(旧版)「喘息ガイドライン作成に関する研究」平成11年度研究報告書/ガイドライン引用文献(2000年まで)簡易版抄録を掲載
4-3-4.抗アレルギー薬
前文
本稿の作成に当たって,Advanced Pub Medを用い,項目毎に小児のランダム・対照試験の検索を行い,約50以上の文献が得られない場合は,全年齢層に拡大,それでも十分な文献が得られない場合はmedlineで非ランダム・対照試験についても検索し,抄録(表題のみの場合は表題)を読み,小児のβ2刺激薬使用について全論文を読む必要があると思われた文献についてはこれを求め,評価し,採否を決定した。原則として,英文原著論文を対象とした。
現在,わが国の小児で適応が認められている吸入抗アレルギー薬はメディエーター遊離抑制薬のクロモリン,経口抗アレルギー薬は,メディエーター遊離抑制薬のトラニラスト,レピリナスト,ペミロラスト,メディエーター遊離抑制作用とヒスタミンH1-拮抗作用を併せ持つ,ケトチフェン,アゼラスチン,オキサトミド,メキタジン,ロイコトリエン拮抗薬のプランルカストである。
欧米では,ロイコトリエン拮抗薬のモンテルカスト,ザフィルルカストが経口抗アレルギー薬として評価され,論文が増えつつある。
現在,わが国の小児気管支喘息に使用されている抗アレルギー薬に関するランダム・対照試験の文献はPub Medでの検索では,クロモリン,ケトチフェンを除き限られたものになっており,多くは和文によらざるを得なかった。
1.経口抗アレルギー薬
科学的根拠
気管支喘息における抗アレルギー薬の効果は,喘息発作の抑制作用,気管支拡張薬の節減効果,肺機能,さらにアレルギー性気道炎症の指標でとらえることができる。
小児において肺機能検査が低年齢では実施が困難であり,アレルギー性気道炎症を直接とらえることにも困難があることから,発作の抑制作用,気管支拡張薬の節減効果から評価されることが多い。
小児で使用される経口抗アレルギー薬の多くは,わが国で開発された。これらの評価は,全般的な薬効の評価は,全般改善度判定(試験薬投与後,臨床症状,併用薬の使用状況を対照観察期間と比較し,著明改善,中等度改善,軽度改善,不変,悪化)で,多くは判定された。これに患児或いは保護者の印象が加味されて,最終全般改善度が,著明改善,中等度改善,軽度改善,不変,悪化,の5段階で多くは判定されている。
さらに,副作用の発現の有無から概括安全度が判定され,概括安全度と最終全般改善度から,最終的に,有用度が,極めて有用,有用,やや有用,有用性がみられない,好ましくない,の5段階で判定されることが多い。最終的な有用度の判定は,試験医師により,多因子から総合判定されることになる。
薬効は,発作点数・併用薬の変化,肺機能やこれから判定した全般改善度,最終全般改善度から判断できる。
小児で使用される経口抗アレルギー薬は,喘息の治験報告では成人より小児で有用性が約2倍程度高く評価されている1)。
メディエーター遊離抑制薬に分類されるトラニラスト2),レピリナスト3),ペミロラスト4)の二重盲検比較多施設試験は軽症〜重症を対象に治験が行われ,トラニラスト以外はトラニラストを対照として行われている。発作抑制効果は,大発作については対照期間の発作回数が少なく抑制効果の判定は困難である3),4)。小発作,中発作回数の減少効果と併用薬減少効果は気管支拡張薬内服回数3),4),吸入4)で2〜4週以内に認められるが,肺機能は6週以内では有意な肺機能の改善は認められていない6)。副作用はトラニラストの出血性膀胱炎などである。
抗アレルギー薬でヒスタミンH1拮抗薬に分類されるケトチフェン,アゼラスチン,オキサトミド,メキタジンはメディエーター遊離抑制作用と同時に抗ヒスタミンH1作用を有する。小児気管支喘息ではアトピー性皮膚炎,アレルギー性鼻炎を合併していることが多い。ヒスタミンH1拮抗薬は,これらを合併している喘息の場合,これらの諸症状に対する早期の改善効果も,同時に期待される。
ケトチフェン5),オキサトミド6)はプラセボを対照とした二重盲検比較多施設試験があり,メキタジンはオキサトミドを対照とした二重盲検比較多施設試験9)がある。アゼラスチンは小児を対象とした試験は非盲検非対照試験7)のみで二重盲検比較多施設試験は見あたらなかったが,成人においてプラセボを対照とした二重盲検比較多施設試験8)で有効性が認められている。ケトチフェン以外は軽症・中等症患者を対象として行われている。
発作回数の減少は投与開始後2週9)〜6週5)頃から認められるようになり,併用薬減少効果はβ2刺激薬服用回数5),9),テオフィリン薬5)で認められ,肺機能は6週5)〜2,3ヶ月後6)から有意な改善が認められる。
副作用は,眠気の出現,オキサトミドの錐体外路症状,アゼラスチンの苦味などが主なものである。
ロイコトリエン受容体拮抗薬であるプランルカストはオキサトミドより早期に薬効が得られ,1〜2週で肺機能改善10)が認められている。併用薬の減少効果は,4週間の投与では,β2刺激薬吸入・内服回数の減少は認められるが,テオフィリン薬の減少効果は認められていない10)。
国際喘息ガイドラインでは,ケトチフェンに関する報告の結果は一様でないが,小児やアトピー素因を持つ若年成人で最も有効性が高いとし,その他のメディエーター遊離抑制薬,ヒスタミンH1拮抗薬についてはさらに検討が必要で,ヒスタミンH1拮抗薬(テルフェナジンなど)は有効性が低く,喘息に対する長期維持量療法薬として勧められない11)としている。 一方,成人ではあるが,アトピー型喘息にケトチフェンとプラセボを盲検法で投与,投与前後に気管支粘膜生検を行い,ケトチフェンは有意に症状,肺機能,気道過敏性を改善し,組織学的に気道アレルギー性炎症を抑制したと報告12)され,ケトチフェン長期投与によるアトピー性皮膚炎患児の喘息発症予防効果を二重盲検法により確認13)しており,アトピー型が大半を占める小児気管支喘息では有効性が高いと推測される。
各薬剤の有効性は,論文を並べることによって単純に比較することはできない。試験対象や試験季節が同一でなく,小児気管支喘息は季節性の変動が大きいため,短期間の試験では,実施季節によって結果が異なってくることも推測される。
経口抗アレルギー薬の1剤が無効である場合,他剤の有効性について,これまでのところ,明確な結論は得られていない。
異なる薬効を有する抗アレルギー薬の併用効果について,結論は得られていない。
多くの抗アレルギー薬の効果発現は,小児ではまず発作回数の減少,次いでβ2刺激薬の投与回数の減少として観察される。プランルカスト以外では,肺機能の改善には6〜10週5),6),8)以上必要と考えられ,わが国で行われた二重盲検比較試験の効果判定期間は短すぎる可能性があり,肺機能による効果判定は投与開始後2〜3ヶ月たった時点でおこなうのが適切と考えられる。
(モンテルカスト,ザフィルルカストはわが国では未承認)
結論
抗アレルギー薬の効果発現は,小児ではまず発作回数の減少,次いでβ2刺激薬の頓用回数の減少として観察される。肺機能による効果判定は投与開始後2〜3ヶ月たった時点でおこなう。