(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版

 
9.糖尿病神経障害の治療


解説

3.糖尿病神経障害の発症・進展と予防
糖尿病神経障害の発症・進展に関与する危険因子には,(1)血糖コントロールの不良,(2)糖尿病罹病期間,(3)高血圧,(4)喫煙,(5)飲酒,(6)高身長などがあるが1),2),3),これらのうち最も重要な因子は血糖コントロールの不良である.糖尿病神経障害の発症率は血糖コントロールの不良な患者ほど高く,その罹病率は糖尿病罹病期間の経過とともに増加する4)
血糖コントロールの改善が糖尿病神経障害の発症・進展を抑制するか否かについては3件のRCTが施行されている.米国で実施された1,441名の1型糖尿病を対象としたDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)5),6)では,患者群をランダムに強化療法群と従来療法群に割り付け,6.5年間の観察を行っているが,観察期間中におけるHbA1cの平均値は従来療法群で約9%,強化療法群では約7%であった.観察終了時における神経障害の発症率は,従来療法群で13%,強化療法群で5%であり,強化療法により神経障害の発症が60%抑制された.
Reichardら7)も96名の1型糖尿病を対象に強化療法による合併症抑制に関する研究を行ったが,同様に強化療法により有意に神経障害の発症が抑制された.
2型糖尿病を対象とした研究には,わが国で行われたKumamoto Study8)があり,110名の2型糖尿病患者をランダムに強化療法群と従来療法群に割り付け,強化療法の効果を調べている.観察期間中のHbA1cは強化療法群で平均7.1%,従来療法群で平均9.4%であったが,強化療法により神経伝導速度と振動覚閾値の悪化が有意に抑制された.
これらの結果は,強化療法による厳格な血糖コントロールが糖尿病神経障害の発症・進展を抑制することを示すが,サブアナリシスの結果ではHbA1cが低いほど神経障害の発症・進展は少なく,その予防のためにはできる限り厳格な血糖コントロールを維持することが必要である.


 
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