ガイドライン

(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

書誌情報
第7章 待機療法

 
CQ1  進行性前立腺癌に対し症状が出現するまで内分泌療法を遅らせることはできるか?

推奨グレード C
進行性前立腺癌に対し症状が出現するまで内分泌療法を遅らせてもよいかどうかの結論は出ていない。

 背 景
進行性前立腺癌に対する内分泌療法の有用性についてはVeterans administration cooperative urological research group(VACURG)によるrandomized controlled trial(RCT)において後述するVACURG Iに引き続き行われたVACURG IIで検討された。この試験では1508名のStage III,IV前立腺癌患者がplacebo群および女性ホルモン投与群(0.2mg,1mg,5mg)の4群に無作為に振分けられた(VACURG II)1)(II)。5mg投与群では心血管系に対する副作用のため試験は打ち切られた。結果は1mgにおいて全体生存率は有意に優れ,進行性前立腺癌患者における内分泌療法の有用性が実証された。0.2mg投与では男性ホルモン抑制は不十分であった。本臨床試験においては先に行われたVACURG Iと異なりplacebo群および女性ホルモン製剤0.2mg投与群においてはできうる限りそのままの治療を継続していたため,即時内分泌療法と無治療の比較になっている。では症状が出現するまで内分泌療法を遅延させた場合はどうであろうか?

 解 説
1973年にVACURGによって施行されたStage III,IVに対するplacebo群と各種内分泌治療群(去勢術,女性ホルモン製剤,去勢術+女性ホルモン製剤)とのRCTが施行された(VACURG I)2)(II)。これは内分泌療法の有用性をplacebo群と比較するのが主な目的であったが,placebo群において進行した際には内分泌療法を施行してもよいことになっており,事実ほとんどの症例で最終的には内分泌療法が施行されている。これは言い変えれば進行性前立腺癌に対する即時および遅延内分泌療法の比較とも言える。女性ホルモン製剤は副作用の問題があるためplacebo群(485名)と去勢術群(469名)との比較が重要となる。結果として全体での生存率に関しては各群間に差は認められなかった。
1997年にMedical research council prostate cancer working party investigators groupは934名の進行前立腺癌患者(M0:500,M1:261,Mx:173)を即時内分泌療法(469名)と待機遅延内分泌療法(465名)に無作為に振分けた3)(II)全体生存率および癌特異的生存率の双方において即時内分泌療法群の方が有意に良好であった。これらの差は主にM0群における生存率の差を反映したものでありM1群においては有意な差は認められなかった。またM0からM1へと進行した時間も待機遅延内分泌療法群においては短く,結論として,著者らは進行性前立腺癌に対する即時内分泌療法の有用性を支持している。
Medical research council(MRC)によるこの結論はVACURG Iによる結論と明らかに異なっており,これらの結果の解釈を巡って大論争が繰り広げられた。WalshはMRCの結果に関し経過観察の方法に問題があったのではないかと指摘しており,これは「待機遅延内分泌療法」ではなく「遅過ぎた内分泌療法」であると批判している4)(IV)。さらにWalshは遅延と即時内分泌療法に関するRCTをすべて取り上げVACURG Iを覆すデータはないとして待機遅延療法の妥当性を主張している5)(I)。この論文に対してもKirkは反論しており即時療法の有用性を再び主張している6)(IV)このように進行性前立腺癌に対する即時および待機遅延内分泌療法の比較に関する決着はついていない。しかし実際の臨床の現場では,進行性の前立腺癌患者さんに対し「治療を今開始してももっと症状がでてから治療しても結局は一緒ですよ」ということの真意を理解してもらうのは容易なことではない。National cancer institute(NCI)の前立腺癌に関するPhysicians data query(PDQ)やEuropean association of urology(EAU)の前立腺癌ガイドライン双方とも待機遅延内分泌療法に関しては局所浸潤性前立腺癌(Stage III)に対する選択肢の一つとして考えられるという記述にとどまっている。


 参考文献
1) Byar DP. Proceedings:The Veterans Administration Cooperative Urological Research Group's studies of cancer of the prostate. Cancer. 1973;32(5):1126-30.
2) Blackard CE, Byar DP, Jordan WP, Jr. Orchiectomy for advanced prostatic carcinoma. A reevaluation. Urology. 1973;1(6):553-60.
3) Immediate versus deferred treatment for advanced prostatic cancer:initial results of the Medical Research Council Trial. The Medical Research Council Prostate Cancer Working Party Investigators Group . Br J Urol. 1997;79(2):235-46.
4) Walsh PC. Immediate versus deferred treatment for advanced prostatic cancer:initial results of the Medical Research Council trial. The Medical Research Council Prostate Cancer Working Party Investigators Group . J Urol. 1997;158(4):1623-4.
5) Walsh PC, DeWeese TL, Eisenberger MA. A structured debate:immediate versus deferred androgen suppression in prostate cancer-evidence for deferred treatment. J Urol. 2001;166(2):508-15;discussion 515-6.
6) Kirk D. Re:A structured debate:immediate versus deferred androgen suppression in prostate cancer--evidence for deferred treatment. J Urol. 2002;167:652, author reply 653.

 

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