ガイドライン解説

前立腺がん検診 Minds版ガイドライン解説

書誌情報
エビデンス[証拠]レベル

表2 証拠のレベル
証拠レベル 主たる研究方法 内容
1++ 無作為化比較対照試験 死亡率減少効果について一致性を認める、質の高い無作為化比較対照試験が複数行われている
系統的総括 死亡率減少効果の有無を示す、質の高いメタ・アナリシス等の系統的総括が行われている
1+ 無作為化比較対照試験 死亡率減少効果について一致性を認める、中等度の質の無作為化比較対照試験が複数行われている
系統的総括 死亡率減少効果の有無を示す、中等度の質のメタ・アナリシス等の系統的総括が行われている
AF組み合わせ 証拠のレベル2++の観察研究により死亡率減少効果が証明されており、さらに無作為化比較対照試験により死亡率減少効果が証明された方法を比較対照とした研究において感度特異度が同等以上であり、Analytic Frameworkにおける一連の研究の組み合わせにより死亡率減少効果がより強く示唆される
1- 無作為化比較対照試験 死亡率減少効果について一致性が認められない、あるいは質の低い無作為化比較対照試験が行われている
系統的総括 死亡率減少効果の有無を示す、質の低いメタ・アナリシス等の系統的総括が行われている
2++ 症例対照研究/コホート研究 死亡率減少効果について一致性を認める、質の高い症例対照研究コホート研究が複数行われている
地域相関研究/時系列研究 死亡率減少効果について質の高い地域相関研究時系列研究が複数行われており、その結果は極めて一致性が高い
2+ 症例対照研究/コホート研究 死亡率減少効果について一致性を認める、中等度の質の症例対照研究コホート研究が複数行われている
地域相関研究/時系列研究 死亡率減少効果について一致性を認める、質の高い地域相関研究時系列研究が複数行われている
AF組み合わせ
1) 死亡率減少効果の有無を示す直接的な証拠はないが、Analytic Frameworkにおける重要な段階で、無作為化比較対照試験が行われており、一連の研究の連係により死亡率減少効果が示唆される
2) 死亡率減少効果の有無を示す直接的な証拠はないが、証拠のレベルが2++の観察研究により死亡率減少効果が認められた検診方法を比較対照とした研究において感度特異度が同等以上であり、死亡率減少効果が示唆される
2- 症例対照研究/コホート研究 死亡率減少効果について一致性が認められない、あるいは質の低い症例対照研究コホート研究が行われている
地域相関研究/時系列研究 死亡率減少効果について一致性が認められない、あるいは質の低い地域相関研究時系列研究が行われている
AF組み合わせ 死亡率減少効果の有無を示す直接的な証拠はないが、Analytic Frameworkを構成する複数の研究がある
その他の研究 横断的な研究、発見率の報告、症例報告など、散発的な報告のみでAnalytic Frameworkを構成する評価が不可能である
専門家の意見 専門家の意見
AF: Analytic Framework
注1) 研究の質については、以下のように定義する。
質の高い研究:バイアスや交絡因子の制御が十分配慮されている研究。
中等度の質の研究:バイアスや交絡因子の制御が相応に配慮されている研究。
質の低い研究:バイアスや交絡因子の制御が不十分である研究。
注2) 系統的総括について、質の高い研究とされるものは無作為化比較対照試験のみを対象とした研究に限定される。
無作為化比較対照試験以外の研究[症例対照研究など]を含んだ系統的総括の研究の質は、中等度以下と判定する。
注3) 各検診方法を評価するための研究において、死亡率減少効果について一致性を認められない場合には、証拠のレベルを下げることを考慮する。
注4) AF組み合わせによる評価を行う場合は、死亡率減少効果の確立した方法を比較対照とし、感度特異度を測定することが原則である。
さらに、以下の条件を満たした場合には、同等の効果があると判断する。
(1)同種の検体を用い、かつ検査の基本的手技が同様であること、(2)死亡率減少効果の確立した方法と比較し、感度特異度の両者が同等以上であること。

ガイドライン作成委員より皆さまへ
がん検診の有効性は、がんの発見率や発見したがん患者の生存率では正確な評価をすることはできません。がん検診の対象となるがんの死亡率の減少が信頼性の高い科学的な方法により証明されることにより、はじめてその効果は証明されます。最も信頼性の高い方法は、無作為化比較対照試験であり、次善の方法としてコホート研究や症例対照研究があります。専門家の意見は参考にはなりますが、必ずしも信頼性の高い情報とは限りません。
 


医学用語解説
エビデンス/証拠
(しょうこ)
医師が患者さんの病気に対する診断や治療を決定するときの「科学的根拠」のことです。通常は多くの患者さんでよく計画された臨床試験を行った結果をいちばん信頼性が高いとみなしますが、すべての疑問に対して信頼できる臨床試験の結果が得られているわけではありません。その場合は、観察や調査を主に行う観察研究などの臨床研究の結果や専門家の意見なども考慮して決定されます。
無作為化比較対照試験
(むさくいかひかくたいしょうしけん)
無作為化比較対照試験[randomized controlled trial: RCT]はスクリーニングの対象となるがんの死亡率が、対照群に比べて検診群で低下するかを検証します。はじめに、がん検診の対象となる検診群[検診を受ける群]と非検診群[検診を受けない群]をランダムに割り付け、両方の受診者の特性を近似させます。さらに、両群を長期にわたって追跡し、そのがんによる死亡率が減少したかどうかを比較検討します。無作為化比較対照試験の結果は最も信頼性が高いとされています。
死亡率減少効果
(しぼうりつげんしょうこうか)
有効ながん検診を行うことにより、対象となるがん死亡率が減少することです。死亡率減少効果が科学的に信頼性の高い方法により証明された場合に、がん検診の有効性が認められます。
地域相関研究
(ちいきそうかんけんきゅう)
異なる地域で、ある要因の頻度[例:検診の受診率]とある健康状態[例:当該がんの死亡率]との関連を分析する研究方法です。例えば、あるがん検診の受診率の高い地域ほど、当該がんの死亡率が低ければ、その検診の死亡率減少効果を示唆する可能性があります。対象となる集団の性別や年齢構成、喫煙状況などの影響を受ける可能性があり、がん検診の効果を検討する場合には慎重に吟味する必要があります。
時系列研究
(じけいれつけんきゅう)
ある集団におけるがん死亡率などの動向について時間の経過を追って観察し、その間に変化するさまざまな要因との関係を検討する研究方法です。例えば、がん検診や新しい治療技術の導入の前後で死亡率が減少していれば、これらの効果を示唆する可能性がありますが、単純にがん検診のみの効果とはいいきれません。同時期に診断や治療が変化した影響もあることから、がん検診の効果を検討する場合には慎重に吟味する必要があります。
系統的総括
(けいとうてきそうかつ)
系統的な方法により一定の条件を満たした研究を収集し、その結果を比較検討した上で結果を統合します。多数の試験のデータを統合して解析するメタ・アナリシスも系統的総括の一つです。
メタ・アナリシス 一つの研究テーマに対して、複数の研究が行われた場合、結果にバラツキが生じることがあるので、複数の研究の中の個々のデータを統合して再解析する統計手法です。再解析に採用するデータは、系統的総括と同様な一定のルールに基づいて信頼できるものに絞ります。そのため、信頼性が高い無作為化比較対照試験のデータをまとめて解析することが勧められます。
AF
(エーエフ)
対象集団の選定、スクリーニングの実施、偶発症の発生、診断、治療、予後、に至るまで、さまざまな関連する解析のための枠組みを図式化したものです。個々の事象に関しての検討課題を列挙し、それに沿って研究データを収集し、評価する検診に関する全体の研究データを集約します。
Analytic Framework
(アナリティック・フレームワーク)
症例対照研究
(しょうれいたいしょうけんきゅう)
症例対照研究は、がんの死亡者[症例群]と現在健康に暮らしている人[対照群]のがん検診の受診歴を比較検討する方法です。対照群は、死亡群と同じ年代や性別であり、死亡群と同じがん検診を受ける機会のあった人が選ばれます。両群について過去にがん検診を受診しているかどうかを調べ、がん検診を受けたことで、そのがんによる死亡率が減少したかどうかを調べます。得られた結果の信頼性は無作為化比較対照試験ほど高くはありません。
コホート研究
(コホートけんきゅう)
ある特性[生活習慣や検診の受診歴など]を持った集団[これを「コホート」といいます]に対して疾患の罹患や死亡などを追跡することによって、その特性と疾患のリスクとの関連を明らかにする研究方法です。例えば、自発的にがん検診を受診した群と受診しなかった群とで、その後の当該がん死亡率を比較します。がん検診のコホート研究としては、受診率の高い集団と低い集団との間で死亡率を比較することが行われています。
横断的な研究
(おうだんてきなけんきゅう)
同時期に多くの人々を対象として、健康状態などの特性を比較検討する方法です。時間の経過による症状の進行状況や予後を調べることはできませんが、病気にかかっている人の割合などを調べることができます。横断的な研究に対して、時間の経過に伴う変化を長期的に調べる方法を縦断的な研究と呼びます。
症例報告
(しょうれいほうこく)
特定の疾患について、症状や経過、治療効果などを調べた研究報告です。まれな病気の患者さん、重篤な病態の患者さんなどに対する知識や経験を積み重ねることを目的としています。
バイアス 調査や測定、分析や解釈の過程で、系統的に真の値から離れた結果が生じる誤りのことです。信頼性の高い結果を出すためには、バイアスを少なくする必要があります。
特異度
(とくいど)
検査の精度を示す指標です。ある検査が、がんのない人を「陰性」と正しく判定する割合のことです。特異度が高いことは、偽陽性が少ないことを意味し、有病率が低い疾患であるがんを対象とした検診の場合では、最も重要な指標です。
感度
(かんど)
検査の精度を示す指標です。ある検査が、がんのある人を「陽性」と正しく判定する割合のことです。感度が高いことは、検査法の見落としが少ないことを意味します。

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