ガイドライン

(旧版)急性膵炎診療ガイドライン2010

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第VIII章  急性膵炎の治療

 


11.手術・インターベンション治療


 1)壊死性膵炎

急性膵炎は形態的には浮腫性膵炎と壊死性膵炎に分類される(「第III章用語の定義」の項および「第VI章急性膵炎の診断」の項参照)。浮腫性膵炎は80〜90%を占め, ほとんどの症例は特殊な治療を必要とせず軽快する。壊死性膵炎は10〜20%を占め, その死亡率は14〜25%と報告されている(「第IV章疫学」表IV-7参照)。特に膵壊死組織に細菌感染を合併する感染性膵壊死(infected pancreatic necrosis)では死亡率が高く, 34〜40%165),166)に達する。一方, 細菌感染を認めない非感染性膵壊死(sterile pancreatic necrosis)では死亡率は0〜11%166),167),168)と報告されている。


CQ61 : 感染性膵壊死はどのような場合に疑うか?
臨床症状や血液検査所見の増悪, 血液細菌培養検査陽性, 血中エンドトキシン陽性, CTによる膵および膵周囲のガス像などが, 感染性膵壊死を疑う間接的所見に挙げられる。



CQ62 : 感染性膵壊死の確定診断に最も有用な方法は何か?
感染性膵壊死の確定診断には, FNAによる細菌学的検査が有用である:推奨度A

感染性膵壊死の存在を疑う所見としては, 臨床症状や血液検査所見の増悪, 血液細菌培養検査陽性, 血中エンドトキシン陽性, CTによる膵および膵周囲のガス像の同定などが挙げられるが, これらは感染を示唆する間接的所見に過ぎない。
感染性膵壊死の直接的診断法として確立されているのはCTもしくはUSガイド下に局所の穿刺吸引(fine needle aspiration : FNA)を行い, 細菌学的検査を行う方法である。本法による正診率は89〜100%と高い(レベル2b)169),170)。穿刺経路を適切に選択することにより腸管損傷などの合併症を生じることなく安全に施行できる。
一方, FNA のfalse negative rate は20〜25%との報告や171)FNAの適応, 時期, 回数などのコンセンサスは不十分との報告もある172)



CQ63 : 壊死性膵炎の治療方針は何か?
非感染性膵壊死と感染性膵壊死で治療方針が異なる。



CQ64 : 非感染性膵壊死の治療方針は何か?
非感染性膵壊死では保存的治療が原則である:推奨度B




CQ65 : 感染性膵壊死の治療方針は何か?
感染性膵壊死はインターベンション治療(手術, IVR, 内視鏡治療など)の適応である:推奨度B
ただし全身状態が安定している場合は, 抗菌薬による保存的治療で経過観察することも可能である:推奨度C1

壊死性膵炎に対するインターベンション治療の適応として合意が得られているのは,感染性膵壊死の場合であり,非感染性膵壊死では保存的治療が原則である(レベル5)173),174),175)。非感染性膵壊死の多くは保存的治療により軽快する(レベル2c〜3b)167),172),176),177)が,保存的集中治療を継続しても病態の改善を認めない場合(レベル2c〜3b)178),179),180),181)は手術適応との報告がある。
最近,感染性膵壊死に対する治療方針を再考する報告を多く認める171),182),183),184),185),186)。Runziら183)は,壊死性膵炎88例に対して予防的抗菌薬投与を行ったが,28例がFNAで感染性膵壊死と診断され,細菌培養結果に従って抗菌薬を変更し保存的治療を継続した成績を報告している。28例中12例は局所感染症により感染性膵壊死の診断後平均36日で手術が施行され2例(16.6%)が死亡したが,残りの16例は抗菌薬投与(最長8週間)による保存的治療を完遂し,死亡例は2例(12.5%)であった。その他にも,24例の感染性膵壊死症例中,全身状態の悪化を認めた18例にネクロセクトミーを行い5例が死亡したが(28%),全身状態が安定していた6例には手術を行わず,長期抗菌薬投与を含むICU管理により全例回復したという報告187)や,31例の感染性膵壊死症例に対する初期治療として抗菌薬投与が8例,ドレナージが23例(経皮的18例,内視鏡的5例)に施行され,ドレナージ23例のうち4例が症状の悪化によりネクロセクトミーが必要となったが,抗菌薬投与8例ではさらなる治療は要しなかった。経皮的ドレナージの1例が死亡したが,他の症例は回復したとの報告もある188)
したがって,感染性膵壊死と診断されても,全身状態が安定していれば保存的治療を優先させることが可能である。




CQ66 : 壊死性膵炎に対する手術はどの時期に行うか?
壊死性膵炎に対する早期手術は推奨されない:推奨度D
手術(ネクロセクトミー)を行う場合は可能な限り後期に施行すべきである:推奨度C1

重症急性膵炎では発症早期から重要臓器障害をきたすことから,過去には臓器障害の兆候があれば早期の手術が推奨されていたが,その死亡率は65%に達しており165),早期手術の意義に対しては疑問がもたれてきた171),185),186),189),190),191),192)
重症急性膵炎(壊死性膵炎)に対する手術の時期に関するレトロスペクティブな検討では189),早期手術例では死亡率は39%に対して,後期手術例では12%と有意に低下しており,可能な限り手術を遅らせることが重要であるとしている。早期手術(発症後72時間以内)と後期手術(12日以降)を比較した唯一のRCT190)の成績(膵切除またはネクロセクトミー)では,死亡率はそれぞれ56%と27%であり,統計学的に有意差は得られなかったが,早期手術での死亡率があまりに高いことからこの臨床試験は中止されている。
壊死性膵炎手術56例(necrosectomy with local lavage)を発症12日以内(中央値5日)の早期手術22例と発症12日以降(中央値20日)の後期手術34例に分けてレトロスペクティブに予後因子を多変量解析した成績では,死亡率は早期手術54.5%,後期手術29.4%(p=0.06)であった191)。壊死性膵炎手術53例(necrosectomy with local lavage)を入院後14日以内に行った早期手術群16例と,発症15日から29日までに行った中期手術群11例,30日以降に行った後期手術群26例に分けてレトロスペクティブに検討した結果では,死亡率は早期手術75%,中期手術45%,後期手術8%(p=0.001)であった185)。また,11文献1,136例のシステマテックレビューの結果でも,手術時期が早いほど致死率が高いことも示されている185)
以上より,壊死性膵炎に対するネクロセクトミーは可能な限り後期(発症後3〜4週以降)に施行すべきと考えられる173),192)。その根拠としては,正常膵と壊死に陥った組織との境界が判別しやすく,ネクロセクトミーに伴う出血の軽減や正常膵の不要な摘出が回避できるためである。




CQ67 : 感染性膵壊死に対する適切なインターベンションは?
感染性膵壊死に対して手術を行う場合はネクロセクトミーが推奨される:推奨度A

感染性膵壊死に対する術式は壊死に陥った膵および周囲組織のみをデブリードマン(debridement)するネクロセクトミーおよびドレナージが一般的である。1990年から2005年までの壊死性膵炎167例(感染性膵壊死113例)に施行された,開腹による十分なネクロセクトミーおよび複数本のドレナージチューブを挿入する術式(single-stage debridement with closed packing)の死亡率は,感染性膵壊死で15.0%,非感染性膵壊死で4.4%と良好な成績であり,最近の新しい治療法を評価する際の目安となるとされている171)
最近,様々なアプローチによる,低侵襲な治療が施行されており,従来の開腹術と比較して良好な成績が報告されている193),194),195),196),197),198),199),200),201),202),203),204)。膵臓は後腹膜腔臓器であることから,後腹膜アプローチ(retroperitoneal approach)によるネクロセクトミーを行い,これに局所洗浄法を併用する方法193),194),195)がある。さらに,IVRを応用した治療として,CTガイド下に左側腹部から後腹膜腔に経皮的ドレナージチューブを留置し,その後に瘻孔を拡張して鏡視下に壊死物質除去を行う,経皮的ネクロセクトミーも行われている196),197),198),201)。腹腔鏡で膵および膵周辺の壊死部にアプローチする方法も報告されている202)。また,内視鏡下経胃的ネクロセクトミー(endoscopic transgastric necrosectomy)199),200),205),206),207)など,低侵襲な新しい治療が試みられているが,症例に応じた適切な治療法を選択する必要がある。





CQ68 : ネクロセクトミー後の長期フォローアップは必要か?
ネクロセクトミー後には膵内外分泌機能や胆管・膵管狭窄などの合併症に留意した長期フォローアップが必要である:推奨度A

ネクロセクトミー後の長期予後に関しては,膵内外分泌機能の低下や胆管・膵管狭窄などを併発することが少なくないことが指摘されている208),209),210),211)
ネクロセクトミー後63例の長期予後(経過観察期間の中央値28.9カ月)を検討した成績211)では,39例(62%)に膵機能障害以外の合併症を併発し,うち10例(16%)が外科的または内視鏡的治療を要している。合併症としては,膵液瘻8例,胆道狭窄4例,仮性嚢胞5例などである。なお,膵外分泌機能不全は25%に,糖尿病は33%に発生している。また,ネクロセクトミー後98例の検討212)では,膵頸部や体部の膵管狭窄が原因で14例(14.3%)に再発性膵炎をきたし,膵切除や膵管空腸吻合,仮性嚢胞空腸吻合が必要であった。重症胆石性壊死性膵炎を,ネクロセクトミー施行群12例と非施行群15例に分けて12カ月後の膵内外分泌機能を比較した成績209)では,脂肪便の発生頻度が25%vs. 0%,インスリン補充療法施行例の頻度が33.3% vs. 0%と,ネクロセクトミー施行群で膵機能の有意な低下が示されている。
ネクロセクトミー施行例では,膵内外分泌機能のみならず,膵管狭窄や胆管狭窄の併発に留意して長期にわたる経過観察と合併症に対する適切な治療が必要である。



 2)膵膿瘍


CQ69 : 膵膿瘍の管理はいかにすべきか?
膵膿瘍に対してはドレナージ治療(経皮的ドレナージ, 内視鏡的ドレナージ, 外科的ドレナージ) をすべきである:推奨度B




CQ70 : 膵膿瘍の外科的ドレナージの適応は何か?
経皮的または内視鏡的ドレナージにより臨床所見の改善がみられない場合は, 速やかに外科的ドレナージ術を行うべきである:推奨度B

膵膿瘍は感染性膵壊死とともに手術適応の一つであるが,その大部分が液状の膿汁貯留を本態とすることから,最近では78〜86%の症例が経皮的ドレナージのみで治癒可能であると報告(レベル3b)213),214)されている。画像誘導下に安全な穿刺経路を確保できる場合は,膵膿瘍に対する根治的治療手段として本法が第一選択となる可能性がある。ただし,これらの良好な治療成績はレトロスペクティブな研究に基づくものであり,すべての膵膿瘍を対象としていない点に留意する必要がある。たとえば,Ransonスコアが5点以上の重症例(レベル2b)215)や複数の膿瘍が存在する症例(レベル4)212)を対象とした場合,経皮的ドレナージによる一期的治癒率は30〜47%と低率である。
2003年度の厚生労働省研究班による全国調査では,膵膿瘍と診断された症例の死亡率は23%で,感染性膵壊死と診断された症例の死亡率(25%)とほぼ同等で,決して低くないことが報告されている。これは,膵膿瘍と診断されても,その後,壊死部切除や外科的ドレナージが必要であった症例の予後が不良であり,さらに経皮的ドレナージのみで治療した症例の死亡率も20%と高いことに起因していた216)。この成績は,膵膿瘍の正確な診断が必ずしも容易でないにことに起因していると考えられ,感染性膵壊死が膵膿瘍として治療される危険性が指摘されている217)。したがって,膵膿瘍ドレナージ後にも感染徴候が遷延する場合には,開腹ドレナージ術を行う必要がある218)
なお,ドレナージ法には経皮的ドレナージ以外に,経皮経胃的穿刺ドレナージ219),内視鏡的経胃的ドレナージ200),内視鏡的経乳頭的ドレナージ220),221)も試みられているが,これらの治療法についてはさらなる症例の集積が必要である。


 3)膵仮性嚢胞



CQ71 : 膵仮性嚢胞に対するインターベンションの適応は何か?
有症状, 合併症併発, あるいは嚢胞径の増大を認める膵仮性嚢胞に対してはインターベンション治療を施行すべきである:推奨度A




CQ72 : 膵仮性嚢胞に対するインターベンション治療はどのように選択するか?
膵管との交通, 消化管壁との位置関係などにより, 個々の症例に応じて経皮的ドレナージ,内視鏡的ドレナージ, 外科治療を選択する:推奨度A

膵仮性嚢胞に対するドレナージ治療の適応は,(1)腹痛などの症状を伴うもの,(2)感染や出血などの合併症を生じたもの,(3)経過観察中に増大するもの,(4)長径が6cm以上の大きなもの,(5)6週間以上経過観察を行っても縮小傾向を認めないもの,が挙げられる。このうち(1)〜(3)に対して異論を唱える論文は見当たらない。一方,(4),(5)については"6cm-6 week criteria" として知られているが,絶対的な治療適応ではない(レベル3b〜4)222),223)
膵仮性嚢胞に対する治療法として,経皮的ドレナージ,内視鏡的ドレナージ,外科的ドレナージ(主に内瘻造設術)がある。経皮的ドレナージの治癒率は80〜100%に達することから,外科的ドレナージに代わりうるとする意見(レベル2c〜3b)224),225)がある。しかし,経皮的ドレナージにより仮性嚢胞が一時的に消失しても経過観察中に再発する症例が少なくなく(レベル3b)226),根治率は外科的ドレナージが優るとする意見(レベル3b)227),228)もみられる。唯一のプロスペクティブな比較対照研究(レベル2b)215)では,一期的治癒率は経皮的ドレナージで77%(20/26),外科的ドレナージで69%(18/26)であり,治癒率および再発率には両者間で差を認めないとの結果が示されている。
経皮的ドレナージを試みる際には,その奏効例でのカテーテル留置期間が平均16〜42日と報告(レベル2c〜3b)224),225)されていることから,この期間を過ぎてもなお改善傾向を認めない場合は,外科治療を考慮すべきである。さらに経皮的ドレナージは膵管の形態が正常なものや,膵管狭窄があっても嚢胞との交通がない場合に効果的であるとされている229)
内視鏡的治療は,経胃的穿刺や経十二指腸的穿刺などの経消化管的穿刺ドレナージ(レベル4)や経乳頭的ドレナージ(レベル4)230),231),232)が可能である。経消化管的穿刺ドレナージは超音波内視鏡ガイドにより,安全に施行できるようになった(レベル4)233)。経乳頭的ドレナージは,嚢胞と膵管に交通のある症例が対象となる。
保存的治療,経皮的ドレナージ,内視鏡的ドレナージにより改善を認めない症例や,感染,出血合併例が外科治療の対象となる。外科治療は,嚢胞消化管吻合(嚢胞胃吻合術や嚢胞空腸吻合術など)による内瘻術,外瘻術,切除術に分類されるが,最近では腹腔鏡下手術も報告されている234)。嚢胞壁が未成熟で吻合に適さない場合などでは外瘻術が,嚢胞が尾側に存在しドレナージが困難な場合には膵尾側と脾臓を含めた切除が選択される235)


 

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