ガイドライン

(旧版)急性膵炎診療ガイドライン2010

書誌情報
第VI章  急性膵炎の診断

 


5.成因診断総論


CQ21 : 急性膵炎の診療において,成因診断は必要か?
急性膵炎と診断された場合には,速やかに成因診断を行う必要がある:推奨度A


急性膵炎との診断が下された場合には,速やかに成因診断,すなわち原因病態の検索を行う必要がある(「第V章1.基本的診療方針」参照)90)



CQ22 : 成因診断の目的は?
成因診断の目的は,原因病態を明らかにすることにより,急性膵炎の治療方針を決定することである。原因病態の治療は,急性膵炎の鎮静化の他,急性膵炎の再発予防のためにも重要である。


胆石性急性膵炎はもちろんのこと,高脂血症,外傷,膵管癒合不全,自己免疫,上皮小体機能亢進症,膵胆道系腫瘍などに伴う場合においても,それぞれの成因ごとに治療法が異なるため,成因診断を速やかに行わなければならない。また,膵癌や膵管内乳頭粘液性腫瘍が急性膵炎の原因である可能性もあるので,膵臓の画像検査も必要である。



CQ23 : 成因診断で最も重要なのは?
胆石性急性膵炎かどうかの診断は,内視鏡的乳頭処置を行うか否かなどの治療方針にも大きく関係するので,最も重要で優先すべき点である。


胆石性急性膵炎で,(1)黄疸の出現,または増悪などの胆道通過障害の遷延を疑う症例,(2)胆管炎合併例,の場合は,緊急の内視鏡的乳頭処置(ERCP/ES)により予後が改善すると報告されており,胆石性急性膵炎かどうかの鑑別は,成因診断の中で治療方針にも関係して最も重要で優先すべき点である。



1)病歴・家族歴の聴取

飲酒歴,胆石症・高脂血症などの既往,ERCP・内視鏡的乳頭処置・手術・薬剤投与など膵炎発症に関与する検査・処置の有無などをチェックする必要がある(「第IV章2. 成因」,「3. 急性膵炎の危険因子」参照)。


2)血液検査

ビリルビン,トランスアミナーゼ(ALT,AST),およびALP値は,胆石性急性膵炎かどうかを鑑別するために,全例で測定すべきである91)。血中中性脂肪値が1000mg/dLを超えていると,高脂血症が成因である可能性が高く,高カルシウム血症を伴う場合には,上皮小体機能亢進症が成因である可能性がある91)。また,血中carbohydrate-deficient transferrin(CDT)濃度と血中トリプシン活性はアルコール性急性膵炎で上昇するため,アルコール性急性膵炎と非アルコール性急性膵炎の鑑別診断に有用である(レベル2b)92)


3)超音波検査

基本的初期治療を開始するとともに,まず,(体外式)超音波検査(以下,超音波検査)を行う。超音波検査は,胆道結石,総胆管拡張など,急性膵炎の成因に関連する異常所見の描出に有用である。


4)CT

成因が明らかではない場合には,膵癌や膵管内乳頭粘液性腫瘍が急性膵炎の原因である可能性もあるので,CTを施行する必要がある。慢性膵炎の急性増悪や外傷性膵炎の場合もCT所見は有用である。


5)MRI/MRCP

MRI/MRCPは,総胆管結石の他,膵管胆道合流異常,膵管癒合不全等を描出し,急性膵炎の成因診断に有用である(レベル4)93),94),95)。MRCP-セクレチンテスト(セクレチン静注により膵外分泌を刺激する前後で,主膵管径,膵液の十二指腸への排出,などを比較する)が,乳頭括約筋の機能不全の診断に有用で(レベル3b)96),特発性膵炎を繰り返す場合の成因診断に有用といわれているが,現在,本邦ではセクレチンが販売されていないため,行うことができない。


6)EUS

EUSは,超音波検査に比して,総胆管結石の描出能が優れている(レベル1b〜2b)97),98),99)。胆道結石の他にも,慢性膵炎,膵癌,膵管内乳頭粘液性腫瘍,膵管胆道合流異常,膵管癒合不全などの診断ができ,急性膵炎の成因診断に有用である(レベル1b〜3b)100),101)


7)ERCP

急性膵炎の診断そのものに対してはERCPは不要である。ERCPは,急性膵炎の成因診断としての膵管,胆道系精査のために,あるいは,胆石性膵炎の内視鏡的治療(ERCP/ES)を前提として行われる。急性膵炎発作時に行うERCPは炎症をさらに悪化させる可能性もあるため,その適応は限定すべきである。British Societyof Gastroenterologyのガイドラインでは,黄疸,肝障害,総胆管拡張を認め総胆管結石の存在が強く疑われる場合や,急性膵炎発作を繰り返す場合(待機的)に,ERCPの施行を勧めている102)。膵炎発作を繰り返す場合には,解剖学的異常(膵管胆道合流異常,膵管癒合不全,副膵管閉塞,long common channel102) など),腫瘍の合併,他の検査では描出不能な総胆管結石などが存在する可能性があり(レベル3b) 103) ,これらの成因鑑別検査としての膵管,胆道系精査のために,待機的にERCPを施行する。


8)遺伝子検査

カチオニックトリプシノーゲン(遺伝子名はprotease,serine type 1:PRSS1),膵分泌性トリプシンインヒビター(遺伝子名はserine protease inhibitor Kazal type 1:SPINK1)などの遺伝子異常で,急性膵炎を発症する,あるいは急性膵炎を発症しやすくなる場合がある。これらの遺伝子検査は,ルーチン検査としては勧められないが,若年発症の場合や家族内に集積性のある場合には,成因診断として行う意味がある91)。ただし,限られた一部の施設でしか検査できない。また,遺伝子異常の検査であるので,倫理的な側面にも留意する必要がある。

 

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