ガイドライン

(旧版)前立腺癌診療ガイドライン 2006年版

書誌情報
第4章 外科治療

 
CQ5  T3(stage C)前立腺癌に対して前立腺全摘除術の適応がある。

推奨グレード C
T3前立腺癌に対する前立腺全摘除術はPSA再発をきたしやすいが生存率,QOLなどの観点からこれを禁忌とする理由はない。しかし単独治療の効果には限界もある。

 背景・目的
前立腺癌の最も良い適応はT1c-T2であることが一般となっているが,ハイリスク群に対する問題点は前の項目で概説した。同様にT3前立腺癌に対して同様の疑問がある。この点を検討した。

 解 説
T3癌を前立腺全摘除術の適応とすべきかどうかに関しては疑問視されている。T3癌症例の治療結果についての報告は少ない1),2),3),4),5),6)(III)。前立腺内に限局した癌と比較すると,局所再発の危険も高いとされている。T3癌に対する前立腺全摘除術の効果に限界があるのは7)(IV),リンパ節転移の頻度が増加すること,局所再発あるいは遠隔転移の出現がその主な理由である8)(IV)。このためT3癌に対しては内分泌療法と放射線療法の併用が一般的になってきている7),8)(IV)が,この病期に対する治療法を比較した十分なエビデンスはない。
まずこの病態で問題になるのが病期診断の正しさである。多くの研究は臨床病期T3癌の約15%がoverstagingされているとしている(cT3,pT2)。一方,understagingは約10%であると報告されている(cT3,pT4)2)(III)。Overstageされた症例の経過は良好であり,cT3の中にも治癒の可能性がある症例が存在することを認識すべきであろう。
前立腺全摘除術はPSAが25ng/ml未満の臨床病期T3a症例に対する治療のオプションの1つであるという報告がある5)(III)。別の報告では臨床病期T3症例では,治癒可能な症例もあるが,術前にリンパ節転移や精嚢浸潤のある症例を除外することが重要であり,精嚢浸潤をきたしたpT3b癌の多くは早期に進行する危険性がある6)(III)としている。
この病期の前立腺癌は癌死の危険性を有しており,生存率がエンドポイントとなるとともに,治療法の選択によっては大きくQOLが低下する危険性もある病態である。この病期に対する前立腺全摘除術は,生存率の改善がなければ意味がないかという点に関して,たとえPSA再発をきたしたとしても,遠隔転移のリスクを下げ,内分泌療法によるQOL低下や医療費経済面での負担を軽減する恩恵9)(IV),あるいは局所の尿路閉塞症状,出血タンポナーデなどに対する治療の点でも有益であるという主張もある10)(III)
T3症例の中にも,前立腺全摘除術のみで治癒が期待できる症例があることから,すべての臨床病期T3症例に対しこの治療を拒否することはできない。すでに前項目で記述したように,臨床病期T3に対する外科的治療にあたっては,合併症の程度を許容範囲内にするために十分な外科的技術が要求される。多数例の手術経験により,臨床病期T3に対する手術の合併症が軽減させられることから,広範な局所切除と外科的合併症のバランスを取ることのできる,経験のある泌尿器科医が行うべきであると考えられる11)(II)


 参考文献
1) van den Ouden D, Davidson PJ, Hop W, et al. Radical prostatectomy as a monotherapy for locally advanced(stage T3)prostate cancer. J Urol. 1994;151(3):646-51.
2) Lerner SE, Blute ML, Zincke H. Extended experience with radical prostatectomy for clinical stage T3 prostate cancer:outcome and contemporary morbidity. J Urol. 1995;154(4):1447-52.
3) Di Silverio F, D'Eramo G, Buscarini M, et al. DNA ploidy, Gleason score, pathological stage and serum PSA levels as predictors of disease-free survival in C-D1 prostatic cancer patients submitted to radical retropubic prostatectomy. Eur Urol. 1996;30(3):316-21.
4) Gerber GS, Thisted RA, Chodak GW, et al. Results of radical prostatectomy in men with locally advanced prostate cancer:multi-institutional pooled analysis. Eur Urol. 1997;32(4):385-90.
5) van den Ouden D, Hop WC, Schroder FH. Progression in and survival of patients with locally advanced prostate cancer(T3)treated with radical prostatectomy as monotherapy. J Urol. 1998;160(4):1392-7.
6) van Poppel H, Goethuys H, Callewaert P, et al. Radical prostatectomy can provide a cure for well-selected clinical stage T3 prostate cancer. Eur Urol. 2000;38(4):372-9.
7) Hodgson D, Warde P, Gospodaroxicz M. The management of locally advanced prostate cancer. Urol Oncol. 1998;4:3-12.
8) Fallon B, Williams RD. Current options in the management of clinical stage C prostatic carcinoma. Urol Clin North Am. 1990;17(4):853-66.
9) Coen JJ, Zietman AL, Shipley WU. Prostatectomy or watchful waiting in prostate cancer. N Engl J Med. 2003;348(2):170-1;author reply 170-1.
10) Grimm MO, Kamphausen S, Hugenschmidt H, et al. Clinical outcome of patients with lymph node positive prostate cancer after radical prostatectomy versus androgen deprivation. Eur Urol. 2002;41(6):628-34;discussion 634.
11) Van Poppel H, Collette L, Kirkali Z, et al. Quality control of radical prostatectomy:a feasibility study. Eur J Cancer. 2001;37(7):884-91.

 

書誌情報