ガイドライン

(旧版)急性膵炎診療ガイドライン2010

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第III章  用語の定義

 
1.急性膵炎(acute pancreatitis)

急性膵炎とは膵臓の急性炎症で,他の隣接する臓器や遠隔臓器にも影響を及ぼし得るものである。なお,慢性膵炎の急性増悪については,それを生じせしめた成因別(アルコール性,胆石性など)の急性膵炎として取り扱うこととした。
臨床的特徴:大多数の急性膵炎は突然発症し,上腹部痛を伴い,種々の腹部所見(軽度の圧痛から反跳痛まで)を伴う。急性膵炎は多くの場合,嘔吐,発熱,頻脈,白血球増加,血中または尿中の膵酵素の上昇を伴う(詳細は「第VI章 急性膵炎の診断」の項を参照)。


2.浮腫性膵炎(edematous pancreatitis)(図III-1)

膵炎では炎症に伴い通常,びまん性または限局性に膵臓は腫大する。炎症の程度が重篤であると壊死を生じるが,壊死を伴わないものを浮腫性膵炎とする。
臨床的特徴:膵の腫大を認めるものの,造影CTで不染域を伴わない膵炎であり,重症度は壊死性膵炎よりも軽症であることが多い。


3.急性浸出液貯留(acute fluid collection)(図III-2)

多くは膵炎の急性期に出現する膵内および膵周囲の浸出液貯留で,前腎傍腔や結腸間膜,腎下極以遠の後腹膜腔にまで進展することもある。また,線維性の壁を有しないことが特徴である5)
臨床的特徴:重症急性膵炎では30〜50%の頻度で急性の浸出液貯留を生じるが,半数以上の症例で自然に消退する(レベル4)8),9)。仮性嚢胞との臨床的な鑑別は嚢胞壁の有無による。急性浸出液貯留は炎症の進展を意味する。胸水,腹水,網嚢腔への液体貯留(腔水症)は炎症に伴う反応性のものであり,急性浸出液貯留とはしない。


4.壊死性膵炎(necrotizing pancreatitis)(図III-3)

膵壊死はびまん性または限局性に膵実質が壊死に陥ったもので,膵周囲や膵外脂肪組織の壊死とは区別されている10),11)。ただし,膵壊死は膵周囲脂肪組織の壊死を伴うことが多い。臨床的には造影CTで膵実質に明らかな造影不良域が認められるものである。しかしながら,近年では,造影不良域すべてが壊死ではなく,特に急性期では造影されない部分でも一時的な虚血のみで可逆的な場合もありうるとされている10),12)
臨床的特徴:膵壊死組織への感染合併の有無で死亡率に著明な差を認めるため(レベル4)13), 感染性か非感染性かの鑑別は重要である。


5.感染性膵壊死(infected pancreatic necrosis)(図III-4)

壊死に陥った膵実質および膵周囲脂肪組織の細菌など感染を合併したものである10)。非感染性膵壊死と鑑別困難なことが少なくなく,感染性膵壊死と診断するためには画像ガイド下の穿刺吸引による細菌培養(fineneedle aspiration:FNA)が必要である。
臨床的特徴:膵壊死組織への感染合併の有無で死亡率に著明な差を認めるため(レベル4)13),壊死に感染を生じた場合の予後は不良とされている(34〜40%)14),15)(詳細は「第VIII章 急性膵炎の治療」の項を参照)。


6.膵仮性嚢胞(pancreatic pseudocyst)(図III-5)

肉芽組織あるいは線維性の壁構造を有し,膵液や壊死組織の融解物の貯留を伴うものである。膵管との交通の有無は問わない。急性膵炎発症後4週以降にみられることが多い。自然に消失することもあるが,長期間にわたって存在することもある。また,感染や出血を合併することもある。
臨床的特徴:急性膵炎の患者では時に仮性嚢胞を触知するが,通常は画像診断で発見される。仮性嚢胞は通常,膵酵素を豊富に含有し,多くの場合,無菌である。


7.膵膿瘍(pancreatic abscess)(図III-6)

膵および膵に隣接した限局性の膿の貯留であるが,内部に膵壊死はないか,あってもごくわずかである。しかし,膵膿瘍は液性成分だけでなく壊死組織を含んでおり,壊死組織の融解によって引き起こされるとの指摘がある10),11)
臨床的特徴:臨床像は様々であるが,多くは感染像を呈する。重症急性膵炎発症後4週以降に生じることが多い。膵膿瘍と感染性膵壊死との鑑別は困難なことが多く,現在では両者の死亡率はほぼ同等であるとされている16)。なお,急性膵炎に対する手術後に発生した膿瘍は術後膵膿瘍とし,保存的治療の経過中に発生したものとは区別すべきである。


8.アルコール性膵炎(alcohol induced pancreatitis, alcoholic pancreatitis)

アルコール摂取を契機に発症する急性膵炎。しかし,定義についての明確な報告はない。その機序として,Oddi括約筋の痙攣や不溶性蛋白栓の沈殿による膵導管の閉塞,膵プロテアーゼの活性化が考えられている。また,遺伝子変異や喫煙も膵炎を惹起させるコファクターとして報告されている17)


9.胆石性膵炎(gallstone induced acute pancreatitis, gallstone pancreatitis)

胆石が原因で起こる急性性膵炎。機序は明らかではないが,胆石が総胆管内から十二指腸に排泄される際,総胆管と膵管を閉塞することによって引き起こされると考えられている。胆汁うっ滞(閉塞性黄疸)の所見を認めることが多い。胆管炎を併発することもある。また,胆泥による胆管や膵管の閉塞や,自然排石後のVater乳頭の浮腫も原因と考えられている18),19)

 

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