ガイドライン

(旧版)急性膵炎診療ガイドライン2010

書誌情報
第VIII章  急性膵炎の治療

 


8.血液浄化療法



CQ54 : CHDFは重症急性膵炎の全身管理に有効か?
十分な初期輸液にもかかわらず,循環動態が不安定で利尿の得られない症例に対しては,CHDFの導入を考慮するべきである: 推奨度B
重症急性膵炎発症早期のCHDFは,多臓器不全への進展を防止する可能性がある:推奨度C1


1)血液浄化療法総論

重症急性膵炎では乏尿/無尿を呈したり,急性腎不全を合併する場合が多く,これらの症例に対しては,人工腎としての機能をもつ,血液透析(hemodialysis:HD),持続的血液濾過(continuous hemofiltration : CHF),持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration : CHDF)が用いられてきた。また,膵炎の病態を増悪させうる病因物質除去効果を期待して古くから施行されてきた腹膜灌流(peritoneal lavage : PL)や血漿交換(plasma exchange : PE)に代わり,今日ではCHF/CHDFが応用されるようになった。臓器不全予防対策としてのCHDFはその有効性を示すレベル4の研究が集積されており103),104),保険診療上,重症急性膵炎に対する持続緩徐式血液濾過術として認可されている。しかし,今日までにこれらの有効性を検討したRCTは行われていない。
平成10年度の厚生省研究班の重症急性膵炎に対する血液浄化法の施行状況,効果についての調査(レベル4)105)では本邦における血液浄化法はCHDFが最も多く行われおり,急性膵炎発症から3日以内に血液浄化法を開始した群では4日以降に開始した群に比し,死亡率が有意に低い結果(15/48,31.3% vs. 23/42,54.8%,p<0.001)が示された。一方,血液浄化法早期施行例においてもその効果は満足できるものではなく,特に感染性膵壊死例における死亡率は80%を超えており,血液浄化法が重症感染症を予防するものではないことも述べられている。いずれにせよ,この調査はレトロスペクティブであり,施行された血液浄化法の適応,開始のタイミング,施行期間,使用された血液浄化器の素材,いずれも一定ではなく,その効果の実態を導き出せるものではない。しかし,十分な輸液にもかかわらず,循環動態が不安定で利尿の得られない症例に対しては,CHDFの導入を考慮すべきである。


2)CHDFによる病因物質除去効果について

平成11年度厚生省特定疾患対策研究事業におけるpolymethyl methacrylate(PMMA)膜の血液濾過器を用いたCHDFに関する研究は(レベル4)104),重症急性膵炎診断基準をCHDFの開始基準として臓器不全発症以前にCHDFを開始できるタイミングでICUに入室できた群(重症急性膵炎の確定診断からCHDF開始まで0.7±1.0日)とICU入室時にすでに臓器不全を発症していた群(CHDF開始まで5.8±8.7日)の2群間で多臓器不全発症率,救命率を比較したものである。この結果,救命率に関して有意差はなかったものの(12/12,100% vs. 10/11,91%,NS),いずれの群も速やかなサイトカインの低下が認められ,臓器不全発症以前にCHDFを開始できた群において有意に多臓器不全の発症率が低かった(1/12,8% vs. 7/11,64%,p<0.01)。しかし,この研究もレトロスペクティブな検討であり,比較した2群間の重症度が不均一な可能性があるため,CHDFの臓器不全予防効果を示すには今後,プロスペクティブな検討が必要である。したがって現在のところ,病因物質除去効果を期待した臓器不全予防対策としてのCHDFは重症例におけるオプションとの位置づけである。
中国における重症急性膵炎に対する血液濾過のメタアナリシスでは発症早期に短時間の血液濾過を繰り返す方法(repeated or intermittent short-term veno-venous hemofiltration : RSVVH/ISVVH)により通常の治療に比し,高い救命率が得られ(RR=0.35 ; 95%CI=0.17~0.74)(レベル1a-)106),対費用効果も良好との結果が報告されている(レベル1a-)107)


3)血漿交換療法(PE)

PEは他の血液浄化法では除去できない高分子量物質を血漿製剤で置換できるという特徴をもっており,高脂血症を伴う急性膵炎において中性脂肪の速やかな低下と臨床症状の改善が報告(レベル4)108)されている。しかし,その開始時期や臓器不全予防効果については質の高いエビデンスがなく,血清triglyceride>1,000mg/dLを示す高脂血症を伴う急性膵炎に対してPEを導入する以前の治療法とPE導入以後の治療法の転帰を比較した検討(レベル4)109)では臓器障害等の合併症発症率(6/34,17.6% vs. 11/60,18.3%)や死亡率(2/34,5.9% vs 4/60,6.7%)には有意差は認められなかった。




 

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