ガイドライン

(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

書誌情報
第5章 放射線療法

 
H.全摘除術後の救済放射線療法および補助放射線療法
CQ1  〔全摘除術後救済RTの適応〕前立腺全摘除術後の生化学的再発に対する救済放射線療法開始の適切なタイミングはいつか?

推奨グレード C
前立腺全摘除術後PSA再発に対する救済放射線療法の開始時期は,PSA0.4-0.6ng/mlに設定することが望ましいと考えられるが,タイミングに関して推奨されるだけの明確な根拠はない。

 背 景
前立腺全摘除術後PSA再発に対する救済放射線療法は癌の再発が局所(前立腺床)に限局し,かつ十分な放射線量にて治療された場合に根治が得られるとの想定で行われる治療法である。有効性に関しては多くの報告があり,10-64%の症例で治療効果が認められたと報告されている1),2),3)(III)。しかし,術後に低下したPSAの再上昇が必ずしも前立腺癌の再燃を意味しないことも示唆されており4),放射線療法を開始するPSAカットオフ値の設定自体が困難である。実際,多くの報告がケース・コントロール研究でなされており,適切なタイミング(PSA値)に関しては,単変量または多変量解析により救済放射線治療前のPSA値が,予後因子の一つとして報告されている場合が多い。無作為割付試験の報告はなく,基準に関するエビデンスの高い論文は少ない。

 解 説
2004年までの報告では,放射線治療前のPSA値が1.0ng/mlまたは2.0ng/ml以下で開始した患者群において治療効果が高いことが報告されている。また,Katzらが指摘しているように,一般的に患者群の放射線治療前のPSA値の平均値が低いほど,すなわち再発早期に治療を受けた患者群において治療効果が高い可能性が示唆されている1),2),3)(III)。これらの報告の中では2004年のStephensonらの報告がRetrospective Cohort Studyの形式で行われており,かつ症例数が501名と多く,最もエビデンスレベルが高いと考えられる。同報告において評価された患者群の放射線治療前のPSA値の平均は0.72ng/mlであり,PSA progressionに関する因子を多変量解析で評価した場合,放射線治療前のPSA値1.0ng/ml以下で開始した患者群に比べて2.0ng/ml以上で開始された患者群は有意に予後不良であった。また,放射線治療前のPSAのカットオフ値を0.6ng/mlに設定した場合,0.61-2.0ng/ml,および2.1ng/ml以上のいずれの患者群に対しても有意に予後良好であった3)(III)。術後に低下したPSAが再上昇をきたした場合,どの時点で前立腺癌の再燃とするかであるが,2001年にAmlingらが2,782症例の解析結果を報告している。PSAが0.4ng/mlを超えた場合,約80%の患者においてPSAの更なる上昇を認めるかまたは追加治療を必要としていた。それ以下の数値,例えば0.2-0.29ng/mlにおいては,以後の観察では51%の患者においてPSA progression自体が認められなかったことから,PSA0.4ng/ml以上に設定することを推奨している4)(III)
上記の結果からは,前立腺全摘除術後PSA再発に対する救済放射線療法の開始時期は,PSA値0.4-0.6ng/mlに設定することが望ましいと考えられる。
本邦のデータとしてはEgawaらが,38名の患者(PSA値の平均1.8ng/ml)に対して救済放射線療法を施行し,評価可能であった30症例中11症例で効果を認めたと報告している。同報告において治療前のPSAのカットオフ値を1.0ng/mlに設定し治療効果に関して検討を行っているが有意差は認められていない5)(III)。本邦においては救済放射線療法に関する報告はもとより前立腺全摘除術後のPSA再発の定義に関する報告がいまだ少なく,今後検討すべき課題である。


 参考文献
1) Song DY, Thompson TL, Ramakrishnan V, et al. Salvage radiotherapy for rising or persistent PSA after radical prostatectomy. Urology. 2002;60(2):281-7.
2) Katz MS, Zelefsky MJ, Venkatraman ES, et al. Predictors of Biochemical Outcome With Salvage Conformal Radiotherapy After Radical Prostatectomy for Prostate Cancer. J Clin Oncol. 2003;21:483-9.
3) Stephenson AJ, Shariat SF, Zelefsky MJ, et al. Salvage Radiotherapy for Recurrent Prostate Cancer After Radical Prostatectomy. JAMA. 2004;291(11):1325-32.
4) Amling CL, Bergstralh EJ, Blute ML, Slezak JM, Zincke H. Defining prostate specific antigen progression after radical prostatectomy:what is the most appropriate cut point? J Urol. 2001;165(4):1146-51.
5) Egawa S, Ohori M, Iwamura M, et al. Efficacy and limitations of delayed/salvage radiation therapy after radical prostatectomy. BJU Int. 1999;84(7):815-20.

 

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