ガイドライン

(旧版)急性膵炎診療ガイドライン2010

書誌情報
第VI章  急性膵炎の診断

 


3.血液・尿検査


CQ13 : 急性膵炎の診断では,どの膵酵素の測定が重要か?
急性膵炎の診断に対する血中リパーゼの測定:推奨度A
血中リパーゼの測定が困難な場合は, 血中アミラーゼ(膵アミラーゼ)を測定する:推奨度A


急性膵炎の診断では,血中の膵酵素上昇を認めることが重要である。多くの場合,迅速な測定が可能で最も普及している血中アミラーゼの上昇により診断が可能であるが,単一の膵酵素値のみを診断の根拠とすることは好ましくなく,それぞれの酵素活性を理解した上で判断することが望ましい。最近のガイドライン16),17),18),19)や,報告20)によれば,感度,特異度から血中リパーゼが血中アミラーゼを凌駕するといわれている(レベル3b,5)。しかし,本邦の緊急検査体制を考慮すると,迅速性の点では血中リパーゼが劣ることが多いことから,これらの報告を踏襲するには限界がある。
現在,血中リパーゼ・アミラーゼ以外に,臨床で測定可能な膵酵素としては,酵素化学的方法によって酵素活性を測定する尿中アミラーゼ,p型アミラーゼ(アミラーゼ・アイソザイム),免疫学的方法によって酵素の抗原量を測定する血中エラスターゼ1,血中トリプシン,血中ホスホリパーゼA2(PLA2),が挙げられる。なお,免疫学的方法による測定は時間を要するため,急性膵炎の診断に対し,これらをルーチンに用いることは困難である。しかし,血中エラスターゼ1は,Latex凝集法による迅速・簡便な測定が臨床的に可能となったことから,今後その普及が期待される。各種膵酵素の急性膵炎診断能を表VI-4,5に示した。
急性膵炎と他疾患との鑑別が問題となる場合,血中リパーゼが血中アミラーゼを含めた他の膵酵素に比べて最も優れている。各種膵酵素の急性膵炎の診断能について比較検討した報告(レベル2a)35)では,血中リパーゼは血中アミラーゼと比較すると感度でほぼ同等であったが,特異度で優っており(表VI-6,7),急性膵炎の診断には血中アミラーゼより血中リパーゼの測定が推奨されている。さらに,血中リパーゼに血中アミラーゼの測定を加えても診断能は改善しなかった35)


1)血中リパーゼ

血中リパーゼは,急性膵炎診断に対する感度86.5~100%,特異度84.7~99.0%と報告され(レベル2a)36),血中アミラーゼと比べて高い感度を示している(レベル2b~3b)23),38),39)表VI-4,5)。血中リパーゼは,異常高値が持続する期間が,血中アミラーゼに比べて長く(レベル2b)40),血中アミラーゼが正常である場合の急性膵炎の診断に有用である。また,血中p型アミラーゼと比較して,ほぼ同等の診断的価値がある(レベル2b)39),アルコール性急性膵炎の診断に対して感度が高く有用(レベル2b)41),とも報告されている。



表VI-4 リパーゼ, 血中アミラーゼ,膵アミラーゼの急性膵炎の診断能

AP : Acute pancreatitis, PPV : Positive Predictive Value, NPV : Negative Predictive Value,
PLR : Positive Likelihood Ratio, NLR : Negative Likelihood Ratio, n.d. : not determined
PLR=Sensitivity/(100-Specificity)
NLR=(100-Sensitivity)/Specificity




 表VI-5 急性膵炎における各種膵酵素の診断能

AP : Acute pancreatitis, PPV : Positive Predictive Value, NPV : Negative Predictive Value, PLR : Positive Likelihood Ratio,
NLR : Negative Likelihood Ratio, AUC : Area Under the Curve




表VI-6 リパーゼ,血中アミラーゼ,p型アミラーゼの急性膵炎の診断能

(文献36より一部改変)




表VI-7 主な血中膵酵素の感度,特異度

(文献37より一部改変)




2)血中アミラーゼ(血中総アミラーゼ)

急性膵炎は,通常,血中アミラーゼ値の上昇を認めることにより診断が可能である。しかし,診断の特異度が低いことによるいくつかの限界も報告されており,特に,併存疾患の有無などに注意を要する。
急性膵炎の診断における血中アミラーゼの感度,特異度は,急性膵炎の診断根拠とそのcut-off値の設定の違いのため報告により一定していない。cut-off値を正常上限とすると感度は91.7~100%,特異度は71.6~97.6%である一方で,cut-off値を高く設定すると特異度は改善されるが感度が低下し,1000IU/Lでは特異度は100%となるが,感度は60.9%と報告(レベル2a~3b)21),22),23),24),25),28),29),30),31),34),36)されている(表VI-4~6)。
血中アミラーゼの感度が低くなる要因として,次の2点に留意しなければならない。(1)アルコール性急性膵炎では,特に慢性膵炎を背景とする場合,血中アミラーゼが上昇しないことが多い(レベル2b)38),42)。(2)血中アミラーゼは,他の膵酵素に比べて,発症後速やかに低下し,異常高値が持続する期間が短いため,発症から来院までの期間が長いと正常化していることがある(レベル3b)43),44)。また,高脂血症を原因とする急性膵炎では血中アミラーゼ値は上昇しにくいことも報告(レベル3b)45)されている。
表VI-8に高アミラーゼ血症をきたす疾患を挙げた。急性膵炎の診断で,特に血中アミラーゼが問題となるのは,膵疾患以外でも異常高値がみられることが多い点である。このため,診断の特異度がしばしば低く報告されている(レベル2a)35)。したがって,急性膵炎の診断においては,前述のような血中アミラーゼの限界をふまえ,鑑別診断の目的をも加味した,膵に特異度の高い,他の膵酵素の測定が必要なことがある。
なお, 血液生化学検査や画像所見で急性膵炎の所見がない場合, 腹水が存在する際は, 腹水中のアミラーゼを測定して急性膵炎と診断することが可能な場合がある。しかし,消化管穿孔例など他疾患でも腹水中アミラーゼが上昇する場合もあり,現時点での有用性は少ない。


表VI-8 高アミラーゼ血症の原因となる病態

(文献42より引用)





3)p型アミラーゼ(アミラーゼ・アイソザイム)

血中p型アミラーゼの測定は,高アミラーゼ血症の鑑別診断に有用である。なかでも,血中アミラーゼの特異度を改善することが期待されるが,急性膵炎の診断そのものに対する有用性は定かでない(表VI-4)。膵疾患以外の高アミラーゼ血症を,血中p型アミラーゼの測定により,83%(19/23例)鑑別できたという報告(レベル4)46)がある一方で,その鑑別能が20~44%であった,という報告(レベル3b)24),25)もあり,評価が一定していない。また,血中アミラーゼに比較して,感度・特異度とも改善しなかったという報告(レベル2b)21)や,異常高値を長期間持続する点で有用である,という報告(レベル3b)47)がある。


4)尿中アミラーゼ

尿中アミラーゼは,かつて急性膵炎の診断に高い感度を示すことが報告(レベル2b)48)された。現在のところ,血中アミラーゼや他の血中膵酵素と比較検討した結果,尿中アミラーゼに優位性はないと報告(レベル2b~3b)49),50)されている。また,単に尿中へのアミラーゼ排出を測定するのみでは,脱水や腎不全の影響を受けるため,クレアチニン・クリアランスに対する比率(amylase creatinine clearance ratio:ACCR)を測定することが合理的であり,急性膵炎に対し特異度が高いとされた(レベル3b)51)。しかし,その後の追試によって,ACCRも決して特異度は高いといえず,急性膵炎の診断に対する有用性は限定的とされている(レベル3b)52),53),54)



5)血中エラスターゼ1

エラスターゼ1は,他の膵酵素に比べ異常高値が最も長期に持続する特徴がある(レベル2b~3b)55),56)。エラスターゼ1の測定は,発症から時間を経て受診した際に有用と考えられるが,一般的には,急性膵炎の診断や重症度判定に付加価値を認めていない(レベル2b)57)。しかし最近,迅速・簡便な測定が臨床的に可能となったことから,感度・特異度などの臨床的有用性がアミラーゼ・リパーゼと遜色ないことも報告されている(表VI-531)



6)その他の血中膵逸脱酵素

トリプシンは急性膵炎発症のkey enzymeであるが,血中においてはプロテアーゼインヒビターにより急速に不活性化されるため,酵素活性を測定することは困難であり,免疫学的方法により抗原量として測定される。急性膵炎に対する血中トリプシン濃度の測定は,高い感度が報告(レベル2b~3b)45),58)されている。血中ホスホリパーゼA2(PLA2)は急性膵炎において著明に上昇し,重症度と相関することが報告されている(レベル3b)59),60)(「第VII章 急性膵炎の重症度診断」の項を参照)。しかし,いずれも免疫学的方法による測定のため,迅速な測定は困難で,実地臨床における急性膵炎の診断に適さない。



7)その他の尿中膵酵素


CQ14 : 今後期待される検査は?
尿中trypsinogen-2 簡易試験紙検査は急性膵炎の診断の迅速化に有望である。


膵酵素であるトリプシン(trypsin)の前駆物質trypsinogen-2は,急性膵炎の発症早期から尿中に排泄される。最近,急性膵炎をより迅速,かつ簡便に診断するために,試験紙状のスティックを用い,尿中trypsinogen-2を約5分で判定可能な手法が報告されている(レベル2b)26),28),29),30),33),34),51)。本法の感度,特異度などを含めたclinical valueは,アミラーゼ・リパーゼと比較して遜色ない(表VI-5)。特に,最近の研究によれば,感度(sensitivity),陰性反応適中度(negative predictive value:NPV)がともに100%と報告され26),32),33),一般臨床医にとって簡便性が高い。また,他の腹部救急疾患との鑑別や,急性膵炎の診断の迅速化に有望である61)。しかし,本邦ではいまだ未承認であるため推奨度の記載を控えた。

 

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