食塩の過剰摂取は特にカルシウム結石の再発の危険因子になり得ると考えられ,食事指導を行う上で,適度な食塩摂取制限は有用なものと考えられる。
B:エビデンスがあり,推奨内容を日常診療で実践するように推奨する。
食塩の摂取は,尿中カルシウム排泄量を決める大きな要因のひとつであり,実際に食塩の摂取制限が尿中カルシウム排泄量の減少をきたすことは,すでに多くの報告がある。食塩摂取とシュウ酸カルシウム結石発生との関係についての初めての報告は,Curhan らによる大規模コホート研究の中で述べられている。しかし,一方では否定的な報告も散見されている。これらの結果の違いは,食事調査における食塩摂取量の正確な把握が難しいことを反映していると思われる。1995 年に出されたレビューでは,食塩摂取量が尿中カルシウム排泄量に強い影響を及ぼすことが示唆されている。その後も様々なRCT が行われ,食塩摂取と結石発生リスクの関連性が次第に明らかになってきた。 動物性タンパクと食塩摂取制限 Borghi らは,動物性タンパクと食塩摂取制限が,特発性高カルシウム尿症を合併したシュウ酸カルシウム結石患者の再発予防に寄与するかを検討した。120 名の特発性高カルシウム尿症をもつ男性のシュウ酸カルシウム結石患者に対して,5 年間にわたるRCT を行った。すなわち,120 名を60 名ずつ2 群にわけ,一方に正常カルシウム(30 mmol/day)+動物性タンパク制限(52 g/day)+減塩食(NaCl 換算で50 mmol/day)を供与し,もう一方の群では,カルシウム制限食(10 mmol/day)を供与した。5 年経過した時点で,正常カルシウム+動物性タンパク制限+減塩食群では60 名中12 名で結石の再発を認めた。一方,カルシウム制限食群では,60名中23 名で,結石再発を認めた。両群間の再発率は,正常カルシウム+動物性タンパク制限+減塩食群で有意に低かった(P=0.04)。また,尿中カルシウム排泄量は両群とも治療前に比較して有意に減少したが,尿中シュウ酸排泄量はカルシウム制限群において増加し,正常カルシウム+動物性タンパク制限+減塩食群では減少した。これらの結果より,特発性高カルシウム尿症を合併した再発性シュウ酸カルシウム結石患者において,正常カルシウム投与に動物性タンパクと食塩摂取制限を組み合わせた食事指導は,従来行われてきたカルシウム制限食よりも再発予防として優れているとしている。 食塩摂取制限 さらに最近の報告でも,高カルシウム尿症をもつシュウ酸カルシウム結石患者に対する食塩摂取制限により,尿中カルシウム排泄量を減少させることが証明されている。高カルシウム尿症をもつ特発性カルシウム結石患者210 名(男性:>300 mg Ca/day,女性:>250 mg Ca/day)を無作為に2 群に分け,一方には飲水指導のみ(コントロール群),もう一方には飲水指導+食塩摂取制限(low-salt diet 群)をそれぞれ3 か月間継続した。コントロール群102 名(うち2 名がdrop out),low-salt diet 群108 名(うち11 名がdrop out)がエントリーし,治療開始前を基準値として3 か月後の尿中結石関連物質の変化について検討した。その結果,low-salt diet 群では,コントロール群に比較して尿中ナトリウム排泄量の有意な低下を認めた(p<0.001)。またlow-salt diet 群では,コントロール群に比較して,尿中カルシウム排泄量の有意な低下(271±86 mg/day vs 361±129 mg/day,p<0.001)を認めた。low-salt diet 群では,61.9%の患者で尿中カルシウム排泄量が治療前に比較して正常化したのに対して,コントロール群では34.0%の患者が正常化したにとどまった(p<0.001)。さらに,low-salt diet 群では,治療開始前に比較して尿中シュウ酸排泄量も有意に低下した(p=0.001)。なお,食塩摂取制限に伴う尿中シュウ酸排泄量の低下は,腸管からのシュウ酸吸収を抑制することによると考えられている。 食塩摂取制限と尿路結石再発予防のメカニズム ところで,食塩が尿中カルシウム排泄増加をきたすメカニズムは,尿細管におけるカルシウムの再吸収抑制によると考えられており,さらに食塩の過剰摂取が,尿中クエン酸排泄量の減少をもきたすといわれている。この理由については,細胞外液の増加に伴う細胞外pH の低下(代謝性アシドーシス)との関連性が示唆されている。 (本文,図表の引用等については,尿路結石症診療ガイドライン 2013年版の本文をご参照ください。)
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食塩の摂取は,尿中カルシウム排泄量を決める大きな要因のひとつであり,実際に食塩の摂取制限が尿中カルシウム排泄量の減少をきたすことは,すでに多くの報告がある。食塩摂取とシュウ酸カルシウム結石発生との関係についての初めての報告は,Curhan らによる大規模コホート研究の中で述べられている。しかし,一方では否定的な報告も散見されている。これらの結果の違いは,食事調査における食塩摂取量の正確な把握が難しいことを反映していると思われる。1995 年に出されたレビューでは,食塩摂取量が尿中カルシウム排泄量に強い影響を及ぼすことが示唆されている。その後も様々なRCT が行われ,食塩摂取と結石発生リスクの関連性が次第に明らかになってきた。
動物性タンパクと食塩摂取制限
Borghi らは,動物性タンパクと食塩摂取制限が,特発性高カルシウム尿症を合併したシュウ酸カルシウム結石患者の再発予防に寄与するかを検討した。120 名の特発性高カルシウム尿症をもつ男性のシュウ酸カルシウム結石患者に対して,5 年間にわたるRCT を行った。すなわち,120 名を60 名ずつ2 群にわけ,一方に正常カルシウム(30 mmol/day)+動物性タンパク制限(52 g/day)+減塩食(NaCl 換算で50 mmol/day)を供与し,もう一方の群では,カルシウム制限食(10 mmol/day)を供与した。5 年経過した時点で,正常カルシウム+動物性タンパク制限+減塩食群では60 名中12 名で結石の再発を認めた。一方,カルシウム制限食群では,60名中23 名で,結石再発を認めた。両群間の再発率は,正常カルシウム+動物性タンパク制限+減塩食群で有意に低かった(P=0.04)。また,尿中カルシウム排泄量は両群とも治療前に比較して有意に減少したが,尿中シュウ酸排泄量はカルシウム制限群において増加し,正常カルシウム+動物性タンパク制限+減塩食群では減少した。これらの結果より,特発性高カルシウム尿症を合併した再発性シュウ酸カルシウム結石患者において,正常カルシウム投与に動物性タンパクと食塩摂取制限を組み合わせた食事指導は,従来行われてきたカルシウム制限食よりも再発予防として優れているとしている。
食塩摂取制限
さらに最近の報告でも,高カルシウム尿症をもつシュウ酸カルシウム結石患者に対する食塩摂取制限により,尿中カルシウム排泄量を減少させることが証明されている。高カルシウム尿症をもつ特発性カルシウム結石患者210 名(男性:>300 mg Ca/day,女性:>250 mg Ca/day)を無作為に2 群に分け,一方には飲水指導のみ(コントロール群),もう一方には飲水指導+食塩摂取制限(low-salt diet 群)をそれぞれ3 か月間継続した。コントロール群102 名(うち2 名がdrop out),low-salt diet 群108 名(うち11 名がdrop out)がエントリーし,治療開始前を基準値として3 か月後の尿中結石関連物質の変化について検討した。その結果,low-salt diet 群では,コントロール群に比較して尿中ナトリウム排泄量の有意な低下を認めた(p<0.001)。またlow-salt diet 群では,コントロール群に比較して,尿中カルシウム排泄量の有意な低下(271±86 mg/day vs 361±129 mg/day,p<0.001)を認めた。low-salt diet 群では,61.9%の患者で尿中カルシウム排泄量が治療前に比較して正常化したのに対して,コントロール群では34.0%の患者が正常化したにとどまった(p<0.001)。さらに,low-salt diet 群では,治療開始前に比較して尿中シュウ酸排泄量も有意に低下した(p=0.001)。なお,食塩摂取制限に伴う尿中シュウ酸排泄量の低下は,腸管からのシュウ酸吸収を抑制することによると考えられている。
食塩摂取制限と尿路結石再発予防のメカニズム
ところで,食塩が尿中カルシウム排泄増加をきたすメカニズムは,尿細管におけるカルシウムの再吸収抑制によると考えられており,さらに食塩の過剰摂取が,尿中クエン酸排泄量の減少をもきたすといわれている。この理由については,細胞外液の増加に伴う細胞外pH の低下(代謝性アシドーシス)との関連性が示唆されている。
(本文,図表の引用等については,尿路結石症診療ガイドライン 2013年版の本文をご参照ください。)