | 中等症から重症の有痛性神経障害を有する糖尿病患者(159人) 115人が試験を完了 | 徐放性オキシコドン(20~120mg/day,最長6週間)vs.プラセボ | 徐放性オキシコドンは有意に疼痛を緩和した |
32)Erbas T et al, 1993 RCT レベル4 | 胃排出機能障害を有する糖尿病患者(13人) | メトクロプラミドvs.エリスロマイシン[3週服薬の効果] | 両薬剤ともに服薬前に比し胃排出時間が有意に短縮したが,エリスロマイシンのほうが改善度が大きかった |
33)Rendell MS et al, 1999 RCT レベル2 | 勃起障害を有する男性糖尿病患者(268人) | シルデナフィルvs.プラセボ[12週服薬の効果] | 勃起障害改善率はシルデナフィル群で56%で,プラセボ群10%に比し有意に改善した |
34)Goldstein I et al, 2003 RCT レベル1+ | 勃起障害を有する男性糖尿病患者452人 | バルデナフィル10mg vs. 20mgvs.プラセボ[12週服薬の効果] | バルデナフィルは用量依存性に勃起障害を改善した |