ガイドライン

(旧版)エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン[第1版]

書誌情報
VI:外科治療

 
CQ-23 胆嚢癌を疑う症例に対しては腹腔鏡下胆嚢摘出術ではなく開腹胆嚢摘出術を行うべきか?

胆嚢癌を疑う症例に対して腹腔鏡下胆嚢摘出術は推奨できず,原則的に開腹胆嚢摘出術を行うことが望ましい。(推奨度C1


腹腔鏡下胆嚢摘出術(LC)は胆嚢結石症に対して第一選択となる術式であるが,胆嚢癌疑診例に対してもその適応を拡大する傾向がある1)。しかし,通常のLCでは胆嚢の肝臓側の切除はssの層を露出しながら切除することとなり,病変が筋層を越えていれば切離面に癌が遺残する可能性がある。m-RASss癌が肝臓側にあれば,これも遺残する可能性がある。たとえ肝実質を露出する全層の胆嚢摘出術でもss癌がss深部に及んでいれば露出する可能性がある。LCによって切除可能な範囲はかなり限定されており,少なくとも肝臓側にある病変には行うべきでない。
胆嚢癌に対する腹腔鏡下の根治切除としてリンパ節郭清や胆嚢床を合併切除する術式の報告2)(レベルV)もみられるが,安定した手技が確立されているわけでなく,郭清の精度も不明であり,現段階では推奨できない。
Yehら5)の123例のpolypoid lesionの検討では腫瘍性病変28例中2例(2.1%)のみが10mm未満であり,悪性病変7例全例が15mm以上であった。これらのデータの多変量解析から,10mm以上のpolypが腫瘍性で,15mm以上のpolypが悪性の可能性が高いとしている(レベルIV)。したがって,最大径10mm未満のpolypoid lesionについてLCの適応を考慮してもよいが,10mm以上の大きさの病変では胆嚢癌疑診例として,特に肝臓側に存在する症例に対しては慎重に取り扱う必要がある。
LCを胆嚢癌に適応する場合,胆嚢損傷にともなう胆汁漏出とその結果としてのport site recurrence(PSR)や腹膜再発は重大な問題である。Wakaiら6)は28例の胆嚢癌に対するLC例の検討で25%に胆嚢損傷が起こり,そのうち43%にPSRまたは局所再発をきたし,胆嚢損傷例は生存率が有意に低かったと報告している(レベルIV)。また,Ouchiら7)の調査でも20%に胆嚢穿孔があり,穿孔がなかった症例と比較して有意に予後が不良であったと報告している。この報告では胆嚢穿孔例と非穿孔例の再発率はそれぞれ27%,14%であり,再発率は穿孔例で有意に高かった(レベルIV)。胆汁漏出の結果,腹膜播種をきたして早期死亡した上皮内癌8)およびm癌9)症例の報告もある(レベルV)。
LC後のPSRの発生率は11〜16%6),10),11),12),発症までの期間は6〜10ヵ月10),11),12)と報告されている。PSR発症例の予後は不良であり,全例腹膜播種をともない,生存期間の中央値が19ヵ月であったとの報告がある12)(レベルIV)。PSRの発症率を開腹胆嚢摘出術(OC)施行例の創再発の発生頻度と比較した検討がなされている。それらによると,発症率はLC:OCで15%:6.5%13),11%:4%14)であり,高い頻度でLCに発症すると報告されている(レベルIV)。PSRの発症には術中の胆汁漏出以外に腫瘍の生物学的性質や病期,手術手技さらには気腹圧や炭酸ガスの生体や腫瘍細胞に対する影響などが関与していると考えられている10)
LCの普及と技術の安定化,あるいは新しい手術機器の開発により,胆嚢結石症に対するLCは安全に施行可能である。理論的には早期胆嚢癌(mpまで)はLCが適応となると考えられるが,切除の対象となり得る早期病変(深達度mpまで)の術前診断能は超音波検査,CT,EUSを駆使しても約37%にすぎないと報告されている15)(レベルIV)。さらに,術中胆汁漏出の可能性やPSRの発生頻度を考慮すると,現時点でLCは胆嚢癌疑診例に対して推奨される手術ではない。


引用文献
1) 日本内視鏡外科学会.内視鏡外科手術に関するアンケート調査第7回集計結果報告.日本内視鏡外科学会雑誌.2004;9:475-569.
2) 白部多可史,日比泰造,今井達郎,千葉洋平,鶴田雅士.リンパ節郭清を伴った腹腔鏡下胆嚢癌根治手術.日内視鏡外会誌.2003;8:525-30.
3) 若井俊文,渡辺英伸,味岡洋一,白井良夫,畠山勝義.早期胆嚢癌の肉眼的及び組織学的特徴.消画像.2000;2:11-18.
4) 渡辺五朗,松田正道,橋本雅司.胆嚢癌診療の現状と問題点.消画像.2006;8:155-61.
5) Yeh CN, Jan YY, Chao TC, Chen MF. Laparoscopic cholecystectomy for polypoid lesions of the gallbladder: a clinicopathologic study. Surg Laparosc Endosc Percutan Tech. 2001;11:176-81.
6) Wakai T, Shirai Y, Yokoyama N, Nagakura S, Watanabe H, Hatakeyama K. Early gallbladder carcinoma does not warrant radical resection. Br J Surg. 2001;88:675-8.
7) Ouchi K, Mikuni J, Kakugawa Y. Organizing Committee, The 30th Annual Congress of the Japanese Society of Biliary Surgery. Laparoscopic cholecystectomy for gallbladder carcinoma: results of a Japanese survey of 498 patients. J Hepatobiliary Pancreat Surg. 2002;9:256-60.
8) Wibbenmeyer LA, Wade TP, Chen RC, Meyer RC, Turgeon RP, Andrus CH. Laparoscopic cholecystectomy can disseminate in situ carcinoma of the gallbladder. J Am Coll Surg. 1995;181:504-10.
9) Sano T, Ajiki T, Hirata K, Okazaki T, Fujino Y, Suzuki Y, et al. A recurrent case of an early gallbladder carcinoma after laparoscopic cholecystectomy. Hepatogastroenterology. 2004;51:672-4.
10) Paolucci V, Schaeff B, Schneider M, Gutt C. Tumor seeding following laparoscopy: international survey. World J Surg. 1999;23:989-95.
11) Lundberg O, Kristoffersson A. Port site metastases from gallbladder cancer after laparoscopic cholecystectomy: results of a Swedish survey and review of published reports. Eur J Surg. 1999;165:215-22.
12) Z'graggen K, Birrer S, Maurer CA, Wehrli H, Klaiber C, Baer HU. Incidence of port site recurrence after laparoscopic cholecystectomy for preoperatively unsuspected gallbladder carcinoma. Surgery. 1998;124:831-8.
13) Lundberg O, Kristoffersson A. Open versus laparoscopic cholecystectomy for gallbladder carcinoma. J Hepatobiliary Pancreat Surg. 2001;8:525-9.
14) Whalen GF, Bird I, Tanski W, Russell JC, Clive J. Laparoscopic cholecystectomy does not demonstrably decrease survival of patients with serendipitously treated gallbladder cancer. J Am Coll Surg. 2001;192:189-95.
15) Kokudo N, Makuuchi M, Natori T, Sakamoto Y, Yamamoto J, Seki M, et al. Strategies for surgical treatment of gallbladder carcinoma based on information available before resection. Arch Surg. 2003;138:741-50.


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