ガイドライン

(旧版)大腸癌治療ガイドライン医師用 2010年版

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各論

 

5.化学療法


 2) 切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法



 ・  化学療法を実施しない場合,切除不能と判断された進行再発大腸癌の生存期間中央値(MST:median survival time)は約8カ月と報告されている。最近の化学療法の進歩によって MSTは約2年まで延長してきたが,現状では治癒を望むことは難しい。
 ・  化学療法の目標は腫瘍増大を遅延させて延命と症状コントロールを行うことである。
 ・  PS0~PS2の症例を対象とした第III相試験において,化学療法群は抗がん剤を用いない対症療法(BSC:best supportive care)群よりも有意に生存期間が延長することが示されている105),106),107)
 ・  切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法が奏効して切除可能となることがある。
   補助化学療法における5-FU+LV療法 RPMI法(l-LV 250mg/m²,2時間点滴;5-FU500mg/m²,l-LV開始1時間後に3分以内に緩徐に静注:毎週1回投与,6週連続2週休薬,8週毎に3サイクル繰り返す87)

適応の原則
(1) 臨床診断または病理組織診断が確認されている。
(2) 転移・再発巣が画像にて確認可能である。
(3) performance status(PS)が0~2である。
(4) 主要臓器機能が保たれている。
     1.  骨髄:白血球>3,500/mm³,血小板>100,000/mm³
     2.  肝機能:総ビリルビン<2.0mg/dL,AST/ALT<100IU/L
     3.  腎機能:血清クレアチニン:施設基準値上限以下
(5) 適切なインフォームド・コンセントに基づき患者から文書による同意が得られている。
(6) 重篤な合併症(特に,腸閉塞,下痢,発熱)を有さない。


*: bevacizumabの投与が推奨されるが,投与の適応でないと判断した場合はその限りではない。
**: 一次治療においてbevacizumabを投与していない場合,および一次治療の効果が持続しているがCPT-11やL-OHPの毒性のために投与を中止した場合は,二次治療でbevacizumabの投与が推奨される。
***: 二次治療までに抗EGFR抗体薬を未使用の場合。

一次治療
 ・  臨床試験において有用性が示されており,かつ保険診療として国内で使用可能な一次治療としてのレジメンは以下の通りである。
 ・  cetuximab, panitumumabはKRAS野生型で有用性が示されている。(CQ-16)
(1) FOLFOX療法注1 108),109)±bevacizumab110),CapeOX療法注2±bevacizumab110),111)
(2) FOLFIRI 療法注3 112),113)±bevacizumab114),115)
(3) FOLFOX療法±cetuximab/panitumumab116),117)
(4) FOLFIRI療法±cetuximab/panitumumab118),119)
(5) 5-FU+LV療法注4 120),121)±bevacizumab122),123)または UFT+LV療法124)

二次治療以降
 ・  二次治療以降の化学療法として以下のレジメンを考慮する。(CQ-15)
 ・  cetuximab, panitumumab は KRAS 野生型で有用性が示されている。(CQ-16)
(a) L-OHPを含むレジメンに抵抗性となった場合
(1)FOLFIRI療法112)±bevacizumab
(2)FOLFIRI療法(またはCPT-11単独)±cetuximab/panitumumab125),126)
(b) CPT-11を含むレジメンに抵抗性となった場合
(1)FOLFOX療法112),127)±bevacizumab128), CapeOX療法注2 129)±bevacizumab
(2)CPT-11+cetuximab130)
(c) 5-FU,L-OHP,CPT-11-を含むレジメンに抵抗性となった場合
(1)CPT-11+cetuximab130)
(2)cetuximab/panitumumab単独療法131),132),133),134)


 コメント 

(1) 全身化学療法の適応となる転移部位は肝,肺,リンパ節,腹膜,局所などがある。骨転移,脳転移に対しては緩和的放射線療法の適応を考慮する(「6.放射線療法 2)緩和的放射線療法」)。
(2) 治療実施上の注意点
 ・  PS3~PS4注5,あるいは高度の臓器障害を有する患者は原則的には化学療法の適応外である。あえて化学療法を行う場合はそのリスクについて十分なインフォームド・コンセントを行う必要がある。
 ・  治療前にはPS,バイタルサイン,体重,発熱の有無,自覚症状,血液検査結果,尿検査所見,身体所見等を確認し,異常を認めた場合は治療の延期を考慮する。
 ・  治療継続時には,前項のほか,前回投与時およびその後の経過における治療関連有害事象や腫瘍関連症状等を検討して抗がん剤投与の可否を判断し,また,適宜減量などを考慮する。
 ・  治療コースを繰り返す場合には,蓄積性の有害事象(神経障害,食欲不振,倦怠感,下痢,皮膚障害,味覚障害など)に注意する。必要であれば全治療,あるいは原因となる薬剤を中断して回復を待つ。
 ・  有害事象の評価には有害事象共通用語規準(CTCAE)を用いることが望ましい。
 ・  治療効果は,CT,MRIなどの適切な画像診断を用いて判定する。奏効度の判定には,RECIST(Response Evaluation Criteria In Solid Tumors)ガイドラインを用いることが望ましい。PET による治療効果判定の評価は定まっていない。
 ・  前治療コースで重篤な有害事象が発現した場合でも,一定の基準に回復した後に評価を行い,有効性が期待できれば投与量の減量・投与間隔の延長などの対策を講じて治療を継続することは可能である。
 ・  明らかな病状の進行,重篤な有害事象の発生,患者の拒否のない限り,治療スケジュールを遵守して治療を継続することが望ましい。
 ・  一次治療と二次治療において,5-FU系薬剤,CPT-11,L-OHPの3剤を使うことにより 20カ月以上のMSTが得られるとされる136)
(3) L-OHPを使用する際には蓄積性の神経毒性に留意が必要である。Grade3の神経毒性に至る前までに投与を控えるようにすべきであるが,治療効果が持続している場合には,OPTIMOX-1試験でも示されたように,de Gramont法,sLV5FU2法に切り替えるなどの対応を考慮する。病状が増悪し,神経毒性がGrade1以下に改善すればL-OHPの再導入を考慮する。
(4) CPT-11を使用する際には,Gilbert症候群などの体質性黄疸や血清ビリルビン高値の患者には十分な注意が必要である。本剤の代謝酵素の遺伝子多型と毒性との関係が示唆されている(サイドメモ:抗EGFR抗体薬EGFR免疫染色/CPT-11とUGT1A1遺伝子多型 参照)
(5) 一次治療のL-OHPまたはCPT-11併用療法に耐容性(tolerability)がないと判断される症例に対しては,UFT+LV療法124),137),138),5-FU+LV療法(RPMI法,de Gramont法,sLV5FU2法)を考慮する。bevacizumab投与可能と判断される場合は,5-FU+LV+bevacizumab療法も考慮する122),139)
(6) bevacizumabの併用は,直近の大手術(通常1カ月以内)や動脈血栓塞栓症の既往例(おおむね6カ月以内など)では避けるべきである。
(7) 一次治療におけるcetuximabまたはpanitumumabの国内での使用経験は少なく,安全性に十分配慮する必要がある。
(8) bevacizumab,cetuximabおよびpanitumumabの有効性や安全性を直接比較した結果は報告されておらず,使い分けの明確なコンセンサスは得られていない。
(9) 分子標的治療薬(bevacizumabとcetuximabまたはpanitumumab)の同時併用は, 一次治療例を対象とした2つの第III相試験から毒性増強と効果減弱が示されており140),141), 同時併用は行うべきでない。
(10) KRAS遺伝子変異の検査(PCR法,RFLP法,SSCP法,ダイレクトシークエンス法,等)が保険承認されている。
(11)  肝転移に対する肝動注療法の腫瘍縮小率は高いが,生存期間において全身投与を上回る有効性は示されていない142)血行性転移の治療方針参照)。




 注1  FOLFOX療法   infusional 5-FU+LV+L-OHP。
 注2  CapeOX療法   capecitabine+L-OHP。
 注3  FOLFIRI療法   infusional 5-FU+LV+CPT-11。
 注4  5-FU+LV療法   5-FU+LV療法には,RPMI法(l-LV250mg/m²,2時間点滴;5-FU600mg/m²,l-LV開始1時間後に3分以内に緩徐に静注:毎週1回投与,6週連続2週休薬,8週毎繰り返す120),121)),de Gramont法(l-LV100mg/m²,2時間点滴;5-FU 400mg/m²,l-LV終了直後に静注;5-FU600mg/m²を22時間かけて点滴静注:これを2日間連続して行い,2週毎に繰り返す108)),sLV5FU2法(l-LV200mg/m²,2時間点滴;5-FU400mg/m²,l-LV終了直後に静注;5-FU 2,400~3,000mg/m²を46時間かけて点滴静注:2週毎に繰り返す),AIO法(l-LV250mg/m²,2時間点滴;5-FU 2,600mg/m²を24時間かけて点滴静注:6週連続2週休薬,8週毎繰り返す135))がある。なお,国内で承認されている l型ロイコボリンの投与量は欧米で使用されているdl型ロイコボリンの半量で等量となる。
 注5  PS   ECOGのperformance status(PS)の日本語訳。



この基準は全身状態の指標であり,局所症状で活動性が制限されている場合は,臨床的に判断する。

 

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