ガイドライン

(旧版)急性膵炎診療ガイドライン2010

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第VII章  急性膵炎の重症度診断

 


4.単一マーカーによる重症度判定

重症度の判定には,単一の検査結果を用いるものと,多因子を組み合わせてスコアリングシステムとして用いるものがある。重症例(重症)の定義については統一されたものはないが,欧米では死亡例あるいは致命的な合併症を併発した症例を重症例とし,本邦でも,死亡例あるいは治療が行われないと死亡する可能性が高い症例を重症例,生存例あるいは保存的療法で軽快した症例を軽症例として解析し,重症度判定基準の作成検討が行われてきた。

1)臨床徴候
CQ32 : 臨床徴候(臨床所見)は急性膵炎の重症度判定にどのように用いられるか?
急性膵炎の臨床徴候は多彩であるので, バイタルサイン, 神経症状, 腹部所見の観察が必要である。
ただし, 臨床徴候が軽度な重症例もあるため, 他因子との複合判定が望ましい。


臨床徴候は多彩で,重症度判定に用いるにはその客観的評価が難しい場合もあるが,ショック,脳神経症状,腹部膨隆(イレウス,腹水),SIRSなどの重要臓器機能不全徴候を示す症例は,重症と判定され,これまで報告された重症度判定基準でも判定因子として用いられている8),9),10),11)
これまでの国際カンファランスやガイドラインにおける検討では,Atlanta symposium(1992)12)では,臓器不全(呼吸,循環,腎不全)がみられれば重症の発作であるとしている。また,United Kingdom guidelines(1998)13)では,clinical assessment(臨床所見)からだけでは信頼できなく,約50%では誤って判定(分類)されると報告し(レベル2b)14),同(2005)でも入院初期24時間の臨床所見では信頼できず,検査所見によって補完されるべきである(推奨度A)としている15)。単一の臨床徴候のみでは重症度判定を行うことはできない。
本邦の厚生労働省重症度判定基準(2008)では,改訂により判定項目の中には臨床徴候(ショック・呼吸不全・乏尿)と検査項目が併記されている(表VII-1A)。


2)血液・尿検査
CQ33 : 重症度判定に血中アミラーゼ,リパーゼは有効か?
血中のアミラーゼ,リパーゼ値は診断に有効であるが,重症度とは相関しない:推奨度D


血中のアミラーゼ,リパーゼ値は急性膵炎の診断には有効である。しかし,測定値の高低や経時的推移は重症度とは相関しない(レベル2b)16),17)。Practice guidelines in Acute Pancreatitis(2006)7)でもアミラーゼ・リパーゼ値の高さは重症度を表さないと記載されている。



CQ34 : 重症度判定で有効な単一のマーカーは何か?
CRP:推奨度A
CRP値は広く利用されている生化学検査の中で単一のマーカーとして有効である。
ただし,発症早期の値は重症度を反映しないこともあり,注意が必要である。


CRPは,重症化の良好な指標といわれている(レベル1c〜2b)18),19),20)。Santorini consensus conference(1999)16),World Congress of Gastroenterology guidelines (2002)21),United Kingdom guidelines(2005)15)でも発症後48時間以降のCRPのcut-off値>15mg/dLを推奨しており,本邦の重症度判定基準(2008)でも予後因子  7  にCRP≧15mg/dLが用いられている(表VII-1A)。さらに,CRPとその他の診断基準を組み合わせれば,より改善されるとの報告(レベル1c)18)もある。ただし,発症から48時間より早期ではCRPは重症度を反映しないこともある7)ので,注意が必要である。


a.Hct(ヘマトクリット値)
血管内脱水による血液濃縮を示すHct高値が重症化予知因子として用いられてきたが,輸液によって直接的に測定値に影響を及ぼす項目として総蛋白や空腹時血糖と同じく予後因子としては不適切である(レベル4)と考えられ22),改訂された厚生労働省重症度判定基準(2008)では,判定項目からは除外された。Practice Guidelines in Acute Pancreatitis(2006)7)では,Hctを入院12時間後と24時間後に測定することで輸液量の評価に使うよう推奨している。


b.ホスホリパーゼA2(PLA2)
重症急性膵炎におけるPLA2値は,発症当日すでに中等症膵炎に比し有意に高値を示し,その上昇程度はアミラーゼやトリプシンよりも高値を示すとの報告(レベル2b)23)がある。さらに,アイソザイムが明らかになり,低分子量分泌型PLA2として,IB型sPLA2(膵液中に存在する消化酵素),IIA型sPLA2(炎症刺激によって種々の細胞で発現誘導される),および高分子量細胞質型PLA2としてcPLA2(細胞質内に存在し,アラキドン酸代謝に関与)が同定され,特にII(IIA)型PLA2値の上昇が著しいとの報告(レベル3b)24)や,SIRS陽性の症例は有意にPLA2が高値を示し,SIRS陽性項目が多いほどPLA2測定値の増加が認められるとの報告(レベル2b)25)がある。このようにPLA2上昇は多臓器不全へとつながる全身臓器の炎症状態を示しているとされているが,測定値と重症度(重症化判定)さらには死亡率との有意な関連は明確になされていない。


3)他の分子マーカー

近年,着目されてきたのがProcalcitonin:PCTである。急性膵炎においては,CRPよりも有効な重症化予知因子との報告がある(レベル5,2b)26),27)。PCTは特に膵感染を予知する有効な因子として報告(レベル2b)されている28)
一連の膵炎の進展過程における,他の炎症マーカー(interleukin-6,8:レベル2b)19),IL-6(レベル5,レベル4)29),30),soluble tumor necrosis factor-receptors(TNF-R)(レベル2b)31),32),顆粒球エラスターゼ(レベル2b)18),33),34),尿中(レベル2b)35),腹水中(レベル1b)36)のTAP(トリプシン活性化ペプチド),その他のマーカー(activation peptide from procarboxypeptidase B(CAPAP)(レベル1b〜4)37),38),methemalbumin39)など)は,重症度により変化し,それぞれの感度,特異度は高く,重症化予知や重症度判定にその有用性が期待されている。
残念ながら, 現在のところこれらの因子はほとんどのものは,測定に時間を要する上に,高額で一般臨床検査としてはまだ使用できず,専門施設での特殊検査となっている。今後の普及が待たれる。


4)肥満
CQ35 : 肥満は急性膵炎の重症化に影響するか?
BMIで評価された極度の肥満(BMI≧30kg/m²)の場合,重症化に影響する:推奨度A
したがって,BMI測定が必要である。Body mass index(BMI)=(体重[kg])/(身長[m])2


欧米の報告では,肥満は急性膵炎の重症化に強く影響する。特にbody mass index(BMI)(体重[kg])/(身長[m])²≧30kg/m²の肥満では,それ未満の症例に比し,重症例,膿瘍形成例,死亡例が有意に多いとの報告(レベル2c〜4)40),41)がある。その理由としては,局所の合併症によるものとしている報告(レベル2b)42)や,特に呼吸器合併症(呼吸不全)を併発しやすいからとしている報告(レベル3b)43)もある。4編のプロスペクティブ研究のメタ分析によると,肥満者の急性膵炎の発症リスクは高く(OR=2.6,95%CI:1.5〜4.6),重症化しやすいが(OR=2.0,95%CI:1.1〜4.6),死亡リスクには影響していない(OR=1.3,95%CI:0.5〜3.6)としている(レベル1a)44)(「第IV章 疫学」の項参照)。World Congress of Gastroenterology guidelines(2002)21),United Kingdom guidelines(2005)15)でも重症化しやすい因子として記載されている。最近では,BMI≧30kg/m²の肥満患者では有意に死亡率が高く,急性膵炎の重症化や全身性炎症性反応(SIR)が起こりやすい傾向にあるとの報告がある(レベル4)45)
1999年の本邦における全国疫学調査の解析(レベル3b)46)によれば,BMI≧30kg/m²は852例中25例と少なく,その死亡例1例は,他群間に有意差を認めないと報告し,その理由として,人種間の肥満のタイプの違いや,極度の肥満の割合の差を述べている。現実に中国でのプロスペクティブ研究でもBMI≧30kg/m²の症例は101例中わずかに2例しか認めず,BMI≧25kg/m²であっても重症膵炎との関連は認められなかった(レベル4)47)




5)画像検査

a.造影CT
CQ36 : 急性膵炎の治療方針決定に造影CTは有用か?
(急性膵炎の治療を行う施設では)急性膵炎の膵不染域の判定や,合併症の診断には造影CTは有用である。
ただし,造影に伴う膵炎や腎機能の増悪やアレルギー反応等の可能性に留意する必要がある。


図VII-3〜図VII-11に造影CT Grade別に症例を呈示する。
膵壊死の有無や炎症性変化の広がりは,種々の合併症,生命予後と密接に関係しており(レベル1b〜3b)48),49),50),正確な診断が必要である。膵の腫大や膵周囲脂肪織への炎症波及,液体貯留,仮性嚢胞,脂肪壊死,原因となる石灰化胆石,石灰化総胆管結石等の所見は単純CTでほぼ評価可能である。しかしながら,重症度判定の際に重要となる膵壊死の診断およびその範囲の評価は単純CTでは困難であり,造影CTが必要である(図III-3)(レベル1c)51)
造影CTの利点としては,膵壊死の描出の他に,外科的処置やドレナージの必要性を検討する際も参考となる。造影CTが浮腫性膵炎と壊死性膵炎を鑑別する最も有用な方法である(図III-3,図VII-7)(レベル1c)51)。ギリシャからの報告では,重症膵炎であっても浮腫性であった場合には早期臓器不全の有無にかかわらず,死亡のリスクは低いとしている(レベル4)52)
膵癌による膵管狭窄あるいは閉塞が原因で発症する急性膵炎では,単純CTでは原因となる腫瘍が見逃される危険性が高く,thin sliceでの造影ダイナミックCTが必要である(図VII-12)(レベル3b〜4)53),54)。造影を行うことで主膵管の拡張の検出率も高くなる。急性膵炎では膵周囲から腸間膜,結腸間膜に出血(血腫)を生じることがある。出血の持続の有無を評価する必要がある場合には造影CTが必要であり,血腫内への造影剤の漏出が認められれば持続出血と診断できる(図VII-13)(レベル3b)55)。また,仮性嚢胞を伴う急性膵炎例では膵周囲動脈に破綻をきたして,仮性嚢胞内外へ出血を伴うことがある(いわゆる仮性動脈瘤)(レベル3b〜4)56),57)。この仮性動脈瘤の診断にも造影CTが有用である(図VII-13,14)。活動性出血や仮性動脈瘤に対しては動脈塞栓術の有用性が報告されている(レベル3b)58),59)。急性膵炎が門脈系(脾静脈,上腸間膜静脈〜門脈)に波及すると門脈血栓症が生じることがある(図VII-15,16)。静脈血栓は必ずしも単純CTで高吸収を示すとは限らないので,正確な診断には造影CTやカラードプラ超音波が必要である(レベル3b〜4)56),60)。門脈血栓が肝内門脈まで広範に進展すると将来的に門脈圧亢進症を生じることがあることも銘記する必要がある。造影CTが急性膵炎を増悪する可能性についてはいくつかの実験的報告があるが,臨床においては十分な検証がなされていない61),62),63),64)。本邦では1976年以降,造影剤は急性膵炎に原則禁忌とされているが,これまで造影剤を使用することで急性膵炎が増悪したとする国内の報告はない。また,海外をみても韓国で一部の造影剤が急性膵炎に原則禁忌とされている他には原則禁忌としている国はない(表VII-4)。
造影剤の使用に関して,当委員会が国内の代表的関連企業へ質問し,回答を得た文書を巻末に参考資料7として掲載した(「参考資料7 CT検査における造影剤の使用に関する企業への質問および回答書」)。
CT所見に基づく重症度評価法としてCT severity index(レベル2b)65)がある。これは予後と密接に関係する膵壊死の有無や壊死範囲,膵周囲の炎症性変化の広がりを組み合わせてスコア化するものである。
狭い範囲の非造影域は,膵実質の浮腫性変化を表すのに対して,広い範囲の非造影域は膵壊死を表す。Atlanta symposium12)では,膵の30%以上の領域あるいは直径3cm以上の造影不良域(造影後のdensityの上昇が30 Hounsfield units未満の領域(レベル1c)51))を膵壊死と定義したが,最近ではこの定義よりも狭い範囲の造影不良域も膵壊死と判断することが多い。しかし,現在のところ,浮腫性変化と狭い範囲の膵壊死の鑑別になる明確な基準はない。
本邦でも松野ら66)が同様の観点から造影CTによる重症度判定法を提唱し,その有用性が報告(レベル2b)され,今回,改訂された厚生労働省重症度判定基準(2008)においてはこの造影CT Grade分類が採用されている(表VII-1B)。厚生労働省重症度判定基準(2008)では造影CT Grade分類は予後因子スコアとは独立しており,造影CTを行わなくても重症判定は可能であり,初期診療において必須ではない。
造影CTを発症後4〜10日目に撮影すると,膵壊死の診断はほぼ100%となる(レベル1b〜2b)48),49),51),67)。しかし,欧米の研究の中にも,入院時(入院後36時間以内,あるいは48時間以内)の造影CTが急性膵炎の重症度診断に有用であることを示したものもある(レベル2b)68),69)。本邦では,重症急性膵炎に対し蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬の膵局所持続動注療法を行うことがガイドラインでも推奨度C1(「第VIII章 9.蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬膵局所動注療法」)となっている。この適応を見極めるためにも実施施設では,入院当日や転送された際に撮影することが多い。また,膵壊死が明瞭となる4日目以降もCTを行うことが多い。
ただし,厚生労働省重症度判定基準(2008)予後因子スコア,APACHE IIスコア(参考資料6参照),Ransonスコア(参考資料4 参照)が高値である症例もしくは何らかの臓器不全を伴う症例には造影CTの施行が望ましい。
なお,造影CTの代替手段として造影MRIが有効であるとの報告(レベル2b)70)もみられ,今後の検討課題の一つとして付記する。


b.胸部X 線写真(図VII-18)
早期の胸水貯留は高度の炎症波及を示唆し,特に左側もしくは両側の胸水貯留が予後と関連するとの報告(レベル2b)71),72),73)がある。



表VII-4 急性膵炎における造影CTの影響に関する報告



 

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