ステートメント 7(抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡)

CQ/目次項目
ステートメント 7(抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡)
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推奨/回答

出血高危険度の消化器内視鏡において,ワルファリン単独投与またはダビガトラン単独投与の場合はヘパリンと置換する.

推奨の強さ

B:科学的根拠があり,行うよう勧められる

エビデンスの確実性

Ⅴ:記述研究(症例報告やケースシリーズ)

各種薬剤のフローチャートにつきましては、ステートメント1の解説をご参照ください。

科学的根拠は低いレベルの根拠のみであるが,その有益性は害に勝り,臨床的に有用と考えられる.へパリンに変更することを示すエビデンスとしてはⅤ(記述研究(症例報告やケースシリーズ))のものしか示されていない.
ヘパリン置換法
ワルファリンは半減期が 40 時間前後と非常に長く PT-INR2.0~3.0 の場合,PT-INR が 1.5 まで低下するには約 4 日を要する.内視鏡治療 3~5 日前でのワルファリン中止,ヘパリン置換が推奨されている.ヘパリン投与法には様々な方法があるが,静注用未分画ヘパリン 1 日 10,000~20,000 単位の持続静注もしくは皮下注用未分画ヘパリン 10,000~15,000 単位の 12 時間毎皮下注での開始が簡便である.いずれの方法でも早期に目的の APTT に達するように投与量を調節する.ヘパリン起因性血小板減少症にも注意を払う必要がある.静注未分画ヘパリンは術前 3 時間までに中止,皮下注用未分画ヘパリンは術前 6 時間までに中止する.内視鏡治療後止血が確認された後にヘパリンは再開する.経口摂取開始と同時にワルファリンの再開は可能である.内視鏡治療後止血が確認されればワルファリンの再開は可能である.ワルファリンを休薬前と同用量で再開した後,PT-INR が治療域に達したことを確認して,ヘパリンを中止する.ダビガトラン投与の場合は,24~48 時間前までに投与を中止し,中止後 12 時間後からワルファリンの場合と同様のヘパリン置換を行う.内視鏡治療後止血が確認された後にヘパリンまたはダビガトランを再開する.

日本の心原性脳塞栓症の第一原因である非弁膜性心房細動患者における脳梗塞発症の最重要リスクは脳梗塞の既往や一過性脳虚血発作の既往である.それらを有する症例に対して抗凝固療法を行わないと,年間約12%の頻度で脳梗塞を起こすことが知られている.予防的かつ再発防止目的でのワルファリンの投与は有効である.
日本循環器学会が示している「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン」では脳梗塞やTIA(一過性脳虚血発作)の既往のある非弁膜症性心房細動及びうっ血性心不全,高血圧,年齢75 歳以上,糖尿病の中で2 個以上の因子を有している場合にはPT-INR2.0~3.0でのワルファリン療法が根拠をもって有効であるとして勧められている.
ワルファリンの偶発症としては出血が最も重要で,その中でも消化管出血が出血性偶発症の中でも最も頻度が高く重篤な経過をたどる例も多く,ポリペクトミーなど消化器内視鏡の処置の際の出血の危険性も高いことが知られている.
ワルファリン投与中の患者に出血高危険度の消化器内視鏡検査・治療を行う際には出血性偶発症予防のために一定期間中止する必要がある.
出血防止のため出血高危険度の内視鏡治療前にワルファリンを休薬しPT-INR<1.5 を確認する必要がある.米国内視鏡学会のガイドラインや2005 年の日本消化器内視鏡学会ガイドラインでもワルファリン休薬を推奨している.
抗凝固療法が必要な症例では,ワルファリン中断により一定の頻度で重篤な血栓塞栓症を誘発する.非弁膜症性心房細動患者ではPT-INR が2.0 を切ると脳梗塞の発症率が上昇し,PT-INR が1.6 を切ると大梗塞の発症率が上昇する.血栓塞栓症のリスクが高い患者ではワルファリンを休薬し,ヘパリン置換の上で内視鏡治療を行う方法が有用である.
ダビガトランは,2011 年3 月に「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中および全身性塞栓症の発症抑制」を適応症として発売された経口投与可能な直接トロンビン阻害薬で,血液凝固系において中心的な役割を担うトロンビンの酵素活性を直接かつ選択的に阻害することで抗凝固作用を発揮する.本剤では食事指導やPT-INR の定期測定が不要で, 半減期も短いがワルファリンと同等の消化管出血リスクがある.特に1)70歳以上の高齢者,2)腎機能低下症例(CCr 50ml/min 以下),3)消化管出血既往症例,4)マクロライド系抗生剤などのP 糖蛋白阻害薬併用症例では十分に注意する必要がある.

(本文,図表の引用等については,抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインの本文をご参照ください.)

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