(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版
5.経口血糖降下薬による治療
解説
4.第一選択とする経口血糖降下薬
経口血糖降下薬は,合併症抑制のevidence,病態に適した作用機序を有すること,禁忌でないことなどを考慮し,患者への説明と同意のもとに開始するべきである.初回投与量は少量から開始し,コントロールが不十分な場合に徐々に増量する.
evidenceについては,UKPDSではスルホニル尿素薬,メトホルミン(ビグアナイド薬)またはインスリンが治療薬として用いられ,いずれも細小血管症の発症・進展を抑制することが示された4).細小血管症に対する効果については薬物間の差がなかったので,αグルコシダーゼ阻害薬,チアゾリジン薬,速効型インスリン分泌促進薬についても,血糖コントロールが改善すれば細小血管症のリスクは減少すると推測される.
一方,UKPDSにおいて,スルホニル尿素薬やインスリン治療では大血管症や死亡を抑制するevidenceを得ることができなかったが,肥満患者にビグアナイド薬(メトホルミン)治療を行うと大血管症や死亡を抑制できることが示された7).αグルコシダーゼ阻害薬(アカルボース)については,複数の臨床試験のメタ解析により大血管症の抑制が示された5).チアゾリジン薬(ピオグリタゾン)についてはPROactiveにより大血管症の二次予防に対する一定の効果が示された6).しかし,αグルコシダーゼ阻害薬(アカルボース)とチアゾリジン薬の大血管症に対する効果に対しては,批判的な意見もある10),11).このように,大血管症の抑制効果は薬物間の差が存在するが,それは食後高血糖の是正やインスリン抵抗性の是正という作用機序の違いによるのではないかと推測される.
各薬物の作用機序,特徴,副作用は以下の通りである.
(1)スルホニル尿素薬
膵ランゲルハンス島β細胞からのインスリン分泌を促進させる.長期間臨床の場で使用されていて細小血管症抑制のevidenceがあるため,年齢,体重を問わず,第一選択薬として有用である4),11),12).血糖降下作用は強く,診断されたばかりの患者,空腹時Cペプチド値が保たれている患者,インスリン治療歴のない患者で著効を示しやすい1),11),12),13).長期間使用していると血糖は次第に上昇してくる(二次無効)ことがあるが,他の系統の薬剤でも二次無効は同様に起こると推測される3),4).経口血糖降下薬の中では最も低血糖の頻度が高い.また,食事・運動がおろそかになると体重増加が起こりやすい.
スルホニル尿素薬は多くの種類があるが,低血糖の頻度やインスリン分泌以外の作用に相違点が認められる.ただし,合併症に対する薬物間の差は不明である.
(2)ビグアナイド薬
肝臓からのグルコース放出の抑制および筋肉を中心とした末梢組織でのインスリンの感受性を高める作用を有している.体重増加があまり起こらず,中性脂肪やLDLコレステロール(LDL-C)を下げる働きがある14),15).大血管症抑制のevidenceがあるため,欧米では肥満のある場合の第一選択薬として用いられており,スルホニル尿素薬と同等の血糖改善があるとされている7),16),しかし,2型糖尿病の病態,体格,摂取カロリー,健康保険で許可されている用量(〜750mg/日)が違う日本では,どの程度の効果があるかどうか不明な点が多い.副作用として胃腸障害がしばしばみられる.まれに重篤な乳酸アシドーシスが起こる危険があるため,肝・腎・心・肺機能が低下している症例,ミトコンドリアDNA異常症の患者,ヨード造影剤使用前2日間は用いるべきではない.高齢者への投与も慎重に行う.
(3)αグルコシダーゼ阻害薬
αグルコシダーゼ阻害薬は腸管での糖の分解を抑制して吸収を遅らせる.食後の高血糖・高インスリン血症を抑える効果がある.単独投与でのHbA1cや空腹時血糖の改善度は他の薬剤に比べて小さいが,大血管症抑制のevidenceがあり,ユニークな作用機序を有しているため他の薬剤との併用に適している17),18).低血糖時にはブドウ糖で対処する.毎食直前の投与が必要であり,服薬コンプライアンスの不良に注意する.副作用として放屁や下痢がしばしばみられ,まれに重篤な肝障害が起こることがある17),18).
(4)チアゾリジン薬
末梢組織でのインスリンの感受性を高め,肝臓からのグルコース放出を抑制する.血糖改善効果はスルホニル尿素薬と同等以上である19).女性,肥満,高インスリン血症のある場合,薬剤の効果は大きい.中性脂肪を下げ,HDLコレステロール(HDL-C)を上昇させる効果も有している.動脈硬化の進行を抑制する作用もあり,大血管症の二次予防のevidenceがある.副作用として体液貯留作用と脂肪細胞の分化を促進する作用があるため体重がしばしば増加する.ときに浮腫,貧血,心不全をきたすことがあるため十分注意しながら投与すべきである19),20),21),22).
(5)速効型インスリン分泌促進薬
スルホニル尿素薬と同様の機序でインスリン分泌を促進するが,効果がより速やかに起こり,また短時間で消失する.血糖改善効果はスルホニル尿素薬ほど大きくない.食後の高血糖がみられる患者によい適応である.副作用として低血糖が起こりうる23),24),25).
evidenceについては,UKPDSではスルホニル尿素薬,メトホルミン(ビグアナイド薬)またはインスリンが治療薬として用いられ,いずれも細小血管症の発症・進展を抑制することが示された4).細小血管症に対する効果については薬物間の差がなかったので,αグルコシダーゼ阻害薬,チアゾリジン薬,速効型インスリン分泌促進薬についても,血糖コントロールが改善すれば細小血管症のリスクは減少すると推測される.
一方,UKPDSにおいて,スルホニル尿素薬やインスリン治療では大血管症や死亡を抑制するevidenceを得ることができなかったが,肥満患者にビグアナイド薬(メトホルミン)治療を行うと大血管症や死亡を抑制できることが示された7).αグルコシダーゼ阻害薬(アカルボース)については,複数の臨床試験のメタ解析により大血管症の抑制が示された5).チアゾリジン薬(ピオグリタゾン)についてはPROactiveにより大血管症の二次予防に対する一定の効果が示された6).しかし,αグルコシダーゼ阻害薬(アカルボース)とチアゾリジン薬の大血管症に対する効果に対しては,批判的な意見もある10),11).このように,大血管症の抑制効果は薬物間の差が存在するが,それは食後高血糖の是正やインスリン抵抗性の是正という作用機序の違いによるのではないかと推測される.
各薬物の作用機序,特徴,副作用は以下の通りである.
(1)スルホニル尿素薬
膵ランゲルハンス島β細胞からのインスリン分泌を促進させる.長期間臨床の場で使用されていて細小血管症抑制のevidenceがあるため,年齢,体重を問わず,第一選択薬として有用である4),11),12).血糖降下作用は強く,診断されたばかりの患者,空腹時Cペプチド値が保たれている患者,インスリン治療歴のない患者で著効を示しやすい1),11),12),13).長期間使用していると血糖は次第に上昇してくる(二次無効)ことがあるが,他の系統の薬剤でも二次無効は同様に起こると推測される3),4).経口血糖降下薬の中では最も低血糖の頻度が高い.また,食事・運動がおろそかになると体重増加が起こりやすい.
スルホニル尿素薬は多くの種類があるが,低血糖の頻度やインスリン分泌以外の作用に相違点が認められる.ただし,合併症に対する薬物間の差は不明である.
(2)ビグアナイド薬
肝臓からのグルコース放出の抑制および筋肉を中心とした末梢組織でのインスリンの感受性を高める作用を有している.体重増加があまり起こらず,中性脂肪やLDLコレステロール(LDL-C)を下げる働きがある14),15).大血管症抑制のevidenceがあるため,欧米では肥満のある場合の第一選択薬として用いられており,スルホニル尿素薬と同等の血糖改善があるとされている7),16),しかし,2型糖尿病の病態,体格,摂取カロリー,健康保険で許可されている用量(〜750mg/日)が違う日本では,どの程度の効果があるかどうか不明な点が多い.副作用として胃腸障害がしばしばみられる.まれに重篤な乳酸アシドーシスが起こる危険があるため,肝・腎・心・肺機能が低下している症例,ミトコンドリアDNA異常症の患者,ヨード造影剤使用前2日間は用いるべきではない.高齢者への投与も慎重に行う.
(3)αグルコシダーゼ阻害薬
αグルコシダーゼ阻害薬は腸管での糖の分解を抑制して吸収を遅らせる.食後の高血糖・高インスリン血症を抑える効果がある.単独投与でのHbA1cや空腹時血糖の改善度は他の薬剤に比べて小さいが,大血管症抑制のevidenceがあり,ユニークな作用機序を有しているため他の薬剤との併用に適している17),18).低血糖時にはブドウ糖で対処する.毎食直前の投与が必要であり,服薬コンプライアンスの不良に注意する.副作用として放屁や下痢がしばしばみられ,まれに重篤な肝障害が起こることがある17),18).
(4)チアゾリジン薬
末梢組織でのインスリンの感受性を高め,肝臓からのグルコース放出を抑制する.血糖改善効果はスルホニル尿素薬と同等以上である19).女性,肥満,高インスリン血症のある場合,薬剤の効果は大きい.中性脂肪を下げ,HDLコレステロール(HDL-C)を上昇させる効果も有している.動脈硬化の進行を抑制する作用もあり,大血管症の二次予防のevidenceがある.副作用として体液貯留作用と脂肪細胞の分化を促進する作用があるため体重がしばしば増加する.ときに浮腫,貧血,心不全をきたすことがあるため十分注意しながら投与すべきである19),20),21),22).
(5)速効型インスリン分泌促進薬
スルホニル尿素薬と同様の機序でインスリン分泌を促進するが,効果がより速やかに起こり,また短時間で消失する.血糖改善効果はスルホニル尿素薬ほど大きくない.食後の高血糖がみられる患者によい適応である.副作用として低血糖が起こりうる23),24),25).