(旧版)科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 改訂第2版

 
4.運動療法


解説

2.運動療法の実際
冠動脈疾患の予防につながる運動の効果は主としてエネルギー総消費量と関係があるといわれ,1週間に700~2,000kcalのエネルギーを消費する程度の運動が勧められているa).運動の強度は,運動中の酸素消費量や心拍数ならびに自覚的運動強度などで表わされるが,一般に中等度の運動とは,最大酸素消費量の40~60%あるいは運動中の心拍数が,その個人の安静時の心拍数から最大心拍数に至るまでの50~70%程度であるものを指し,自覚的には「ややきつい」と感じる程度である.個人の最大心拍数は段階的運動負荷試験で決定されるべきではあるが,簡易的には“220-年齢”で推定できる.しかしながら,2型糖尿病患者においては自律神経障害を有している場合もあり,むしろ自覚症状で運動強度を推定するのが有用であると考えられているb),c).中等度以上の運動療法を行う際には,運動による望ましくない副作用や循環器系合併症の多くは運動の開始時か終了時に生じるため,運動の前後におのおの約5分間の準備運動ならびに整理運動を行ったほうがよい.
糖尿病患者の血糖値の改善は運動後12~72時間持続することより,運動はできれば毎日,少なくとも1週間のうち3~5日間行うことが勧められる.たとえば,体重60kgの人では1日に50分程度のウォーキング(速歩)または20分程度のジョギングを週5日行った場合,運動による消費エネルギーは1週間に約1,000kcal程度となる.
近年,レジスタンス運動の有用性が注目されており,有酸素運動は単調である場合が多いが,レジスタンス運動では多くの異なった運動を取り入れることができ,筋肉量や筋力を増加させる8),10)とともにインスリン抵抗性を改善12),15),16),18)し,血糖コントロールを改善する7),8),9),10),11),12)と考えられている.一般的には週に2~3日,主要な筋肉群を含んだ8~10種類のレジスタンス運動を10~15回繰り返す(1セット)ことより開始し,徐々に強度やセット数を増加させていくことが推奨されているb),c)
運動は実生活の中で実施可能な時間であればいつ行ってもよいが,食後1時間ころに行うと食後の高血糖が改善されると考えられている.インスリンや経口血糖降下薬(特にスルホニル尿素薬)で治療を行っている場合には低血糖になりやすい時間に注意する必要がある.
運動療法の進め方は個人の基礎体力,年齢,体重,健康状態などにより異なるが,最初は歩行時間を増やすなど無理のない程度に身体活動量を増加させることより始め,段階的に運動量を増加させていき,患者の嗜好にあった運動を取り入れるなど,安全かつ運動の楽しさを実感できるように工夫することにより,運動の継続が期待される.運動療法の目標として一般的には,運動強度が中等度で,持続時間が20~60分程度の運動を毎日,少なくとも週3~5日間は行うことが勧められる.


 
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