ガイドライン

(旧版)急性膵炎診療ガイドライン2010

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第VIII章  急性膵炎の治療

 


2.輸液


CQ40  : 急性膵炎に対する初期輸液はどのように行えばいいのか?
重症例だけでなく,予後因子スコア2点以下の症例においても,炎症に伴う循環血漿量の低下を補うために細胞外液補充液を用いて十分な初期輸液を行うべきである: 推奨度A


健常成人では1日量として1,500~2,000mL(30~40mL/kg)の水分が必要であるが,急性膵炎では2~4倍量(60~160mL/kg)が必要となる。重症例では血管透過性亢進や膠質浸透圧の低下により細胞外液が膵周囲や後腹膜腔,ひいては腹腔・胸腔内にまで漏出し,大量の循環血漿が失われる。これによって引き起こされる急性循環障害が急性膵炎初期の病態を悪化させる一因である。このため発症早期から細胞外液補充液を中心に十分な輸液投与を行い,循環動態を安定させることが重要である。
初期輸液は脈拍数,血圧等を指標とした循環動態の安定(平均動脈圧[拡張期血圧+(収縮期血圧-拡張期血圧)/3]≧65mmHg)と尿量(0.5~1mL/kg/hr以上)の確保を目標になされるべきである。収縮期血圧120mmHg以上,時間尿量1mL/kg以上を目標に循環管理を行った報告(レベル3b) 1) では,旧重症度スコアによる重症例において入院当日(第1病日)に7,787±4,211mL/日(平均±標準偏差),第2病日以後4,000~5,000mL/日,旧重症度スコアによる中等症(現行の重症度スコアでは重症とならない)においても第1病日に4,837±2,280mL/日,第2病日以後2,000~2,500mL/日の輸液を要している。
重症急性膵炎ではその病態が複雑であるが故に熱傷患者に対する輸液公式のようなプロトコールはなく,どのくらいの量の輸液を行うべきか,晶質液と膠質液の割合をどのくらいにするべきかなど,実際的な方法は個々の症例において中心静脈圧,血圧,尿量,ヘマトクリット,血清総蛋白質濃度などを総合的に評価し判断する。
76人の重症急性膵炎患者を対象とした初期輸液の速度に関する質の低いRCT(レベル2b) 2) によると,10~15mL/kg/hrの非常に急速な輸液を長時間(13.5±6.6hr)行い続けることにより循環不全を補正した群(n=36)では,5~10mL/kg/hrの輸液速度で循環不全を補正した群(n=40)と比較し,人工呼吸器装着率(94.4%vs.65.0%),腹部コンパートメント症候群発生率(72.2%vs.32.5%),2週間以内の敗血症発症率(63.9%vs.37.5%)および死亡率(31.6%vs.10.0%)が有意差をもって高かった 2) 。この報告は,たとえ重症急性膵炎であっても急速な輸液を長時間行い続け,過剰輸液となることが予後に悪影響を及ぼすことを示している。初期輸液を行う際には循環動態の評価を繰り返し行い,病態の変化に対応した適切な輸液量となるように適宜輸液速度を調節する必要がある。

 

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